平戸図書館に設けられた古川真人さんのコーナー

 15日の第162回芥川賞発表を前に、長崎県平戸市の的山(あづち)大島の人たちが吉報を心待ちにしている。候補作「背高泡立草」の著者古川真人(まこと)さん(31)=横浜市在住=は、母の千穂さん(60)が的山大島出身。作品は放置された納屋周辺に伸び放題となっていた草を一族が刈り取る物語で、的山大島の光景や方言がつづられている。

 古川さんは福岡市出身で「背高泡立草」は4回目の芥川賞候補作になる。

 大島村公民館図書室の一角には、これまでの候補作「縫わんばならん」「四時過ぎの船」「ラッコの家」などの表紙が掲示され、プロフィルとともに「盆・正月は、お母様の実家がある、この大島によくお墓参りに来られているそうです」と紹介。人口約千人の島にルーツを持つ作家を誇る心情がうかがえる。

 日頃はあまり本を読まない人も古川さんに関心を持ち、作品を借りて読んでいるという。

 人気の秘密は全作品に共通する「大島弁」の会話にもあるようだ。「背高泡立草」でも、島へ草刈りに来た子どもや孫を迎える女性が「おーい、来たな。上がんない」「あそこんにきは日の当たるもんね。それけん、ちゃんと咲くとよ」と方言満開。

 この女性は島で小さな食料品店を営む母方の祖母、内田玲子さん(88)がモデルとされる。玲子さんの体調を心配して福岡市から島を訪れている長男の内田哲也さん(66)も、作中に「哲雄」の名で登場する。2人の会話は自然と真人さんの話題に及ぶ。

 「やさしか子やったけん、取らしてあげたかね」と玲子さんが言えば、哲也さんは「作家志望やら全国にごまんとおるんだから、そう簡単にはいかんさ」。玲子さんを見舞いに来た隣人の白石くみ子さん(65)は「いや、書いたそばから候補になるっちゃから、才能があるとですよ。小さい時から観察力が細やかやった」と古川さんの幼少期を懐かしむ。

 大島小などで読み聞かせ活動に取り組む白石さんは「真人君の文章には素直な無垢(むく)の魂が感じられる。それも大島のDNAかもしれない」と話した。

 平戸図書館にも古川さんのコーナーが設置され、森川享子館長は「常に同じ場所を舞台にして描かれる淡い日常がいとおしい。今回の作品は話に広がりがあり期待大」とエールを送る。 (福田章)