決断の地アメリカへ、いざ−。DeNAからポスティング制度を利用し、レイズ入りした筒香嘉智外野手(28)が13日、羽田空港から渡米した。昨シーズン後にメジャー挑戦を表明し、レ軍と2年総額1200万ドル(約13億2000万円)で契約合意。メジャー30球団の首脳、代理人が一堂に集うウインターミーティング(WM)開催直前の昨年12月6日に米国へ渡り、同12日に断を下した。現地での交渉はどのように進んだのか。舞台裏に迫る。【取材・構成=為田聡史】

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水面下の交渉は渡米前から始まっていた。昨年の11月下旬。筒香がスマホの前に座った。代理人を務めるワッサーマン・メディア・グループのジョエル・ウルフ氏、レイズのエリック・ニアンダーGM、同ケビン・キャッシュ監督とSkypeの同時通話で回線がつながっていた。レ軍サイド、筒香サイドを含め8人ほどが回線上で会した。「こんな感じで交渉が始まるんだと思った。日本ではあり得ないことだし、正直びっくりした」。約30分のあいさつ程度の会話だったが、レ軍からの即アタックにやや差し込まれた。

メジャー球団との交渉は、他選手を含む複雑な駆け引きが連続して繰り返されていった。WM前の12月6日に渡米し、ロサンゼルス近郊に拠点を置いた。メジャー球団からの練習視察や面談に備えた。UCLAを練習場所にし、交渉の行方を待った。「普通に練習してて、3日後ぐらいですかね。前日に代理人から『練習見学会をやると』言われた。そういうことをやること自体は把握していたけど、まさかこんなに早くやるとは思わなかった」。現地入りから4日後のことだった。

ロサンゼルスとWMの開催地サンディエゴの中間地点に位置するロッキーズのアレナドのプライベート施設で“練習見学会”が開催された。午前にレイズ、午後にレンジャーズの首脳が視察。当初、有力候補の1つとして報じられていたブルージェイズはWM中に首脳が席を外せるか未確定としたため、この時点で交渉を打ち切った。「僕自身はどのタイミングでどの球団からオファーを受けているかの全部は把握していなかった。他の選手のトレードによっても変わるし、朝と夜では状況が全く変わる場合も多々ある。あまりにも複雑すぎて」。

ポスティング制度での交渉期限は1週間以上も残していた状況だったが、ここから一気にテンポアップした。「次の日に、すぐにもう1度会いたいと代理人から連絡があった」。WMが開催されているヒルトン・サンディエゴ・ベイフロント・ホテル&リゾートの隣のホテルが面談場所だった。「レストランの個室でコーヒーを飲みながらでしたね」とリラックスした空間でレイズ、レンジャーズの2球団と交渉を重ねた。

「メジャーの動くボールにどうやって対応しようとしているのか」「小さいときはどんな環境で野球をやってきたのか」「一緒にプレーできることを楽しみにしている」。筒香を射止めようと硬軟を織り交ぜ、互いの胸の内を探り合った。「どちらの球団からも情熱は感じた。強引さはなく、すごくいい空気感で思いは伝わってきた」。結論を出すことはなかったが結果的にはこの席が“最終交渉”になった。

サンディエゴからロサンゼルスまでの帰路、ハイウエーで渋滞に巻き込まれた。「通常よりも2時間ぐらいかかったと思う。疲れて寝てしまったんですけどね」。午後9時ごろ、ようやくロサンゼルスに到着し、日本料理店に向かった。「駐車場に着いたときに、ちょうど代理人から電話がかかってきた。『どうだ? どうする? そろそろ決めたらどうだ』と言われた」。代理人からレイズ、レンジャーズ以外にもう1球団(ドジャース)のオファーがあったことが伝えられ、現状を整理した。

「交渉期間ギリギリまで待てば、もっといい条件があるかもしれないし、現状のほうがいいかもしれない。いろんなトレード、交渉が同時に動いているので、それは分からない。ただ、1年目だし、お金の部分は優先順位として自分の中では低い。野球をプレーするということを最優先に考えた。駐車場の車の中で(代理人の)ジョエルに『レイズに決めます』と伝えた」

渡米から1週間。12月12日に筒香が決断した。WM開催中でかつ、交渉期限を1週間残した中での早期決断だった。一夜明けた13日、米メディアが「筒香レイズ合意」を一斉に報じた。水面下で進む交渉は駆け引きとタイミングがシンクロする。球団側はニーズ、選手側は条件を軸とし、複雑な交渉を経て、合意へと向かっていく。「代理人の携帯電話は常に鳴りっぱなしだった。(移籍市場の)規模がすごい」。

2月18日からフロリダ州ポートシャーロットでのキャンプインを控える。前回は契約をまとめるための渡米だったが、今回は野球をプレーするための渡米となる。「キャンプインまで少し時間があるし、キャンプインから開幕までも時間がある。今すぐに解決しなければならないものもあれば、キャンプ入ってから解決しなければいけない問題も絶対に出てくる。慌てずに対応していきたい」。異国の異文化の中での勝負が、待ち受ける。

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◆レイズ筒香の入団会見VTR

昨年12月17日(日本時間18日)にセントピーターズバーグ(米フロリダ州)の本拠地トロピカーナ・フィールドで入団記者会見に臨んだ。キャッシュ監督とともに登壇。第一声は「Please call me Yoshi(ヨシと呼んでください)。レイズの勝利に貢献するため、可能な限り懸命にプレーします」と英語を交えてあいさつをした。現地メディア、関係者のハートをわしづかみすると、スペイン語で「Para la calle,vamos(本塁打、行くぞ)」とさらに加勢。現地の文化、雰囲気に一瞬で順応して見せた。

複数球団の中からレイズを選んだ理由を「キャッシュ監督の熱意と言いますか、僕を必要としてくれるというのを一番感じました」と説明。さらに「レイズに来ないと、キャッシュ監督が夢に出てきそうだったので、レイズに決めました」とジョークで笑わせた。同監督は「彼は特別な選手」と評したうえで「打てることは分かっている。中軸を打ってほしい」と、貴重な得点源として期待を込めた。期待する本塁打数は「60本だ」と、こちらもジョークで切り返すなど、日本からやってきた背番号25を迎え入れた。