地元全体が“サッカーのある日常”を取り戻したい

(元川悦子/サッカージャーナリスト)

 新型コロナウイルスの感染拡大でJリーグが中断期間に入って約1カ月。サッカーの町・清水は公式戦のない寂寥感に包まれている。

 今季就任したクラモフスキー監督も「ファンが練習を見に来れなくなり、彼らと会えなくて非常に残念」と顔を曇らせた。2月25日の最初の休止決定を機に多くのクラブが一般の練習見学を取り止めたが、清水は3月14日まで通常通りの対応を続けていた。だが、12日に清水市内で60代女性の感染が発覚したことでクラブ側としても、見学禁止に踏み切らざるを得なかった。「早く公式戦が再開されてゴールを決める姿を見てほしい」と元北朝鮮代表のベテランFW鄭大世も苦しい胸の内を明かした。

 3月の三連休中日の21日。世界遺産の三保松原や三保マリーナ、東海大学三保水族館に近い清水の練習場は、休日とは思えないほど閑散としていた。普段なら熱狂的サポーターが観客席から選手の一挙手一投足を見つめているのだが、その姿はどこにも見られなかった。清水駅寄りにあるエスパルスドリームプラザのスポーツ店も人影はまばらだった。

「1月の高校サッカー選手権で静岡学園が優勝した時、2月23日のJ1開幕のFC東京戦の時なんかは、大勢の人がテレビの前に集まって盛り上がりました。それが今、試合がないのでお客さんも減っている。『練習場に行けなくなった』とボヤく人も多い。この町にはエスパルスが生きがいの人も沢山いるので、早く元の姿に戻ってほしい」と店員も苦渋の表情を浮かべていた。

 地元全体が<サッカーのある日常>を取り戻したいと切望するが、コロナ感染拡大に歯止めがかからない今、J再開が4月中旬から5月頭にズレ込むのではないかという懸念も高まっている。

 選手も不安は尽きないが、東京五輪世代の若きキャプテンである立田悠悟は「今、オーストリアにいる(元日本代表FWの北川)航也君(ラピッド・ウイーン)とはよく連絡を取ってますけど、ちょっとした買い物以外は外に出れないらしくて、家で動くしかないみたい。僕らは練習できてるだけでも幸せです」と前向きに言う。

 鄭大世も「来月の給料を払えない経営者もいると思うし、僕らの悩みなんて何でもない」と語気を強める。彼らは今の環境に感謝しながらボールを蹴っているのだ。

 各クラブの指揮官も難しいマネージメントを強いられる。が、今季就任したクラモフスキー監督は準備期間の延長を前向きに捉えている。

■準備期間の延長を前向きに捉えているクラモフスキー監督

 ポステコグルー監督の参謀として2年間働いた横浜マリノス時代は、初年度の2018年にJ1残留争いを強いられた苦い過去があるだけに、この時間は貴重だ。

「横浜でトロフィーを持ち上げたのも昔のこと。私は過去は振り返らず、前だけを見てやっていくだけ。チームを早く完成させるためには毎日ハードワークをしていくしかない」と指揮官は地道に取り組んでいく姿勢を強調した。

 立田も「マリノスは優勝するまでの2年間、試行錯誤したかも知れないけど、僕らは僕らの良さを出していけば、早くいいチームになれる。監督は本気で優勝すると言ってますし、僕もそれを信じて取り組んでいきます」と確固たる決意を打ち明ける。

 確かに中断期間をうまく使えれば、名門復活への足掛かりを築けるかもしれない。

 清水といえば、かつては森岡隆三や戸田和幸(ともに現解説者)や市川大祐(清水アカデミーコーチ)、岡崎慎司(ウエスカ=スペイン)ら数多くのW杯代表選手を送り出してきたオリジナル10のクラブである。

 しかし、近年は苦境続きだった。

 16年にはクラブ史上初のJ2降格。17年にJ1に復帰するも、それから毎年のように監督が交代し、チームが揺れ動いている印象も否めなかった。

 その停滞感を打破するために昨季J1王者の横浜Mの名参謀だったクラモフスキー監督を招聘したのだから、今季に賭ける意気込みは強いはずだ。

 開幕前は「清水のハイラインのサッカーは完成まで時間がかかる。今季はJ2降格候補筆頭だ」と言う関係者もおり、厳しいシーズンになるという見方も根強かった。

 それが1カ月以上の新たな準備期間が与えられた上、今季はJ2降格なしの特例が設けられたのだから、彼らにとっては追い風といっていい。

「降格がなくなって、どこも良いサッカーをするようになるんじゃないかな。すごく攻撃的になって得点もたくさん入りそう」と鄭大世は見ているが、クラモフスキー監督もより積極的なチャレンジができそうだ。

「最近までは結構メンバーを固定していたけど、今日はミックスで紅白戦をやりました」と立田も話す通り、戦い方の幅を増やそうという狙いも感じられる。

 この日の3バックと4バックの併用は、その一環。開幕のFC東京戦でボランチを務めた東京五輪世代の岡崎慎を本職のDFで使ったり、左サイドバックに入っていた石毛秀樹をトップ下でトライする場面もあり、多彩な可能性を追求しようという姿勢がうかがえる。

「どのポジションでもプレーできた方が、選手にとっても利益がある。岡崎も次はFWで出るかもしれませんよ」と指揮官は冗談交じりで語ったが、横浜Mで仲川輝人がブレークしたように、今季の清水から意外なスターが出現する可能性もゼロではない。「実際、ウチの外国人選手はタレント揃い。ムイ(ティーラシン)も良いですし、ケガをしているエウソン(エウシーニョ)とヘナト(・アウグスト)が入ってきたら相当に良いサッカーができると思う」と鄭大世も充実した戦力に自信をのぞかせる。

 それをどう料理するかは指揮官の手腕次第。清水が横浜Mと同じ道を歩むのか、否か。注目しながら再開を待ちたい。