「44歳の妻が大腸がんで他界した時、死んじゃおうかと思いました」

 こう話すのは、横浜正毅さん(59)。今から7年前のことだ。結婚して13年。子供はいないが、おしどり夫婦。さまざまな体の不調を抱える妻に、「俺が良くしてやる」と言って一緒になった相手だった。民間療法などで健康を取り戻した妻だったが、大腸がんから来る痛みを、もともと患っていた子宮内膜症のものだと思っており、がんが分かったときは、打つ手がない状況だった。

 悲しみを癒やすために、横浜さんは死に関する本を読み漁った。その中で興味深いデータに出会った。それはアメリカで余命いくばくもない人を対象に行われたアンケート調査結果。「何をやり残したか?」という質問に、7割の人が「チャレンジしなかったこと」と答えていた。

「チャレンジしなかったことを死の間際に悔いている人はこんなに多い。自分は元気なうちにそれを知ったのだから、今チャレンジしようと思いました。私が死んだり、クヨクヨしていたら妻も悲しむ。笑顔で生きている方が妻もきっと幸せ。そう思ったのも大きかったですね」

「カシオ計算機」「オリンパス光学工業」などで開発・特許関連の仕事に従事してきた横浜さんは、ふと思いついたことを記録するアイデアノートを作っていた。一方で、妻を元気にしたいと、さまざまなセラピーの民間資格を取得していた。

「会社員では、いくら大手企業であってもシングルタスクしか身に付かず、定年退職後はつぶしが利かない。人生100年時代。亡くなった妻のためにも、長く楽しく生きていくには好きなことをやろう、起業しようと考えたのです」

 軌道に乗るまで心配なのはお金。横浜さんは車を手放し、携帯電話を安いものに替え、都内のマンションから千葉の実家へ引っ越し、固定費を徹底して減らした。そして実家にセラピールームを設立し、セラピーをひとつの仕事に、そしてもうひとつ、アイデアノートからヒントを得て新商品を2年かけて開発。今年特許を取得したのが「やわらかゴミ入れ」だ。

 一見、シート。丸めると筒状になり、中にレジ袋を設置して使う。詳細はウェブサイト「やわらかゴミ入れ」(https://yawarakagomiire.yokoserapi.com/)をインターネットで検索してもらうと分かりやすいが、ポイントは「レジ袋を何度も使えてエコ」「柔らかいので隙間にフィット」「レジ袋を取っ手の内側から出せばぶら下げもOK」の3つ。1個1936円。

「第2弾も現在特許出願中。必要なのは、本当に好きな仕事は何かを探し出すこと、次に行動すること。会社員時代より毎日が楽しい。妻も喜んでくれていると思います」