日刊SPA!で反響の大きかった2023年の記事をジャンル別に発表してきたが、今回は総合トップ10。初回とランキング発表時の反響をあわせて集計、惜しくもトップ10を逃した記事を順位不同で紹介!(集計期間は2023年1月〜2024年3月。初公開2023年7月27日 記事は取材時の状況) *  *  *

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。

「モスバーガー」を運営するモスフードサービスが苦戦しています。2023年3月期は営業利益が前期比98.8%も減少して4100万円となり、3億1700万円の純損失(前年同期は34億1900万円の純利益)を計上しました。

 売上高は8.4%増加しています。モスバーガーは営業減益となった理由に、仕入価格や人件費の高騰を挙げています。その横で快走を続けているのがマクドナルド。2社の違いはどこにあるのでしょうか。

◆値上げを決行した両社。なぜ業績に差が?

 マクドナルドの2022年12月期の営業利益は前期比2.1%の減少に留まりました。マクドナルドはコスト高に見舞われたものの、ビジネスを健全に成長させるため、一部商品の価格改定を行ったと説明しています。マクドナルドは2022年に2度の値上げを行いました。2023年に入っても強気の値上げを続けています。

 片やモスバーガーは2022年7月に値上げをしました。2023年3月にも値上げを行っています。2社の業績に大きな差が生じている主要因が、値上げ耐性の有無と原価構造にあると考えられます。

 値上げ耐性から先に説明していきましょう。

◆消費者が妥協できる「400円の壁」

 マーケティングリサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した、興味深い調査があります。全国20歳〜69歳の男女を対象とした「価格に関する調査(2023年)」で、ハンバーガーの妥当な価格について調査しています。

 これによると、ハンバーガーの最適価格は307円。妥協価格は400円。この金額程度であれば、買ってもよいと感じる価格です。モスバーガーの主力商品「モスバーガー」は2022年の値上げ前は390円でしたが、2023年3月の値上げで440円となりました。妥協価格を超えています。

 マクドナルドの売れ筋商品の一つ「ダブルチーズバーガー」は400円。ギリギリで妥協価格の範囲内に留まっています。「てりやきマックバーガー」は370円。マクドナルドは度重なる値上げを行いましたが、もともと価格が安かったため、値上げする余地がありました。

◆値上げのタイミングで客数が減少…

 モスバーガーの2023年4月から6月までの前年同月対比の実績において、注目すべきは既存店客数です。

 値上げを行ったのは2023年3月24日でした。4月の客数は前年同月比で97.4%と下回っています。5月は連休の影響もあったのか100%を上回った104.0%だったものの、6月は再び昨対割れ98.7%となりました。ただし、客単価が前年を9.5ポイントも上回っているため、トータルの売上は前年より10.8%も増加しています。

 モスバーガーは、高価格・高品質のブランドを構築して拡大してきました。その中で急速な原材料高が起こり、ハンバーガーという市場において価格転嫁がしづらい水準まですでに達してしまったのです。更にこの高品質というのが、苦しめているポイントでもあります。

◆高品質ゆえ原価率は50%超え

 モスバーガーの2023年3月期の原価率は54.6%。マクドナルドの2022年12月期の原価率は81.7%です。マクドナルドは異常なほど原価が高くなっていますが、これは原価の中に労務費が含まれているため。マクドナルドの材料費とフランチャイズ収入原価は1407億1300万円で、これを材料原価だと仮定すると39.9%となります。

 なお、モスフードサービスは海外事業やハンバーガーショップ以外の飲食店も展開しています。国内モスバーガー事業単体で見ると、2023年3月期の販売実績は667億1300万円、仕入実績は375億1500万円でした。原価率は56.2%で、会社全体の原価率を上回っています。

◆「原価率を改善」するとしているが…

 モスバーガーは、生野菜をすべて国産にするなど、仕入へのこだわりを徹底してきました。それが安心安全、ヘルシーというブランド構築に一役買っていたのです。商品価格が高いのは間違いありませんが、それだけ消費者に還元もしていました。

 その一方で、マクドナルドは徹底的に効率化を図っています。マクドナルドのサプライチェーンマネジメントは世界最高水準にあり、食材の仕入先は250カ所。およそ3000店舗に過不足なく、安定的に供給するという徹底した供給網を築きました。基本的に取り扱う量(買い付ける量)が多いと、価格交渉力が強くなります。巨大な店舗網を築き、それを完璧とも言えるまでにマネジメントすることで、原価率を抑え込んでいます。

 マクドナルドは原価率が低いため、急速な原材料高に見舞われても、ショックを吸収する余地があります。急速な物価高に見舞われた2022年12月期においても、営業利益率が前期比2.1%のマイナスで済んだ理由に、原価率の低さと巧みな値上げが挙げられます。

 モスバーガーは2023年度において、価格改定で原価率を改善すると説明しています。更なる物価高が進むと、追加の値上げが視野に入ります。それが客数にどれだけ影響するのかが、一番のポイントとなるでしょう。

<TEXT/不破聡>



【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界