【2020年上半期ネット炎上事件簿】#1

 言いたいことを言えばいいってもんじゃない。

 お笑いタレントの岡村隆史(49)が舌禍事件を起こしたと聞いて、知人がもらした言葉だ。

 あらためて振り返れば、4月にラジオ放送のなかで「コロナが終息したら絶対面白いことがある」と前置きし、「美人さんがお嬢やります」と続けた。お嬢とは風俗嬢のことを指す。

 美しく、普通なら風俗に「堕ちたり」しない女性がコロナ自粛の影響で収入が減るなどして、やむを得ず短期間ながら風俗に流れてくる。普段なら風俗では出会えない美人とプレーできるのを楽しみにしている。

 岡村は、このように話したのだ。これが女性蔑視、貧困を食い物にする男の本音であると各方面から猛批判され、最終的に謝罪に追い込まれた。

 この発言をめぐっては、ネットでもニュースのコメントやSNSの発信で非難が殺到。深夜ラジオのことだからと擁護する声もあったが、岡村の出演番組の降板を求める声までも次々と上がり、一時はさすがのネット上も騒然とした空気に包まれた。なにしろ、NHKの番組の降板を求める電子署名は、あっという間に1万筆にも及んだのだ。

 とはいえ、深夜ラジオだからという意見にくむべきものがないわけではない。ラジオには、他のメディアと比較して「言論解放区」のような雰囲気が残っている。マニアックな話や内輪話、下ネタに対する許容度も、他に比べればまだまだ高い。

 ラジオはネットの掲示板サイトやSNSに通じる部分がある。そもそも、ファンや興味がある者しか個別の掲示板の閲覧や投稿者のフォローをしないように、ラジオも、もともと番組別に興味がある者や担当者のファンしか聴きに来ない。

 ラジオもネットの掲示板やSNSも、あらかじめ選択のふるいにかけられるのが、基本的な利用のされ方なのである。したがって、しゃべり手や書き手と、聴く側や読む側の距離感が近く、ストレートな物言いになりがちだ。

 つまり、ラジオやネット掲示板、SNSは元来、言いたいことを、言いたいように言うためのサロン的な存在だったのだ。

 しかし、ユーザーやリスナーが増えれば、おのずと社会性を帯びる。「内輪のいつものメンバー」だけであれば共通認識があるから問題とはならないか、いさめられて終わっていたことが、社会常識や倫理観に基づいて断罪されたり、おかしいと指弾されるケースも出てくる。

 実際、掲示板サイトやSNSは、犯罪抑止、リアル社会との軋轢回避からルールを厳しくしたり、監視を強めてきた。ラジオとて一般的な常識を激しく逸脱することはあり得ない。

(井上トシユキ/ITジャーナリスト)