【鑑定士のナイショ話】#50

「昭和の重要文化財候補を探せ」として、これまで8人の作家の作品を紹介してきた。最後に松本竣介を登場させたい。竣介は開戦前夜の1940年《都会》という作品で二科展の特待を受賞した。青いトーンで覆われた画面からは都会の静けさとざわめきが聞こえてくるようだ。リリカル(叙情的)な空気感がある。モンタージュを採用した構図はアメリカから帰国し画壇に旋風を起こした野田英夫に感化されたものだが、野田の都会はどこか陽気なアメリカなのに対し、竣介の都会は陰鬱した日本に見える。

 紀元2600年を記念するイベントが目白押しの中、官憲の圧力、戦争の足音、何か不穏な空気を感じ始めていたのは、作者だけではなく、この作品を特待に推薦した審査員たちにもあったのではないだろうか。42年《立てる像》を描いた。《都会》とは全く違う画風だ。リリカルではなくリアルだ。都会の真ん中に立つ自画像であるが、私には尾崎豊が大人たちに反発する青年のようにも見える。同時に古さを感じさせない現代的な絵にも見え、石田徹也(1973―2005年)も連想させる。

 戦時下において多くの画家たちが戦争翼賛画を描かざるを得ない中、これら一連の人物シリーズは、竣介が「抵抗の画家」と呼ばれるゆえんにもなる。それは作品に潜む希望と絶望、抵抗と妥協といった叙情性があるからだ。

 今回は私が推してみたい重文候補として書かせていただきました。

(猪羽恵一/本郷美術骨董館 副代表)