今回の記録的な豪雨により、広い範囲で家屋の浸水被害が出ている。途方に暮れている人は多いだろうが、元の生活を取り戻すにはしばらく時間がかかる。無理のないペースで清掃作業をするには、どんな手順を踏んだらいいのか。台風シーズンを控え、都市部の住人も他人事ではない。

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「お風呂場まで泥水に漬かってしまった」「家具や家電が水でずぶ濡れ」「何から手をつけていいのか分からない」

■どうせ長期戦「頑張り過ぎない」

 水害被災地からは、こんな声が多数上がっている。すでに一部で復旧作業は始まっているが、元の生活を取り戻すまでには長期戦の覚悟が必要。過去の水害では、被害の軽い場合でも家の後片付けに1カ月、甚大であれば1年以上も要した。

「まずは慌てないことです。がんばり過ぎず、後片付けを手伝ってくれるボランティアの方々などに遠慮なく助けを求めましょう。今は他人の力を借りてもいいのです」

 こう話すのは、水害後の生活再建の手引をまとめた「震災がつなぐ全国ネットワーク」の松山文紀事務局長。同組織は阪神・淡路大震災以降に被災地で支援活動を行ってきたNPOやボランティア団体が集まって結成されている。

 松山さんのアドバイスを基に自宅の後片付け、清掃作業の要点をまとめてみよう。

すぐには作業に取りかからず計画を立てる

 雨がやむと、町のそこかしこで泥をかき出す作業が始まる。「早く自分の家も……」と気がせいてしまうが、ここはあえて一息つきたい。

「まずは落ち着いて、生活再建までの見通しを立てましょう。ここで慌てても、片付けには最低1カ月以上はかかるのですから。最初は自宅の被害状況をスマホなどで撮影します。後に保険請求や公的支援を受けるための『罹災証明書』の発行に必要なものです。そして掃除用の服装を準備します。『どうせ濡れるから』とサンダル履きは厳禁です。土砂の中にはガラス片や釘など何がまじっているかわかりませんし、釘をひっかけてしまうと、破傷風などの感染症にかかってしまいますので」(松山さん)

 汚泥の中は雑菌だらけ。地方ではくみ取り式のトイレもあるし、都市部だってマンホールから下水が噴き上げてくる。破傷風に感染すると3日から3週間くらいで「あごのこわばり」で口が開きにくくなったり、痙攣や呼吸困難の症状が出てくるので気を付けたい。

■ゴム手袋の中に軍手熱中症対策に保冷剤

 服装は、厚手のゴム手袋を用意。中に軍手をはめるとムレにくくなる。さらに長靴、頭にはヘルメットや帽子、なければタオルを巻く。高温多湿の今は熱中症対策として首に保冷剤をあてたり、簡易型の小型扇風機なども必須になる。

 薬品を使う場合にはゴーグルも必要。粉塵を防止するためマスクも着用したい。また、水害時は市区町村の社会福祉協議会などに「災害ボランティアセンター」が設置されるので、遠慮なくボランティア派遣を頼んでおこう。

■捨てるものは思い切って処分する 

 水に濡れた畳、カーペット、布団は再利用が難しい。もったいないと思うが、思い切って災害廃棄物として処分したい。テレビや洗濯機、冷蔵庫は「家電リサイクル法」で通常時には処分費用がかかるが、災害時は無料というのが通例だ。

「ゴミを撤去する自治体職員さんの負担になりますので、分別はきちんとしましょう。さらに災害時は冷静な判断ができず、ボランティアさんに『あれも捨てて、それも処分して』と言ってしまって後悔する人が多い。捨てるもの、洗って使うもの、それ以外に『保留』という選択肢を設けましょう。私の知っている女性は水に漬かってしまったおばあちゃんの形見の帯を捨てきれずに残しておきました。結果的にカビが生えて処分したのですが、納得して捨てられたみたいです」(松山さん)

 思い出のアルバムは水で洗い干せばいいし、写真をデータにして保存する方法もある。エアコンの室外機は乾くと“復活”することも多いという。

■まずは「見える」ところの掃除から

 濡れた家具やガラス戸などは庭先に運び、室内をからっぽにしてから泥を水で洗い流す。壁や床をきれいにしたら雑巾で拭き、乾かす。泥がついた状態で消毒剤を使っても効果は少ない。ここで効果を発揮するのは「高圧洗浄機」。コードレスタイプもあり、2万円前後から市販されている。

「しっかりと泥を洗い流し終えたら、ドアや窓を開けて室内を乾燥させます。泥の中には雑菌がウヨウヨいますので、お子さんには手伝わせない方がいいでしょう。作業中はこまめなうがい、作業後はしっかり手洗いしましょう」(松山さん)

 食器類、家具や床の消毒は次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど)、消毒用アルコール、逆性せっけんを使うといい。

床をはがして「見えない」ところの洗浄

 乾かした家具を居間に戻せば、ほっと一息。しかし、これで終わりではない。むしろ水害後の作業で重要なのは、「床下」の処置だ。

「床下の泥や水たまりが残ると、みっしりとカビが繁殖します。そのため床下の状態を必ず確認します。和室は畳の下の床板をバールなどで外し、洋室のフローリングなどは電動のこぎりなどを使って『点検口』を設けます。工務店にお願いすれば、作業時間は30分〜1時間、費用は2万〜3万円ほどが相場になります」(松山さん)

 床下の泥をかき出し、可能なら扇風機やダクトファン(3万円ほど)を回しっぱなしにして風を送る。残念ながら、濡れたグラスウール(綿状)の断熱材は再利用が不可。石膏ボードも半分以上が濡れていたら1枚分を廃棄せざるを得ない。

■疲れ果てた心と体のケアに努める

「ゴールの見えない作業で、ほとんどの人はここで疲れ果てます。中には落ち着いた途端に病気になってしまう人もいる。根気よく、近所の人たちと声を掛け合いながら、1年以上続く生活再建までの期間を乗り切ります」(松山さん)

 工務店にリフォームや建て替えの依頼をしても半年以上待たされるケースも出てくる。そこで怒ったりせず、慌てず騒がず、心にゆとりを持ちたい。

 また、初期の作業中は、どこで避難生活を送るかも大事。ホテル避難は体はラクそうだが、費用面や自宅までの距離があるなどのマイナスがある。メリットとデメリットを考えながら、ゆっくりとした避難生活を心掛けたい。