「できることなら、社長にはなりたくない」――。日本たばこ産業(JT)の寺畠正道社長はずっとそう思っていたという。社長に近いポストに登用され、歴代社長の孤独とつらさをつぶさに見てきたからだ。社長就任の打診も一旦は断ったが2018年に社長就任。「社長こそ謙虚であるべし」を自らに言い聞かせるのは、世界どこでも謙虚さこそがリーダーに求められる資質と知るからだ。

<<(上)社長は「一番下で」支える 意思決定は公平・透明に

――若いころから、社長に近いポストを経験していますね。

「海外赴任先のスイス・ジュネーブから帰国後の05年、40歳になる直前に秘書室長になり、私の3代前の本田勝彦、2代前の木村宏と2人の社長に仕えました。社長が出席する全ての会議、出張に同行し、トップのしんどさや孤独を目の当たりにしてきたのです。ですから、正直にいえば『できることなら、社長にはなりたくない』と思っていました」

「特に08年にはJT子会社が輸入した中国産冷凍ギョーザの中毒事件が発覚してその対応に奔走しました。1999年に米RJRナビスコ社の米国以外のたばこ事業、RJRインターナショナル(RJRI)を買収したのに続き、2007年には英国のギャラハーを約94億ポンド(当時約2兆2500億円)で完全子会社化するという大型案件をまとめた時期でもあります」

――社長就任の打診はすぐに引き受けたのですか。

「実は1回断ったのです。プライベートがないし孤独だし。週末に持ち帰り3日間ほど一人で悩みましたね」

■社長に「ノー」と言われても、何度も説得

――幹部としての経験は今どのように生きていますか。

「『JTグループをどうしたらよくできるか』ということを早い時期から考えてきたことが、今につながっています。『もっと働きやすく、コミュニケーションが活発でグローバルに戦える会社にしたい』と、社長になるずいぶん前から考えてきました。例えば、社外取締役の導入を提案したのは、私が経営企画部長のときです。当時の社長に『ノー』と言われても、何度もやり方を変えて説得し、導入に至りました」

――社長に「ノー」と言われても説得し続けられたのはなぜですか。

「大切なのは『なぜこの施策が必要なのか』を明確にすることです。そのうえで、いろいろな方法でめげずにあきらめず、説明して回りました。そうすると、周りにだんだんサポーターが増えていくのです。次第に『あの人が言っているから、やらせてみるか』という流れになるまで、長い時間をかけて信頼感を積み上げていくことが大事です」