<潜入>

仮説を立て、里崎が動く! 日刊スポーツ評論家・里崎智也氏(43)が特命記者となり、春季キャンプ地に潜入する特別企画の第2弾。今回はヤクルト山田哲人内野手(27)と、今季からソフトバンクに移籍したウラディミール・バレンティン外野手(35)の2人から見えてくるウィンウィンの関係を調査する。

心身ともにやる気満々の特命記者は、ズバリ「打順が打線になる理想的な関係」と表現した。【取材・構成=井上真】

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心なしか、沖縄入りした特命記者の体全体から自信のオーラが漂う。何でそんなに自信満々?

特命記者里崎(以下、特命記者) 今回の調査は目の付けどころがポイントです。ターゲットは山田です。日本を代表するスラッガーです。機動力があって、長打も打てる。その盗塁の秘密に迫ります。

一昨年の8月からずっと成功し続けて、去年の9月に失敗するまで、33回連続成功した、ヤクルト山田哲の盗塁?

特命記者 そうです。そこに切り込んでいきます。いいですか? これからは結果論による後付けの解説原稿ではなく、もっと幅広い視点を持って、考え方を読者の皆さんに読んでもらう時代です。仮説を立て、取材して、フィードバックして、さらに取材して、1つの知見をつくる、そういうやり方ですよ。

完全に圧に押され、受けきれない。特命記者さん、私は付いていきます! 今回はどこからのスタートですか?

特命記者 フフフフフ、調査は既に最終段階です。気が付かなかったんですか? 石垣島と宮崎で5球団のキャンプ地(ロッテ、ソフトバンク、広島、西武、巨人)を巡りました。その間、着々と取材を重ねていたんですよ。

付き添いの中年担当記者は全く信用されてない。完全に特命記者のペースだ。分かりました。もう、黙ってレンタカーのハンドル握ります。お客さん、どちらまで?

特命記者 浦添までお願いします。

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特命記者の今回の仮説はこうだ。バレンティンはフォロースルーが非常に大きな強打者。捕手としてはスイング後のバットが頭に直撃することを避けるため、やむを得ず構えるポジションが、普段より後ろになるのではないか。そうであれば盗塁では大きなアドバンテージ。山田哲は盗塁に成功し、さらにバッテリーは盗塁に気を配るため、バレンティンはより打撃に集中しやすくなる。

「捕手のポジション」「盗塁」「打者優位の条件」、この三位一体により、山田哲→バレンティンの“打順”は“打線”となって相手チームに脅威を与えていたのではないか。

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まずは捕手のポジション。特命記者は、すでに次から次へと証言を得ていた。

特命記者 パ・リーグもセ・リーグも、ほとんどの捕手は、フォロースルーが大きな外国人選手の時は、普段より後ろにポジションしていることが分かりました。これは盗塁をする上ではかなり有利になります。捕手によって下がる距離に差はありますが、少ない選手でスパイク半足分、15センチくらいですね。大きな選手では30センチ以上でした。半足分下がったケースでは、捕球時に15センチ、送球時に15センチ、計30センチ余計に時間がかかります。捕手が30センチ以上下がるケースでは、実に60センチ以上の時間を要します。これは、かなり走者に有利です。

パ・リーグには、打席に入る際にキャッチャーのレガーズをバットの先でそっと触れる外国人選手もいる、という証言もあったそうだ。その捕手は「フォロースルーで頭に当たらないように気を付けろよ」と、受け止めていた。その怪力で振り回したバットが頭を直撃したら命に関わる。捕手が下がらざるをえない状況が見て取れる。

特命記者 調べて分かりました。山田は昨年36回走って33回成功しています。うち24回がバレンティンの打席で二盗に挑み、22回成功。盗塁全体の約67%をバレンティンの打席で走り、そのうち92%で成功させています。これは、バレンティンの打席での山田が盗塁を企図する優位性を示しています。浦添で山田に聞きました。山田はバレンティンの打席で盗塁していることへの意識はそれほどない様子でした。むしろ、自身の構えと、スタートが遅れないことへの意識が高い印象でした。つまり、自然体で挑んでいたということでした。

そんな山田哲も昨年9月に連続盗塁成功が止まった。捕手はDeNA伊藤光。伊藤光は9月までに4回、山田哲に二盗を許していた。そして同14日、上茶谷とのバッテリーでついに二盗を刺す。

特命記者 非常に貴重な話を聞くことができました。伊藤は後ろに下がって盗塁をされていたので、(9月14日の)刺した場面では、外角ストレートで勝負しにいったそうです。内角はフォロースルーが頭付近にくる可能性が高いそうですが、外角なら当たりづらくなる。そこで、山田が走ってくるであろうタイミングを見計らい、後ろに下がらず、外角ストレートで何とか刺すことができたそうです。

なるほど。フォロースルーと捕手のポジション取り、そこに山田哲の盗塁が密接に絡み合っていた。すっかり感心していると、特命記者はそんな中年担当記者を置き去りにするように続けた。

特命記者 これで終わりじゃないですよ。それは単に捕手のポジションが下がる背景と、それが盗塁の成功にどう結び付いたかの検証にすぎません。大事なのは、これだけのアドバンテージを作っているのだから、それは当然、バレンティンの打撃にも好影響が出ているのではないか、と踏んでいます。なぜなら、捕手は山田の足を警戒するあまり、1発のあるバレンティンに十分に集中できない可能性が考えられます。変化球ではさらに走られやすくなりますから、ストレートを使いたくなる。それはバレンティンの思うつぼ。そういう流れがあるのでは、とにらんでます。

確かに仮説に基づくなら、ここで満足してたらダメ。そうなると、山田哲が一塁にいる時のバレンティンの成績が気になりますね。

特命記者 その通りです。いいところに気が付きました。昨年のバレンティンは走者一塁の状況で打率3割4分3厘、6本、15打点。これは同条件でセ・リーグ5位の好成績です。特に山田が一塁にいたシチュエーションでは同3割5分1厘、3本塁打、7打点を挙げています。

山田哲の盗塁と、バレンティンのフォロースルーの因果関係が、バレンティンの打率にまで波及効果を与えていたということですね。いろんなものがヒモ付けされてるんですね。特命記者さん、そこからどういう知見が導けますか。

特命記者 その2人の“打線”はバレンティンの移籍によって解散です。

ああ、残念。じゃあ、もう注目できませんね。

特命記者 ここからが大事なんです。今季は山田がどんな状況で盗塁にチャレンジするのか。その背景にどんな要素が隠されているのか。そして、バレンティンの打席で一塁走者は誰になり、そして走るのか。ソフトバンクはそうしたことを意図した打順を組むのか。その“打順”が“打線”に発展していく過程を見るのも楽しいと思いますよ。何より、今回の取材で、こうした相互関係は12球団にもきっとあるはずだと感じました。どこにそうした関連性があるか注目したり、考えると、もっとプロ野球を楽しめると思います。