世界各地で新型コロナウイルスの感染が広がる中、香港では鍋料理を囲んだ親族が集団感染したというニュースが伝えられた。「加熱しながら食べる物なのに、なぜ?」。食品を介し、ウイルス感染が広がることはあるのだろうか。

 世界保健機関(WHO)が発表した新型コロナウイルス感染症に関する報告書(3月4日)によると、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)などのコロナウイルスは過去、食品を食べたことで感染が広がった事例はない。新型コロナウイルスも同様で、現時点で同様の事例はないという。

 香港のケースはどうだったのか。九州大の橋口隆生准教授(ウイルス学)は「ウイルスは熱に弱い。煮沸された鍋料理の中では死滅する」と話す。

 鍋料理を食べたのは、春節の祝いで集まった親族19人で、感染したのは当初9人と報じられた。橋口准教授は「感染者は鍋を囲みながら、会話をし、料理を皿に取り分けたと考えられる。鍋料理そのものでなく、飛沫(ひまつ)や接触感染が原因となった可能性が高い」とみる。

 一方、WHOの報告書では、コロナウイルスは冷凍状態で安定しており、零下20度で最長2年間は生存するという特徴も示す。動物に由来する生の食品の表面ではウイルスが生存する懸念があるため、WHOは調理時の十分な加熱を推奨する。

 これを踏まえ、香港やオーストラリアの食品衛生当局は、感染リスクを減らす対策として「生卵を避ける」「肉と卵は十分に加熱を」などと呼び掛ける。日本でも同様の注意が必要なのだろうか。

 橋口准教授は「このタイプのウイルスは唾液や胃液にある程度は弱く、主要な感染経路にはなりにくい。加熱できるものは加熱した方がいいが、スーパーなどで買う食品を過剰に気にしすぎれば風評被害を招きかねず、通常の対応で問題ない。ただし、感染症全般の予防の観点からは生肉を食べるのはお勧めできない」としている。

 厚生労働省も「通常の食中毒予防のために行う一般的な衛生管理が実施されていれば、心配する必要はない」との見解を示している。(山下真)