春は異動や転勤など、居場所が変わりやすい季節であり、新たな出会いも増えやすい。初対面の相手とは、互いに緊張しがち。そんな出会いのシーンでも、自然な笑顔があれば、気持ちがほどけるが、これが意外に難しい。笑顔が素敵な人を見ると、うらやましささえ覚える。

書店に並んでいる、人付き合いのマニュアル本には、初対面の相手と打ち解けるテクニックがいくつも紹介されている。ただ、それらの多くはある種の「型」を求めている。たとえば、「相手のことを、名前で呼ぶ」もその一つ。肩書ではなく、本名を繰り返せば、距離感が縮まると説く。間違いではないだろう。しかし、それだけで相手の気持ちがどれだけほぐれるのかはよくわからない。

多くのアドバイスは言語表現が中心になっている。確かに言葉遣いは大事だ。物言いで雰囲気をよくするテクニックもいくらかの効果は見込めるはずだ。でも、近年は「非言語コミュニケーション」の価値が広く知られるようになってきた。言葉を用いない、表情や身振り、しぐさなどのことだ。身だしなみや声質、態度など、様々な要素にまで関心が広がり、『人は見た目が9割』と題した本も売れた。

たくさんある非言語コミュニケーションのなかでも、表情は印象が強い。服装は気配りや品格などの目安になるが、その瞬間の感情までは表さない。ところが、表情は露骨に気持ちを映し出してしまう。本当は隠しておきたい内面までも、時に表出してしまうから、表情コントロールに自信のない人は、一種の「安全策」として、あまり表情を変えないフラットな「顔づくり」を心がけていることも少なくない。

こわばった面持ち同士の初顔合わせになりやすいのは、こういった事情もありそうだ。「軽く見られてはいけない」「お調子者と思われたくない」といったディフェンシブな意識も働いて、なおさら初対面の場面では表情が硬くなりがちだ。この状態のまま、言葉だけが「〜さん」と親しげでも、効果は薄れてしまいそうだ。

しかし、そこに笑顔が加われば、場のムードは様変わりする。笑顔のいいところはいくつもあるが、第一に挙げられるのは、相手の警戒心をやわらげる働きだ。無意識のうちに、心理的なガードが下がる。専門家ではないから断言はできないが、おそらく本能レベルですり込まれた反応のように思える。赤ちゃんの屈託ない笑顔を見て、張り詰めた気持ちのままでいることのできる人は、そう多くはないだろう。

ここで大事なのは、赤ちゃんならではの「計算抜き」「演技なし」の笑顔だという点だ。全く裏がないと信じられるからこそ、こちらの反応も素直になる。これがテレビ画面越しになると、事情が変わってくる。バラエティー番組の出演者は笑顔で映ることが多いが、視聴者がそれに反応して、相好を崩しているかといえば、そうでもないはずだ。「業務上のお約束」「報酬・立場に見合った笑顔演技」とみえているからだろう。