「周囲と会話のテンポが合わなくなった」――。みのもんた氏(75)がそれを理由にテレビ界引退を決意。みの氏といえば、視聴率男として名を馳せたテレビっ子。「プロ野球ニュース」や「おもいッきりテレビ」などでの軽妙な会話でお茶の間を沸かせてきたのはご存じの通り。そのみの氏の決断に驚きながらも「オレもそうだ」と共感する中高年は多いのではないか。年を取ると会話がかみ合わなくなるのはなぜか?

「超一流のしゃべり手である芸能人らを相手に、75歳まで丁々発止を続けてこられたのは、ある意味異常なことです」

 こう言うのは「認知症対策の新常識」の著者で東京都健康長寿医療センター研究所主任研究員の鈴木宏幸博士(心理学)だ。

■「孤立」を避け、「読み聞かせ」「朗読」に励む

 一般的に神経の伝達速度は年を経るごとに遅くなる。日常生活で脳の老化を実感するのは40〜50代になってからが多いが、脳の神経細胞の減少は20代からはじまっている。個人差はあるが、毎年0・5%程度の脳の神経細胞が失われ脳の判断能力は30歳前後をピークに徐々に衰えていく。

「ただし脳は、脳神経が失われたとしてもダメになるわけではありません。脳は神経細胞同士の信号のやりとりでさまざまな機能を獲得し、新たな刺激により神経細胞同士は神経回路のつながり方を変化させたり、信号の強弱を変化させたりすることで、新たな能力を得ているのです」

 日常の行動を支える知的能力を知能といい、知能にはパッと思いつく、素早く暗算ができるといった「流動性知能」と、長年の経験や学習などによって獲得する「結晶性知能」がある。

「一般的に前者は20代をピークに衰え、後者は70代後半までその知能は上昇していくといわれますが、こうした知能の加齢変化は個人差が大きい。結晶性にしても流動性にしても知能が、ある年齢から一斉に低下するわけでも、誰もが同じような低下の仕方をするわけでもありません。みのもんたさんはテレビに出続けることで、それらがほかの人よりも長く維持できたのだろうと思います」

 実際にみの氏がどのような点で衰えを実感したのかはハッキリしないが、一般の人が会話のテンポが周囲と合わなくなる理由でまず考えられるのは体の衰えだ。

 最近の研究で体の老化は徐々に衰えるのではなく、ある時点で一気に進むことがわかっている。

「生活機能で見た場合、女性は緩やかに年を取りますが、男性の多くは60代で急速に衰えます。それでも2割くらいの男性はすごく元気です。しかし70代後半になると、その2割の男性もやはり急速に衰えてくるのです」

 衰えるのは体だけじゃない。脳の老化は記憶だけでなく、体の動きのズレにも関係する。そのズレが会話のテンポを妨げた可能性もある。

 例えば、久しぶりに体を動かしたとき、「昔はもっと動けた」と感じた経験がある人は多いはずだ。その理由は筋力や体力の低下はもちろんだが、脳の老化で体を動かす信号の伝達速度や強度、筋肉と神経の接続機能などが低下するからだ。

 そのうえ、「運動記憶」まで失われたことで、若い頃と同じように脳から「速く動け」という信号が出ていても、以前と同じように動けない。その結果、「昔はもっと速く動けたのに」と感じる。同じことが会話にも表れたとしても不思議はない。

 さらに、みの氏の場合は妻に先立たれたことも影響しているかもしれない。ある研究では高齢期に抑うつの状態があると流動性・結晶性とも知能の低下がより進行すると報告されている。

 とはいえ、みの氏が会話のテンポが合わなくなったと感じた相手は、テレビに出演する一流芸能人ら。同級生や一般人相手なら十分「おしゃべりな人」でいられるに違いない。しかし、一般の高齢者が周囲と会話のテンポが合わなくなれば、孤立して引きこもったり、刺激のなさから老化が早く進む可能性が高い。避けるにはどうすればいいのか?

「読み聞かせをしている高齢者は元気であることがわかっています。そこで朗読をたくさんしてもらい、その直後に動物など特定のジャンルの言葉を1分間でどれだけ思い出せるかを実験したところ、3カ月後にはその数が向上したという研究結果を得ました。口の筋肉運動の脳へのフィードバックがいい影響を与えたのかもしれませんし、言葉をたくさんしゃべることで脳内での言葉へのアクセスが容易になったのかもしれません」

 読み聞かせや朗読は会話のテンポを維持することにつながりそうだ。

「孤独を感じている人は、しゃべる機能は保てても記憶の機能は悪くなります。一方、孤立している人は記憶だけでなく流暢性がなくなり、しゃべれなくなる。しゃべる機会のない人は、若い人であってもしゃべれなくなります。高齢者は、とにかく人と交わる機会を積極的に持つ努力をするべきです」

 むろん、人と会話するにはさまざまな話題に関心を持つ好奇心が必要だ。

 あなたは大丈夫?