新型コロナウイルスの話題に隠れていますが、3月に高速通信規格「5G」の運用が始まりました。モバイル通信ネットワークは約10年ごとに大きく進化しています。超高速で大容量の5Gはコミュニケーションのあり方を変化させ、新たなビジネスの進展に貢献すると期待されています。同じ時期に第4のキャリアとして楽天が携帯電話事業に新規参入しました。携帯電話の環境が大きく変化するなか、料金にはどんな影響があるのか探ってみました。

まずは5G。NTTドコモが3月25日にサービスを開始したのに続き、KDDI(au)が26日、ソフトバンクが27日に開始しました。

各社の5G料金をみると4Gに比べ月額で500〜1000円の上乗せになっています。高速で大容量であれば、この程度の値上げはリーズナブルでしょう。

でも、新しいもの好きな人はともかく、一般の利用者がすぐに5Gに飛びついてもメリットは少ないかもしれません。

■利用できるエリアが限定的

ひとつはコンテンツが十分にそろっていないことです。5Gのサービス開始に合わせて、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった技術や多視点映像、クラウドゲームといったコンテンツサービスに力を入れています。現状ではほとんど4G向けと変わりません。

さらに大きいのが利用できるエリアが限られることです。ドコモでも基地局設置は29都道府県の150カ所にです。駅や競技場、役所といった公共移設やドコモショップに限られています。ソフトバンクは7都府県の1部のエリアのみです。契約したところで使える地域が限られています。5Gは電波の特性上、基地局の設置場所の選定が難しいとされています。

新型コロナの影響でおおがかりなイベントなどができなかったこともあり、出だしは盛り上がりに欠けているようです。だからこそ各社はキャンペーンを展開中です。ドコモは当面の間データ容量の上限をなくし、KDDIとソフトバンクは2年間、4Gと同じ金額にするとしています。初動での普及を促進するためにかなり思い切っていますね。

■契約、今のほうがお得なのか?

今契約したほうがお得なんでしょうか。それも微妙です。5G対応の端末はまだ限られるうえ、ほとんど1台10万円前後と高額です。さらに、20年9月と予想されていた5G対応の「次期iPhone」の発売が数カ月遅れ、21年前半となる可能性があります。iPhoneは日本で最大の売れ行きを誇るスマホです。発売時期が遅れると、大量のiPhoneユーザーが5Gに触れる機会が後ろにずれます。

5Gの将来が暗いわけではありません。問題のほとんどは普及が進んでいないことが原因です。コンテンツ開発などが進めば今後には期待できますし、サービスに見合った料金になっていくと思います。

■通信制限、撤廃も

4Gで毎月のように月末になると「ギガ不足」に泣いていた利用者に恩恵もありそうです。期待されているのは通信制限です。今までは月の使用量が一定を超えると、追加料金を払わないと制限がかかっていましたが、今後はもしかすると大幅に緩和されたり、なくなったりするかもしれません。

4Gで通信量を制限していたのはみんなが無制限に使ってしまうと回線がパンクしてしまうからです。2車線の狭い道路に車が集中して渋滞になってしまうイメージです。5Gの普及が進めば、車線が大幅に増えますから、通信データもスイスイ走れるようになります。現在、KDDIは通信制限をなくしていますので、ドコモやソフトバンクが追随する可能性はあります。

新型コロナの影響で家で動画を見る機会は増えていると思います。ネットフリックスが教育コンテンツを無料公開するなどいろいろな形で利用する機会が増えています。動画だけではなく、オンライン飲み会やアイドルのライブ配信が流行するなどスマートフォンの使い方が多くの通信データを必要とし、より複雑になっています。そうなれば、4Gより5Gを使った方が便利ということで普及が進むかもしれません。

特に期待できるのは来年のオリンピックです。各社もPRの絶好の機会として重点を置くと思いますし、思い切ったサービスを展開するというところも出てくるかもしれません。

■楽天参入のインパクト

もうひとつの環境の変化としては楽天の新規参入があります。楽天の料金プランには正直驚きました。主力プランはデータ通信が大容量のタイプで月額2980円と大手3社の半額以下の水準です。携帯料金に厳しい指摘をしていた菅官房長官も「海外と比べても安い」と発言したほどです。端末価格も半額キャンペーンで安く契約できます。

楽天は後発なので、やはり顧客を集めるには低料金を打ち出すのが手っとり早い手段です。楽天の主力のネット通販事業との関連も見逃せません。アマゾンなどの影響で勢いに陰りが見えています。携帯電話から楽天市場へのお客さんの誘い込みを強める意味でも楽天は背水の陣で携帯市場に乗り出しています。

■「値下がり実感」の利用者は少なく

結局、携帯料金はどうなっていくのでしょうか。二つに分けて考えました。まず4Gについては低料金を打ち出した楽天に乗り換える顧客が多ければ、大手3社は対抗上、値下げせざるを得ません。

一方、5Gについては月額で500〜1000円は上乗せされるわけですから、上がります。携帯端末が高いこともあり、当面は割高感があるでしょう。

2018年6月に菅官房長官が「4割程度下げる余地がある」と値下げを迫った携帯電話料金。その後、各社は料金プランを見直しましたが、「携帯が安くなった」と実感している人は少数ではないでしょうか。1カ月の携帯電話料金が1万円だったのが6000円になって初めて消費者は4割下げを感じるのです。

「安くなったのかわからない」という声が多い背景には複雑でわかりにくい料金プランがあります。大事なのは消費者が自分の必要とするサービスを適切な料金で使えることではないでしょうか。「安さを優先する人は格安SIMや4Gを使ってください」「通信速度にこだわる人や最先端の技術を楽しみたい人は5Gをおすすめします」といったPRが一例です。携帯各社には利用者の立場から、わかりやすいプランと料金メニューを提示していくことが求められそうです。

(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)

値段の方程式
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。