再生医療による腰痛治療の治験が昨年5月からスタートしている。日本で初めての試みであり、腰痛における初の根本的治療でもある。この治療を開発した東海大学医学部整形外科准教授の酒井大輔医師に話を聞いた。

 人間の背骨を構成する椎骨と椎骨の間でクッションのような役割を担うのが椎間板だ。これが障害を受けると、腰痛を症状とする椎間板ヘルニア、腰椎変性すべり症、脊柱管狭窄症などさまざまな病気を引き起こす。

「腰痛患者は一説には1000万人ほどいるといわれており、腰痛の相当数が椎間板の障害を起点としています。椎間板の変性が進み、やがてすべったり狭窄したりすると、もう元に戻らず、手術しかなくなる。変性が進みすぎない段階で手を打つべきですが、痛み止めなどの対症療法しかなく、根本的な治療法がありませんでした」

 その状況を打破すべく、酒井医師は長年研究を行ってきた。椎間板は血管がない臓器で、ほかから細胞が入ってこないため再生能力に乏しい。それなら元気な細胞を椎間板に移植し、修復・再生に導けばいいのではないか――。酒井医師は2003年に動物実験を開始。10年には人間を対象にした臨床研究を行った。

「剣道歴13年の当時20歳の女性は椎間板が変性し、痛みで競技が続けられない状況でした。しかし細胞移植で椎間板が再生し、痛みが取れた。自家細胞移植から8年経った現在も、椎間板は健康な状態のままです」

 今回の治験では、米ディスクジェニックス社が開発した細胞治療製品を移植に使っている。免疫の面から見ると自分の細胞を使う方が安全だが、細胞の処理などで手間がかかり費用が高額になる。ディスクジェニックス社の細胞治療製品は、成人ドナーから採取した細胞を大量培養したもので、費用が抑えられる。治験の主な目的は、この細胞治療製品の安全性と有効性を評価することだ。

「大量培養した細胞は椎間板への定着をよくするためにヒアルロン酸と混合しています。これを椎間板の変性した部分へ注射で注入します」

 これまでに行われた動物実験では、画像検査、肉眼像、組織像すべてで投与してから12週間経過後に椎間板に有意な修復が見られている。

「まず炎症が治まり、ゆっくりと修復・再生が始まります。痛みは投与後1カ月くらいで取れますが、さらに組織が修復するには、細胞が定着し、細胞の正常な営みが行われなければならないので、再生の確認には3カ月ほどかかります」

■治験の募集人数は38人

 腰痛に悩んでいる人は、自分もこの再生医療を受けたいと思うだろう。まだ治験が始まったばかりとはいえ、どういう人が対象になるのか?

「腰椎変性すべり症や脊柱管狭窄症など、すでに椎間板が不可逆な段階まで変性が進んでいる場合は、この再生医療は難しい。変性がもっとも進んだ段階を10とすると、7くらいまでは多少の効果が見られるでしょう。好ましくは3〜5のレベルで、薬物治療や運動療法を3カ月間やっても痛みが取れない人、と考えています」

 そもそも加齢で椎間板が障害を受けている人よりも、20〜40代の若い人の方が、効き目がいい可能性もある。治験の募集人数は38人。問い合わせが多数あるものの、さまざまな条件から対象外になる人が多いのが実情だ。

 注射一本の治療で、入院も必要ない。この治療が普通に受けられるようになるのはもう少し先だが、QOL(生活の質)を著しく下げる腰痛を改善する選択肢が新たに登場するのは、腰痛患者にとって喜ばしいことであるのは間違いない。