【メジャーリーグ通信】

 3月初旬に「万全の態勢が整えられている」と強調していたドナルド・トランプが、「現在の米国は戦争状態にある」と発言したのは3月18日のことだった。

■「力強い大統領」を演出

 米国疾病対策予防センター(CDC)は、2月初旬の時点で米国における新型コロナウイルスの感染の拡大が確実に起こることを警告し、十分な対策を講じることが必要であると指摘していた。それにもかかわらず2万人近い感染者と200人を超える死者が出ていることは、トランプ政権の初期の対策が不十分であったことを示している。

 それだけに、トランプが新型コロナウイルスの感染の拡大を「戦争」とし、「戦時下の大統領」と名乗ることは、「初動の遅れ」を挽回するだけでなく、「力強い大統領」の像を演出しようとする思惑をほのめかす。

 例えば、フランクリン・ルーズベルトは1941年に第2次世界大戦に参戦したことで世界大恐慌後の景気後退から立ち直るとともに、「有事」「戦時」を理由に史上唯一大統領に4選され、「米国史上屈指の偉大な大統領」として今も国民の尊敬を集めている。

 トランプが尊敬するロナルド・レーガンも、ソ連を「悪の帝国」と批判して冷戦を拡大し、最終的に後継のブッシュ政権におけるソ連の崩壊と冷戦の終結をもたらすことに成功したことは周知の通りだ。

■選手も観客も犠牲者を追悼

 大リーグもまた、「戦時下」の経験を積んでいる。

 第2次世界大戦中は、灯火管制によりナイトゲームの開催が困難になり、国内には戦争中の公式戦の中止を求める声も上がった。しかし、当時のコミッショナーのケネソー・マウンテン・ランディスがルーズベルトに公式戦の継続を求める嘆願書を送ったことで、大戦中も試合が継続されている。

 あるいは、米国史上最大の失敗のひとつにも数えられるベトナム戦争が激しさを増した1970年代初頭の大リーグの球場では、国旗掲揚や国歌斉唱に反発する声が絶えない中、公式戦が行われた。

「新型コロナ問題」では各スポーツがシーズンの延期や中止を行い、大リーグもシーズンの開幕を早くとも5月半ばまで延期している。公式戦を162試合行えるのか、ポストシーズンの日程はどうなるのか、あるいは6月のドラフトは通常通り行えるのか、といった問題は山積している。

 しかし、「テロとの戦争」が標榜された2001年の同時多発テロ後に人々の愛国心が高まりを見せ、公式戦が再開された後の大リーグの各球場では選手も観客も一体となって犠牲者を追悼した。今回も、公式戦の開幕の際には「9・11」の場合と同じく、球場には星条旗が掲げられ、国歌が高らかに歌われることだろう。

 2020年の遅い球春は「感染症との戦争」の勝利を示す格好の機会となるのである。

(鈴村裕輔/野球文化学会会長・名城大准教授)