仙台大(宮城)体操競技部に東京オリンピック(五輪)の床運動で金メダルを狙う新星がいる。“床のスペシャリスト”として才能を開花させた南一輝(2年=下関国際)は、16年のリオ五輪団体総合で金メダルメンバーの白井健三(23=日体大大学院)を破るなど、代表入りへ快進撃。「東京五輪開催が決まったときは、本当に遠い場所で、目指せるようなレベルではなかった。それでも小さい頃からの目標というか夢だったので、チャンスを生かし、金を取りたいです」と意気込んでいる。【取材・構成=山田愛斗】

夢舞台に1歩前進する勝利を挙げた。南は昨年11月、五輪代表選考を兼ねる種目別のワールドカップ(W杯)シリーズ第5戦コトブス(ドイツ)大会で、得点15・100を記録し、王者になった。W杯は18年11月から今年3月までで8戦行われる。南は5戦目で初出場。五輪切符獲得へは成績のいい3大会の結果が加味されるため、すでに出場資格を得ている2月のメルボルン(オーストラリア)、3月のバクー(アゼルバイジャン)で2連勝すれば五輪出場が確実になる。

五輪への道が開けたのは、昨年6月に群馬・高崎で行われた全日本体操競技種目別選手権だった。床の絶対王者で大会7連覇を目指していた白井を破り、得点15・033で初優勝。W杯の出場権を得た。さらにナショナル強化指定選手になり、日本体操協会からナショナル番号「215」を付与された。内村航平(31=リンガーハット)の「162」、白井の「189」のように国内トップ選手の証しも手に入れ、東京にあるNTC(ナショナルトレーニングセンター)を常時使えるようになった。

憧れの存在である白井との直接対決で勝利し、五輪への第1関門を突破したが、納得はしていない。「勝ったことはうれしいですけど、白井選手はけがとかがあって完全な状態ではなかったので、万全なときに勝ちたかったです。世界でずっと勝ってきて目標でいてくれた存在。白井選手がいなかったら、ここまで頑張れなかったかもしれません。抜かされないように頑張ります」。憧れはいつしか五輪を争うライバルに変わった。

今季、絶好調の南は出場するほとんどの大会を制してきた。しかし、思うように得点が伸びず、W杯派遣記録14・900を突破するのに時間を要した。優勝した昨年5月のNHK杯や同4月の全日本トライアウトでもスコアは14・800。「0・1の壁」にぶつかった。「NHK杯の演技は自分の中では納得いってなかったので、あまり点数が出ないと思っていました。評価していただいて14・800が出たので、派遣記録は超えられないと感じていました」。

子どものころから側転が得意だった。ぜんそく持ちで、「健康のために」と母の友人から勧められ、小2で体操教室に通うようになった。しかし、小中高と目立った成績は残せず、全国的には無名の存在。それでも努力を重ね、下関国際3年のときに才能が開花した。17年の中国大会を制覇し、山形で行われた高校総体に乗り込むと、勢いに乗って床運動で初の日本一に輝いた。「高3の6月から一気に伸びました。体の動かし方が違うが、トランポリンで練習していると床でもうまくできるようになり、だんだん適応できました」と成長の要因を明かした。

総体の予選から光った演技を見せ、視察していた仙台大の鈴木良太監督(41)の目に留まり、同大から最初に進学のオファーを受けた。さらに優勝後には複数校から誘いがあったが、同9月には両親と同大の施設見学を済ませ、宮城行きを決意。「一番に声をかけてくれたのもあったが、床が強い大学なので、得意種目を伸ばせると思いました」と進学の理由を語った。

大学入学後しばらくは6種目(床、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒、鉄棒)を続けていたが、鈴木監督の「床なら五輪を目指せる」という声もあり、18年9月の試合出場を最後に床1種目に絞った。「一本に絞っているので、他の6種目やっている人よりも練習時間は長いです。練習量をこなしていることで、自信につながり、思い切って演技をできるようになりました。6種目だと苦手なものがあるわけで、自分にとって1つに絞り、得意なことしかしないのが合っていました」とスペシャリストとして生きる道を選んだ。

高3から勢いに乗り、中国大会、高校総体、全日本学生選手権、全日本選手権と1つずつステップアップしてきた。昨年9月にはパリで行われた種目別チャレンジカップで初の国際大会デビュー。「海外での試合自体は大丈夫でしたが、言葉に自信がなく、翻訳アプリに頼っているし、食べ物だったり、それ以外の不安はありました。大きい大会では体育館やホテルに行くときだったり、演技までがめちゃくちゃ緊張します。始まったら開き直り、自分の世界に入れます」。国際大会初陣を優勝で飾り、同11月のW杯勝利につなげた。

オリンピックイヤーが幕を開け、2月13日からのメルボルン大会、3月12日からのバクー大会と勝負のW杯2連戦が始まる。「着地に課題があり、止めるべきところで止め切れていないので、そこを修正していきたいです。体操を始めたときは、自分が五輪を目指せるような選手になれるとは思わなかったですが、W杯で1勝してだいぶ近づきました。あまり考えすぎてもダメなので、あとは楽しんで思い切りやるだけです」と自然体で臨む。

南は二人三脚で五輪を目指す鈴木監督について「ナショナルや国際大会が初めてで、先生が試合や合宿にいてくれるのは心強いです」と絶大な信頼を置く。同監督は「まだまだ未知数というか伸びしろがあるし、僕らが考えるキャパシティーに収まらない選手。いずれ自分の名前がつくような技をつくれると思う」と高く評価する。五輪の床決勝は、東京・有明体操競技場で8月2日に行われる。遅咲きのスペシャリストが、東京で金色の花を咲かせる。

◆南一輝(みなみ・かずき)2000年(平12)1月24日生まれ、山口・下関市出身。下関国際を経て18年に仙台大入学。小2のときに安岡体操クラブで体操を始め、中学ではレジェンド体操クラブに在籍。得意技はルドルフとシライ2(前方伸身宙返り3回ひねり)。趣味は風景写真を撮ること。家族構成は両親、姉、弟。163センチ、59キロ。