【遺伝子治療薬はここまで来ている】#11

「脊髄性筋萎縮症」(SMA)に対する遺伝子治療薬の解説を続けます。前回は、2種類ある遺伝子治療薬「スピンラザ」(一般名:ヌシネルセン)と「ゾルゲンスマ」のうち、スピンラザについてお話ししました。スピンラザは世界初の核酸医薬品で、価格は1瓶(5ミリリットル)で932万円、最初の1カ月の薬代は3000万円弱という超高額医薬品として注目されました。

 しかし、ゾルゲンスマはそれをはるかにしのぐ現在の最高額医薬品で、1回の投与が約2億3000万円という超ド級の金額なのです。ただし、ゾルゲンスマは国内未承認で、日本国内で使用されることはありません。

 ゾルゲンスマの画期的なところは、まず「一生に一度きりの投与」という点が挙げられます。通常、薬は継続的に使用するものですが、ゾルゲンスマは一度で効果を持続するのです。

 2つ目に、目的としている神経細胞の核まで薬を到達させるのに「ウイルスを用いている」という点で画期的です。簡単にいうと、病気(SMN1遺伝子異常)によって不足したSMNタンパク質を再び体内で作れるようにするため、SMN1遺伝子をウイルスに入れ、そのウイルスを感染させることによって薬を細胞まで運ぶのです。

 遺伝子治療薬は、細胞に薬が運ばれるだけでは効果が発揮されず、細胞の中の核に入って初めて効果が表れます。ウイルスは細胞内に入って遺伝子を核に送るための最適な“運び屋”なので、理にかなっています。薬を運ぶためにウイルスを利用する時代になったというのは、驚異的な科学と医療の進歩を感じざるをえません。

 超高額とはいえ、SMAという短命で治療選択肢の少ない病気と闘っている患者さんが、この画期的な治療薬によって助かっているのは事実です。今後、こういった遺伝子治療薬がさらに増えてくることで、助かる命も増えるでしょう。

(神崎浩孝/医学博士、薬剤師)