三島由紀夫が自決する前年の1969年5月、東大駒場キャンパスで三島と東大全共闘の公開討論会が行われた。学生たちは「三島を論破して立ち往生させ、舞台の上で切腹させる」と息巻いていた。この年の1月には東大全共闘が占拠していた安田講堂が機動隊によって陥落。1000人超の聴衆が待ち受ける、一歩間違えれば暴動に発展しかねない敵地に乗り込んだ三島は何を語ったのか。この秘蔵映像を基にしたドキュメンタリー映画を製作した豊島圭介監督に聞いた。

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「最初はとんでもない仕事を引き受けてしまったと思いました」

 豊島圭介監督は振り返る。

「とにかく相手が大きすぎる。にわか勉強しても、三島由紀夫も“政治の季節”も、知ろうとすればするほど底がないんです。しかし『この討論会自体を主役に据える』と決めたことで方向性が定まりました」

 今回初公開となる「伝説の討論会」の映像はTBSに保管されていたもの。映画ではその映像の合間に、平野啓一郎、内田樹、小熊英二、瀬戸内寂聴ら識者の解説が入り、討論会で繰り広げられる難解な議論の読み解き方が提示されていく。

 同時に当時登壇していた元東大全共闘や三島の護衛のため聴衆の中に紛れ込んでいた元「楯の会」のメンバーも登場する。年齢を重ね好々爺然としている人もいるが、皆どこかに秘めた凄みを感じさせる。

「討論会で三島と激論を交わす“東大全共闘一の論客”芥正彦さんに『おまえ、その程度(の勉強)で話を聞きに来ているのか?』と詰め寄られた時はへこみましたね。元楯の会の方からは『もう時効だから話すけど、自衛隊の協力を得て実弾演習をしたこともあった』という話も飛び出しました」

 討論中、学生が発言しているときは、三島は目を見開き、たばこ片手にうつむいてジッと反論を考えている。スリリングな議論の応酬は緊迫したボクシングの試合のようだ。討論は途中で「殴り合いになるか!?」と緊張が走る場面もあるが、三島のウイットに富んだ返しで会場に笑いが起こったり、学生たちの純真さが垣間見えるシーンもある。

 SNSで一方的に相手をディスるような今の風潮とは真逆。基本的に双方とも相手に対するリスペクトを持ち、真摯に相手と向き合おうとする熱っぽい姿が印象的だ。

国会の“ゴマカシの会話”とは大違い

「三島の自己演出の部分もあったと思います。討論の最後に三島は学生たちから共闘を問われ、『諸君の熱情は信じます』という言葉を残して会場を後にします。内田樹さんは『三島はあの場所で相手の揚げ足をとろうとか間違いを指摘しようとしていたわけではなく、本気で1000人を説得しようとしていた』とおっしゃっていた。討論のトピックとしては天皇制とか解放区とか現代にも通じる内容ですが、平野啓一郎さんはそれをもっと包括的に『言葉のやりとり』という捉え方をされていた。それで“熱と敬意と言葉”という3つのキーワードが揃ったんです。今の国会の答弁などを聞いていると、コミュニケーション不全に陥っているさましかありません。我々がそれを許してしまっているという問題もあるし、全体的に終わってる感じがする。しかしここには、ああいうゴマカシの会話ではないものがあります」

 最後に……。ナレーションを担当した俳優の東出昌大は三島作品の熱心な読者で、三島原作の舞台で主役を務めたこともあるというのだが、今回の騒動で差し替えるつもりなどはあるのか聞いてみた。

「東出くんよりもっと過激で出ちゃいけない人がたくさん出ていますからね。いまさら彼を代えてる場合じゃないですよ」

 監督はニヤリと笑った。

(取材・文=平川隆一/日刊ゲンダイ)