【鑑定士のナイショ話】#43

 古賀春江の《海》は1929(昭和4)年に描かれ、昭和前期の洋画の代名詞でもある。水着姿のモダンガール、飛行船、潜水艦などモンタージュ的に配置され、青を基調に明るい未来へ向かって行くかのような爽やかさもある。「昭和モダニズム」という言葉自体がこの絵から生まれたのではないかと思ってしまう。

 ただこの《海》には、「モダニズム(近代主義)」だけでなく、もうひとつ「シュールレアリスム(超現実主義)」というキーワードがある。構図や題材、色合いにジョルジョ・デ・キリコを連想する人もいるだろう。実際に古賀春江は東郷青児らと超現実主義に傾倒していた。しかし古賀春江はあくまでもファッションとしてのシュールレアリスムであり、それを突き詰める方向にはいかなかった。

 話を重要文化財(以下、重文)に戻すと、洋画の場合はこのように西洋の影響部分をどう評価するかも必要になる。要は検証がいろいろと面倒くさい。重文絵画のうち、日本画に対し、洋画が半分近くと少ないのは、そのあたりの事情もあるのかと思われる。

 そうしたハンディを背負っていたとしても、私としては◎を付けたい。対抗◯としては《窓外の化粧》(1930年)としたい。

 所蔵は神奈川県立近代美術館だが、同館は1951年の日本初の公立美術館であり、戦後の美術館を牽引してきた重要美術館でもある。しかし重文はまだない。ワンツーフィニッシュとなることを期待したい。

(猪羽恵一/本郷美術骨董館 副代表)