【注目の人 直撃インタビュー】

 星野佳路氏(星野リゾート代表)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、最も打撃を受けているのが観光業だ。4月、5月の訪日外国人数は2900人、1700人といずれも前年比99・9%減だった。昨年4〜6月の国内旅行者数は延べ1億6000万人余と、春休み、GWは観光業にとって書き入れ時。だが今年は駅や空港、高速道路から旅行客の姿が消え、東京五輪は延期された。緊急事態宣言解除後のこれからが正念場だ。日本の観光業を牽引する経営者は、「3密対策」として独自に「マイクロツーリズム」(小さな旅行)を提唱、“近場の魅力”の再発見を訴えている。

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 ――これまでと観光のあり方はどう変わりますか。

 終息まで18カ月間程度と予測していますが、今後、第2波、第3波が来るたびに自粛、緩和、自粛、緩和が繰り返されます。緩和の時にどれくらい需要を取り戻せるかが、観光産業の勝負どころです。日本のインバウンドは4・8兆円、国内旅行27・9兆円の約17%です。日本人の海外旅行の代金は外国で使う費用を含めて約2・3兆円です。4・8兆円がなくなっても日本人の旅行が海外から国内にシフトすれば、2・3兆円戻ってきます。インバウンドを戻そうとするのではなく、国内旅行を戻すのが大事だと思っています。

■7〜8月の最初の緩和期が勝負

 ――コロナで仕事を失い、あるいは給料が下がり、感染が不安でとても旅行どころではないという人もいます。

 どれくらいの方に安心して戻っていただけるか。それが最初の緩和期のこの7〜8月です。まずやらなくてはいけないのが、3密回避です。安心、安全ではない旅行などあり得ません。観光地は十分に感染予防対策をやっているのか、顧客は気にしています。順序としては近場の観光地から旅行客は戻ってきます。そこで「マイクロツーリズム」という新しい商圏をつくるべきだと考えました。日本人のアウトバウンド(海外旅行者数)は2000万人を超え、毎年、最高レベルの旅行に行っていたわけです。それに比べるとマイクロツーリズムは交通費が圧倒的に安い。1、2時間圏内の観光地に行くだけです。交通費を含めて考えると、旅行代金そのものが下がりますから、これまで1泊だったのが2泊したり、年に複数回行ったり、リピーターになるかもしれません。地方自治体が観光産業をサポートしようという動きも出ているので、マイクロツーリズム商圏を意識した観光産業側の戦略も大事になります。

 ――観光業が立ち直らなければ、地方経済に与えるダメージも大きい。

 地方の魅力をその地域の方に再発見してもらう、いい機会だと思っています。高速道路や新幹線がどんどん延び、LCCが発達し、ここ20年、日本人は遠くに旅行に行こうとし過ぎていました。近くにも素晴らしい観光地がたくさんあるのに、近場の魅力を知らない人が多い。マイクロツーリズムを通じて、自分たちが住んでいる地域の周りには、こんなに面白くていい食材があることに気づいて欲しい。そしてプライドを持ってもらう。コロナが終わった後の日本の観光力を高める上で、すごく重要なことです。プライドを持つと、強い観光地になりますす。

 ――東京五輪に合わせて建設されたホテルも数多くあります。

 東京は日本最大の観光地です。巨大な都市であり、多くの魅力があります。美術館、文化、スポーツイベント、劇場、芝居、すべて東京が中心です。インバウンドも増えていましたが、日本人にとっての観光地でもあったわけです。ですから国内の需要を東京に呼び込むべきだと思います。東京周辺には神奈川、千葉、埼玉など、大きな都市があります。人口が多く交通網も発展し、恵まれた場所なので、マイクロツーリズムをやるには一番いい。むしろ工夫がなくては乗り越えられないのは、もっと遠くの地方の観光地です。

