西日本豪雨で注目も 洪水ハザードマップの“落とし穴”と限界

西日本豪雨で注目も 洪水ハザードマップの“落とし穴”と限界

 西日本豪雨は平成に入って最悪の被害をもたらし、死者は150人を超えた。住宅地が大規模冠水した岡山県倉敷市真備町では、倉敷市が作成していた洪水ハザードマップの「洪水浸水想定区域」と被害がおおむね一致。その評価を上げているが、専門家からは「ハザードマップの危険情報はザル。うのみにしたら逃げ遅れる」との声も上がる。一体どういうことなのか。

■問題視すべきは注意喚起されなかった地域

 真備町に深刻な水害を引き起こしたのは河川の決壊だ。地区の東側を高梁川、南側を小田川に囲まれ、その合流地点付近が湾曲していて水が流れにくい。上流側の水位が上昇する「バックウオーター現象」が決壊の原因とみられている。真備町では1972年や76年にも大規模浸水が発生。倉敷市はハザードマップで危険性を呼び掛け、国交省は下流側に合流地点を付け替えて水を流れやすくする工事を計画し、今秋には工事用道路の建設を始める予定だった。

 立命館大学環太平洋文明研究センター教授の高橋学氏(災害リスクマネジメント)はこう言う。

「水害に見舞われた真備町の一帯は東西から山が迫る谷あいで、谷底にある湖のような土地。地理的にも歴史的にも浸水しやすい地域なのは明白で、ハザードマップで危険性を周知するのは当然です。今回の豪雨災害で問題視すべきは、ハザードマップで注意喚起されなかったエリア。高度成長期に人口が急増し、宅地造成が一気に進んだ影響で、災害に弱い地域にも住宅地が広がった。その一方で、地価への悪影響を避けるため、自治体も地域住民も災害リスクの指摘を嫌がるケースが少なくありません。避難場所に指定される学校や公民館などの公共施設は用地買収コストを下げるため、安価な土地に建てられることが多い。つまり、災害リスクが高い。避難場所は本当に安全な立地なのか、そこまでの経路は問題ないのか。非常に矛盾していると言えます」

 土地の値下がりを懸念して、危険でもハザードマップに載らない場所があるということだ。

 静岡大の牛山素行教授(災害情報学)らの調査では、2004〜17年に国内の風水害で死亡・行方不明になった66%が想定区域の「範囲外」で被災していたという。「範囲内」は18%、「範囲の近く」が16%だった。

■地価下落を避け低い精度

 治水政策に詳しい前滋賀県知事の嘉田由紀子氏は本紙のインタビュー(14年9月12日付)で、米国ではハザードマップを参考にした水害保険が運用され、フランスでは過去100年間の水害を反映したハザードマップが不動産取引で重要事項説明になっていると指摘していた。一方、日本では地価や不動産の価値が下がるような情報を積極的に開示したくない心理が働くのか、不動産取引でハザードマップが使用されることはない。それもあって今回、「ハザードマップを知らない」「真剣に見なかった」という人が多数だったのだ。

「ハザードマップの作成は外部コンサルタントや第三者の専門委員会の委託が大半ですが、精度を高めればコストがかかり、危険地域も広がる。それを自治体も住民も歓迎しない。これが日本のハザードマップの限界なのです」(高橋学氏=前出)

 水害に弱い土地は地盤が緩く、地震にも弱いという。イザという場合に「想定外だった」では済まされない。


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