女性が健康を保ちながらスポーツを楽しめる社会にしたい――。日本体育大で運動生理学の研究をしながら常に意識している目標だ。論文や学会の発表にとどまらず、2018年には学生や保護者向けに「女性アスリートの教科書」を出版。啓発にも力を入れる。

すなが・みかこ 日本体育大体育科学研究科修士課程修了。昭和大医学部で博士号取得。2016年4月から現職。

キャリアの出発点は走り幅跳びに打ち込んでいた大学2年生の夏にある。合宿で体調不良を感じ、病院で医師から原因不明の慢性腎炎と告げられる。中学時代に1センチ刻みで記録を伸ばす幅跳びの魅力にとりつかれ、引退後は教師として子どもに陸上を教える人生を思い描いていた。

それだけに「競技をやめてください」という一言にショックを受けた。将来、子どもを産めなくなる可能性があることも告げられたが、「当時の自分にとってはどうでもよかった」。

失意から立ち直るきっかけは、日体大での運動生理学が専門の恩師との出会いだ。教員を志す学生に最新の知見を伝えれば直接、実技を教えなくても、若いアスリートに貢献できると思った。病気も奇跡的に治癒し、勉強にのめり込んだ。

修士の頃は、新たな分野を開拓する研究者の仕事が自分に向かないと感じた。修了後は結婚し、非常勤講師として働いた。資格を取りながら非常勤で働くことも考えたが、最終的には博士の学位を取得した。

30代で東京大に勤め始めた頃、女性ホルモンが筋肉のたんぱく質の合成に与える影響の研究が広がっていた。女性アスリートの足かせと思われていた月経周期も、トレーニング方法の開発に生かせるのではないか――そんな仮説が思い浮かんだ。現在に至るまで研究に没頭している。

スポーツ指導者は男性が多い。性差を意識しない練習で健康を損なう学生も見てきた。スポーツ庁「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」で研究リーダーを務め、女性アスリートの指導改革をけん引する。

スポーツのし過ぎで病気になったわけではないが、競技生活を断たれるつらさは知っている。同時に「女性の幸せな人生が、競技引退後も長く続くことも分かる」。東京五輪・パラリンピックを控え、多様性社会に注目が集まる。女性も健康的にスポーツを楽しむため、学生や保護者、指導者など、幅広い人に情報発信を続ける。

(聞き手は荒牧寛人)