地方の県境移動自粛は不必要な規制

 ――かつて誰も経験したことのないピンチに対し、どう対応するべきですか。

 緊急事態宣言で分かったのは、感染者の拡大は都市圏に集中していて地方は心配するほど感染は拡大しませんでした。ですが全国一律に県をまたいだ移動を制限する、不必要な規制があったのではと感じています。例えば青森と岩手、秋田は県境を本当に閉める必要があったのか。第2波、第3波が来た時の緊急事態宣言では、もう少しきめ細かくするべきです。一律で県境を閉じるのはやめて欲しい。ある程度の観光需要がある状況をつくり、マイクロツーリズム商圏を意識できていれば、お互いに「観光しましょうよ」ということになります。9割の需要がなくなったら生き延びられませんが、3割減、4割減で済ませる方法をもっと意識して取り組むべきです。

 ――観光地に旅行者がどっと押し寄せると「3密」になります。

 日本には27・9兆円という巨大な国内旅行需要があります。GWのように皆が同じ日に休めば、密をつくってしまいます。「GWは家にいて下さい」というのを全国でやったものですから、稼ぎを期待していた観光産業にとって大きなマイナスになりました。27・9兆円を365日に分散できれば、密をつくらない観光が可能になります。観光地は混まず、道路は渋滞せず、宿泊費は安くなり、コロナで経済的にマイナスになったとしても、観光全体がリーズナブルになることで維持できます。昔と違い、日本も製造業からサービス業までさまざまな産業があり、テレワークも普及しました。皆で一緒に休む必要もなく、先進国同様、休みを分散する。これがウィズコロナ時代を生き抜いていくひとつの方法だと思っています。

 ――政府が1兆6794億円を投じて旅行代金の約半分を支援する「Go To キャンペーン」についてどう思いますか。

 需要が喚起されるのは良いのですが、予約を取った日が感染拡大の日にあたるかもしれません。そうするとまた自粛期に入ってしまう可能性もあります。果たして全国一律のキャンペーンがいいのかどうか。マイクロツーリズム商圏を意識し、東京や大阪で感染が拡大していても、島根や鳥取など地方で使えるようにする方法もあります。9割の需要とはいかないまでも、首都圏や関西圏から旅行客が来なくても、地域同士だけで6、7割の需要があり、キャンペーンがあって助かったという活用の仕方もあります。

■9割減なら持たないが4割減なら生き延びられる

 ――どれくらいの効果があると見込んでいますか。

 観光産業を下支えしてくれるのは、ありがたいですね。それがなくてはウィズコロナの時代に、せっかく育ててきた地方の観光人材を維持できなくなります。ただ今後は波を打って感染拡大と緩和の期間が来るので、それに合ったキャンペーンのあり方をもう一度考える必要があります。キャンペーンで観光需要を復活させるのではなく、キャンペーンの予算でコロナ期を生き延びるための下支えをしていく。自粛期でも困らないぐらいの需要をマイクロツーリズムでつくり上げる。むしろ緩和期においては、黙っていても市場は自動的に自然に動きますから、そこにキャンペーンを当ててもっと動かそうとするのではなく、各地域、地方の下支えになるような使い方なら、検討に値すると思います。

 ――ここに来て全国的に再び感染者が増加傾向にあります。

 第2波が来た時に観光産業は本当に耐えられるのだろうかと、ひしひしと感じています。9割減の波が2回も3回も来たら持ちません。4割減でも痛いですが、4割なくなっても仕事がある状況をつくる。第1波が落ち着いたころから、そっちに切り替えていった方がいいのではと思い始めました。そういう準備を今から急いですることが大事なのではないかと。それこそ「生き残り策」です。自粛の波が2回、3回来たとしても、3割減、4割減でしのげるような体制をつくっておけば、何とかなる可能性はあります。 

(聞き手=滝口豊/日刊ゲンダイ)

▽ほしの・よしはる 1960年、長野県軽井沢町生まれ。慶応大経済学部卒。米コーネル大ホテル経営大学院でMBA取得。88年家業の星野温泉に入社するも翌年退社。91年星野温泉に再び入社し、代表に就任。