【芸能記者稼業 血風録】#22

 映画やドラマでは脇役でも、こと不倫に関しては堂々の主役を張ったのが火野正平だった。現在71歳になる火野はNHK―BSで自転車に乗って気ままに旅をする番組に出演中。「人のいい気さくなおじさん」で人気を博し、「この人が昔、そんなに不倫していたの」と想像もつかないが、不倫は火野の代名詞だった。

 火野は渡部建のように自分から積極的に女性を口説くタイプではなく、女性から寄ってきたというほうが正しい。

 火野の不倫が最初に大々的に報じられた相手は女優・小鹿みきだった。火野の正妻は大阪で2人の子供と暮らす中、小鹿と港区のマンションで同棲生活を送っていた。

 私は火野と交流の深かった先輩記者の補佐としていつも同行していた。ある日、取材の約束をしていた家の近くの喫茶店に出かけた。先に来ていた火野と小鹿の様子が違う。深刻に話をしている。中に入れる雰囲気ではなく、近くの席で待った。じきに話は終わると思ったのだが、2人の話はエスカレート。次第に声が大きくなり喧嘩になった。

 なんで揉めているかわからなかったが、「なあ、みきわかってくれよ」と震えるような声で訴える火野の目には涙がたまっていた。小鹿の大きな瞳も涙で潤んでいた。喫茶店に他の客がいるのも気にする様子はない。最終的に話は解決。2人に笑顔が戻っていた。

 その時に感じたことは「火野は人前でも愛する女性の前で涙することができる」だった。実際、火野と付き合った女性は異口同音に「母性本能をくすぐる人。ほうっておけない男なのよ」という言葉がうなずけた。

 小鹿と別れた後も歌手の仁支川峰子とも不倫関係になり、京都から東京に戻る新幹線のグリーン席で手をつないで寝ている姿が写真に撮られるなど堂々としていた。不倫現場は尽きなかったが、どんな報道が出ようと対応の素晴らしさが火野にはあった。

■男からは「面白い」、女性からは「母性本能をくすぐる」

 家から出かける時に直撃にあえば、「京都に行けなくなるよ」と駄々っ子のようにしゃがみ込むこともあれば、「好きにやってよ」と屈託のない笑顔でかわす。連日、直撃するリポーター陣も笑顔でマイクを向けるほどだった。不倫の取材で笑顔が出る。今では考えられない光景があった。

 茶の間で見る人も男性は「面白い男」と評し、女性は「母性本能をくすぐる。好きになっても仕方ないかも」と見ていたと思う。火野は不倫で好感度も上がったとの見方もされた。別れた女性も火野と過ごした時間を「いい思い出」としている。

 渡部のように週刊誌に赤裸々に告白する女性もいない。火野が大事に女性と付き合ってきたかを如実に物語っている。

 1982年には鳳蘭のマネジャーとの間に女の子が誕生するなど事実婚が続いていたのを最後に報道も途絶えているが、どんな生活をしているのか追い掛けるメディアもない。不倫も堂々の殿堂入りだ。  =つづく

(二田一比古/ジャーナリスト)