世界との差は広がっているのではないか。

 米スポーツ用品大手のナイキは5日(日本時間6日)、マラソン、駅伝で好記録を立て続けに出している厚底シューズの新モデル「エアズームアルファフライネクスト%」を29日から販売すると発表した。

 この新製品は、反発力を生む炭素繊維のプレートが1枚入っていて底の厚さは3・95センチ。世界陸連の新規則(底の厚さ40ミリ以下等)に適合しているので東京五輪で履いても問題ない。

 発売翌日に行われる東京マラソンでは、多くの選手がこのシューズでスタートラインに立つとみられている。そこで大迫傑(28)の持つ日本記録(2時間5分50秒)を上回れば、褒賞金1億円と五輪代表の座が得られるわけだが、1億円ボーナスの「効果」についてはある疑問が生じる。

 マラソンの日本記録を更新した者に1億円の褒賞金を出すのは日本実業団陸上競技連合(以下・実業団連合)と共同運用のアールビーズスポーツ財団だ。実業団連合の公式サイトを見ると、この褒賞制度の目的が明記されている。要約すれば、「マラソン日本記録を越える複数のスター選手を輩出し、その勢いで東京五輪のメインスタジアムにマラソンで日の丸を掲げること」だ。

 2018年2月の東京マラソンで設楽悠太(28)が2時間6分11秒(2位)で16年ぶりに日本記録を更新。1億円ボーナスの第1号となり、同年10月のシカゴでは大迫が2時間5分50秒の日本新記録を樹立。2人目の1億円獲得者が現れた。設楽も大迫も日本記録を出したレースではナイキの「ズーム ヴェイパーフライ」シリーズを履いていた。

 しかし、ナイキの新製品は世界記録(2時間1分39秒)保持者のキプチョゲ(35=ケニア)をはじめ、アフリカの有力選手はみんな履いている。大迫が日本記録を出したシカゴマラソンでも上位選手はピンクのナイキばかり。去年のロンドンマラソンでも、ナイキの新製品を履いたキプチョゲが優勝。上位陣のシューズはみんなキプチョゲと同じライトグリーンのナイキだった。

 過去2年だけでも、2時間5分を切ったアフリカ選手はゴロゴロいる。世界のトップランナーがみんな厚底を履いてレースに出れば、追いかける日本選手とのタイムは縮まらない。いや、それどころか逆に広がっているのではないか。

■日本選手の記録が少し伸びても…

 6日付の日刊ゲンダイでは、スポーツ選手の体に詳しいフィジカルトレーナーの、平山昌弘氏の厚底に関するコメントを掲載。平山氏によれば、このシューズはアフリカ勢の走り方を分析して作られたものと推測されるという。

「ナイキは体を俯瞰的に見て、上半身と下半身が連動したとき両脚はどう動くのかということに着目したはずです。アフリカ選手は、やや前傾姿勢で骨盤近くから上半身をねじり、その反動で脚が前に出ている。前傾姿勢のフォアフット走法だと重心移動で走ることができるのでエネルギー消費が少ない」(平山氏)

 そのような走りのアフリカ選手の能力を最大限に引き出すのが厚底シューズ。厚底を履く日本選手の記録が少しばかり伸びても、アフリカ選手の背中はむしろ遠くなったという見方ができる。

 新しい厚底を履いた選手が東京マラソンで日本記録を出したところで、実業団連合は1億円の「払い損」になる。