キリンビールが9月15日に発売した新しいアルコール飲料は、野菜と果物の素材感を前面に打ち出した。高まり続ける消費者の健康意識に応える狙い。従来の製品に比べて高価格であるものの、体に良い素材感という高付加価値が既存の飲酒層だけでなく非飲酒層へも受け入れられると同社は期待している。

■RTDの新たな挑戦

キリンビールの新製品は「キリン ベジバル フルーツ&ベジの特製カクテル」で、同社で初めて野菜の繊維分までを原材料に用いたカクテル。割らずに飲める「RTD(レディー・トゥー・ドリンク)」の製品でオレンジ、レッド、グリーンの3つの色味ごとに果物とミックスして素材のおいしさを生かす味わいに仕上げたという。とろりとした舌触りが強く感じられる広口ボトルを採用し、パッケージでも新規性を訴求する。

キリンビールによると、野菜やフルーツを手軽に健康的に飲めるスムージーの人気が高まっており、「スムージー市場は直近5年で8.7倍」だという。RTDカテゴリーでも体に良さそうな素材感に対する期待が今後ますます高まると想定し、「スムージーのような」お酒を開発するに至った。

スムージー市場は直近5年で8.7倍と急拡大している

一方、同社の既存RTDブランド「氷結」「キリン・ザ・ストロング」「本搾り」の参考小売価格が350ミリリットルで税込み156円なのに対し、ベジバルは250ミリリットルで税込み229円と割高感は否めない。国内RTD市場はビール類に比べて圧倒的な低価格を背景に急成長した。2020年10月以降、酒税改正によりビール類の価格差が縮まるため、低価格の新ジャンルとビールとの差別化が難しくなる中、RTDの価格の低さは今後さらに強みになるとみられている。

そんな中、なぜあえて高価格のRTDを発売するのか。

同社執行役員の山形光晴氏は「体に良さそうな素材感という高付加価値の新カテゴリーへのニーズは高い。他カテゴリーからの流入だけでなく、普段アルコールをあまり飲まない消費者にもリーチできる」ともくろむ。さらに「(RTDは)清涼飲料水よりも安く売られている場合もあり、もう少し高付加価値な商品があれば価値を分かってもらえるのではと考えた。メーカーとしては、高付加価値で高収益の商品を提案するのもミッション」と、低収益性を指摘され続けてきたRTDカテゴリーにおいて、適切な価値を訴える新たな挑戦であることも明かした。

■成長ポテンシャルは「人工感」の解決

RTD市場は右肩上がりで成長を続けている。今回の酒税改正ではRTDの税率は据え置かれるため、酒税改正で市場の縮小が案じられるビール類に反し、RTD市場は改正が完了する26年には19年比で1.4倍も伸びるとキリンビールは予測する。

RTD市場の成長を踏まえてキリンビールは2つの策を取った。1つは需要増に備えた設備投資だ。75億円を投資して仙台工場にRTD製造設備を新設した。22年2月に稼働予定だ。長距離輸送の抑制を図り、環境負荷の低減も図る。

2つ目が新価値でカテゴリーの魅力化を図ること。同社がRTDを飲まない人に調査をした結果、「人工感がある」というのが飲まない理由のトップだった。山形氏は「それは体に良くない影響があるのではと気にしていることの裏返し」と分析する。この調査を基に、糖質オフやゼロ系への訴求を強化する一方、素材感や品質感へのニーズは満たしていないと考え、今回のスムージーに着想を得た、素材感をアピールする新製品を投入した。

同社マーケティング部RTDカテゴリー戦略担当の高橋祐介氏は、「健康意識が高まっているものの、ストイックなものではなく無理なく気軽に取り入れたいというニーズが多く、それに応える製品」と語る。

ターゲットは30〜40代の働く女性と、40〜50代のビジネスパーソン。アルコール度数は4%と抑えめで、高アルコールが隆盛のRTD市場にあって、この点でも異色だ。だが、「度数が高いからというだけではなく、品質感で購入している人も多い」(山形氏)と、あくまでベジバルを新しいカテゴリーとして打ち出す姿勢を示した。

コロナ禍で健康意識が一層高まっている中、体に良さそうな素材感の低アルコールRTDが新規ユーザーをどれだけ取り込めるかがヒットの鍵となりそうだ。

(ライター 北川聖恵)

[日経クロストレンド 2020年9月11日の記事を再構成]