強い作家性を感じさせるジャームッシュ監督の2作品

強い作家性を感じさせるジャームッシュ監督の2作品

 ジム・ジャームッシュ監督(64)のメジャー・デビュー作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」が日本公開されたのは86年である。同じ年に公開された「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「エイリアン2」などの娯楽ネタてんこ盛りとは対照的な作品で、シンプルな背景に人物のとぼけた個性が浮かび上がり、モノクロ映像も新鮮だった。

 映画取材5年目で、ちょっとストレンジなものにひかれる時期だったこともあり、妙に気持ちにフィットした。以来、この監督には特別な思いがある。そのジャームッシュ作品が時を置かずに公開される。

 26日封切りの「パターソン」は4年ぶりの監督作品だ。田舎町のバス運転手の日常生活は、一見平凡に見えながら、細部をのぞけば意外なほどドラマッチックだ。質素に見える環境も、彼が趣味として書く詩を通すと心をくすぐるユニークな風景に見えてくる。

 主演は「スター・ウォーズ フォースの覚醒」(15年)で知名度を上げたアダム・ドライバーで、静かな演技の端々から心の動きがにじみ出る好演だ。スター・ウォーズの大がかりなプロジェクトとは対照的であろうファミリー的現場を楽しんでいるように見える。

 ジャームッシュ監督自身がこの作品について「ダークでやたらとドラマチックな映画、あるいはアクション志向の作品に対する一種の解毒剤となることを意図している」と語っている。今後も話題作がめじろ押しのドライバーにとっては貴重な箸休め的仕事になったのではないかと思う。

 登場は終盤だが、劇中で格別の存在感を示すのが永瀬正敏だ。監督のメジャー3作目「ミステリー・トレイン」(89年)のメインキャストであった永瀬が文字通りの特別出演を果たしている。ここぞという登場タイミング、作品の方向を決定付ける立ち位置…監督がいかに大切な俳優として扱っているかが分かる。劇中の設定ともリンクしてドライバーのリスペクトの念も伝わってくる。昨年の「64 ロクヨン」での演技に感服したこともあって、ジャームッシュ作品での「特別扱い」がうれしかった。

 翌週9月2日封切りの「ギミー・デンジャー」は、監督の音楽シーンとの交流の深さが実感できるドキュメンタリーだ。

 「トレインスポッティング」(96年)のオープニング・シーンで流れた「ラスト・フォー・ライフ」があまりにも印象的だったイギー・ポップのストゥージズ時代にスポットを当てている。ポップは「デッドマン」(95年)「コーヒー&シガレッツ」(03)と過去2本のジャームッシュ作品に出演していて親交がある。

 監督のインタビューに心を開くポップは70歳にはとても見えない。いたずらっ子のような笑顔がチャーミングだ。だが、さりげなく語られるストゥージズの歩みは、胃が重くなるくらいすさまじい。

 聴衆の期待に過剰に応えようとしてステージで裸でのたうつポップの姿が貴重な資料映像で織り込まれる。痛々しさを通り抜けてすがすがしいほどの迫力。「電撃ネットワーク」の体を張った芸風につながると言ったら的外れだろうか。

 型にはまらない音楽でメインストリームからはじかれ、ドラッグがバンドをむしばむ。それでも生き残ったメンバーはそろってユーモラスに過去を振り返り、後悔はみじんも感じさせない。見終われば、「ロックンロールの極北」(音楽ライター・行川和彦氏)を駆け抜けたストゥージズの潔さが心に残る。

 「パターソン」が描くフィクションのさりげない日常、「ギミー・デンジャー」の非日常的な現実−2作ともに相変わらずの強い作家性を感じさせる一方で、ジャームッシュ監督の振れ幅の大きさも実感できる。      【相原斎】

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