東京五輪・パラリンピックの延期が24日、決まった。安倍晋三首相が提案した約1年の先送りを、国際オリンピック委員会(IOC)が受け入れた。五輪をレガシー(政治的遺産)にしたいと意気込む首相は、世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的大流行)を表明した11日には、7月開幕の通常開催は困難と覚悟。トランプ米大統領との盟友関係も利用し、中止や他国開催ではなく、延期に持ち込む国際世論づくりを主導した。

 「1年程度の延期を検討していただきたい」。24日午後8時。首相はIOCのバッハ会長との電話会談開始直後に切り出した。「2022年では、もはや東京開催の雰囲気ではなくなってしまう」と2年延期論を否定し、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして、完全な形で開催したい」と言葉を重ねた。バッハ氏から「100パーセント支持する」との賛同を引き出すのに、さして時間はかからなかった。

 「延期は前例がなく、中止の恐れは大きかった。開催できなければ日本にとって致命傷になる。首相や官邸はよく努力した」。自民党幹部はたたえる。

 東京五輪・パラリンピックは首相が自ら招致した大イベントだ。演説や外交の場でもたびたび持ち出し、政権浮揚の材料にしてきた。その首相が、東京での通常開催に危機感を募らせ始めたのは2月下旬だったという。ロンドン市長選の有力候補が同市での代替開催のアイデアを披露し、IOC委員が中止の可能性に言及。当時は欧州で本格流行する前で、患者が続出したクルーズ船など日本の感染状況が大きく報じられていた。中止や他国開催論が世界で高まる恐れがあった。

 日本で開催できなければ、経済効果は台無しとなり、自身の政治的求心力も急低下するのは目に見えている。「首相は焦っていた」と与党関係者。首相はその後、3月上旬にかけ、全国一斉休校や中国、韓国からの入国制限などの強い措置を矢継ぎ早に打ち出した。

 だが、今度は欧米で感染が加速。WHOは11日にパンデミックを宣言する。12日にはトランプ氏が延期に言及。バッハ氏も、「WHOの助言に従う」と表明した。日本だけの対策ではどうにもならない状況に、首相は通常開催断念の意向を固め、中止や他国開催を避けるための国際世論形成に注力する方針に転換する。

 「トランプ氏を説得したのが勝因だった」。官邸周辺は振り返る。首相は13日に早速、トランプ氏と電話会談。「日本でシンゾーの時に開催してくれ」との同意を取り付けた。テレビ放映権を通じてIOCに強い影響力を持つ米国の支持を追い風に、フランス、英国とも電話首脳会談。16日には先進7カ国(G7)首脳緊急テレビ電話会議で「完全な形での開催」を表明して賛同を得た。

 大会組織委員会の森喜朗会長らと頻繁に情報交換。国内の調整も進めた。公明党の山口那津男代表にも延期の考えを説明。「聖火が日本に着きさえすれば、日本開催は揺るがない。聖火が到着する20日まで『東京開催を人類がウイルスに打ち勝つ証し』と前面に出して中止論を抑え込む」。同党関係者には、官邸から首相の戦略が伝えられた。

 ただ、1年後に感染が終息している保証はない。延期に伴う巨額の追加費用の負担スキームも未定で、会談に同席した橋本聖子五輪相と小池百合子東京都知事はともに「協議したい」などと述べるにとどめた。今後、政治的な混乱要因になる可能性もある。「首相が安心するのはまだ早い」。政府関係者は指摘した。 (東京支社取材班)