部下にやる気出させたい その発想が逆効果になる理由

■欠けたドーナツを見ていませんか?

やる気のない人をやる気にさせたい。組織やチームに関するセミナーで一番多い質問です。そんなときは、「欠けたドーナツ」の話をすることから始めることにしています。

受講者の皆さんに、完全に輪のカタチをしたドーナツの写真と、視力検査で使う輪のように、一部が欠けたドーナツの写真を見てもらいます。その上で、「どこに注目したか?」を、隣にすわっている人と語り合ってもらうのです。どんな答えが返ってくると思いますか。

大半の人は後者、とりわけ欠けた部分に目が奪われます。「なぜ、欠けているのだろうか?」と考えるのです。どうやら私たちは、足らないところに目がいく性質があるようです。

チームを見るときも同じです。やる気や能力が低い人にばかり目がいって、高い人を忘れがちになります。そのため、低い人の底上げばかり考えてしまい、高い人は本人任せにされていることが多くなります。後者を伸ばすほうが簡単で効果が高いにもかかわらず。

個人を見ても、うまくいっていないところに注目し、うまくいっているところを見ようとしません。何とかできないところを正して、みんなと同じレベルにまで持っていこうとするのです。まさに「平均思考」(T・ローズ『ハーバードの個性学入門』ハヤカワ書房)のなせる業です。

しかしながら、それができたとしても、平均的な人間ができあがるだけ。その人の持ち味を生かすことにはつながりません。当人の個性にあった、当人なりのやる気の出し方を一緒に考える。それが、私たちができる唯一のことではないでしょうか。

■ステップを踏んで欲求が高まっていく

そのための一つの手掛かりがあります。心理学者A・マズローが提唱した「欲求階層説」(マズローの法則)です。欲求はステップを踏んで高まっていくという考え方です。

一番低いレベルにあるのが、すべての動物に共通である、生きるための「生理的欲求」です。労働時間や給料など、生活に直結する部分に大きな不満があれば、やる気がでないのは当然です。

生理的欲求が満ちると、脅かされることなく、安心した暮らしがしたいという「安全欲求」が芽生えてきます。雇用や健康への不安を取り除いて、モチベーションをアップさせる作戦です。

3番目が、集団に帰属したい、家族や仲間と楽しくやりたい、という「社会的欲求」です。職場の人間関係がまさにこれに当たり、職場のみんなが変わることでやる気は高まります。

社会的欲求が満たされると、自律した個人として人から認められ尊敬されたいという「自尊欲求」へと、欲求が高まっていきます。仲間から「いいね」「さすが!」「よくやった」「君がいなければ」と褒めてもらったり、昇進・昇給・表彰などで成果に報いたり、です。承認欲求とも呼びます。

最後に、最も高いレベルにあるのが、持てる能力を十分に発揮し、自分が望む最高の自分になりたいという「自己実現欲求」です。自分がやりたいことができているか、自分らしい働き方ができているか、そのための仕組みや機会があるかどうかが鍵になります。


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