エスメラルダ(左)とカジモドの衣装

 劇団四季のミュージカル「ノートルダムの鐘」が17日、福岡市博多区のキャナルシティ劇場で初日を迎える。フランスの文豪、ビクトル・ユゴーの小説を原作にした作品で、九州では初の上演。本番を前に、横浜市の四季芸術センターで行われた総稽古を見学した。

 総稽古の前の稽古場。約200人の劇団員や関係者たちが囲む。身ぶり手ぶりをしながらせりふを確認する演者たち。緊張感が漂う。四季でもトップクラスの喉を誇る聖歌隊の荘厳な歌が総稽古開始の合図となった。

 15世紀末のパリの物語で、複雑な出生を持ち、障害のある鐘突きの男、カジモドが主人公。若い女性のエスメラルダに、カジモドをはじめとした3人が心引かれる。複雑な人間関係の中に嫉妬、偏愛、怒り…。心の光と闇にスポットを当て、悲しみを抱えながら、ドラマは進んでいく。

 カジモド役の田中彰孝さん(福岡県直方市出身)、ヒロイン、エスメラルダ役の松山育恵さん、ノートルダムの大助祭フロロー役の芝清道さん(同県久留米市出身)たちを中心に舞台は展開する。鐘や石像など本番で使う重要な舞台装置はないものの、そこにあると見間違う臨場感あふれる雰囲気だ。

 第1幕を終え、休憩後の第2幕。演者たちは、登場人物が憑依(ひょうい)したかのような感情を込めた演技で周りを引きつけ、人間の尊厳を問う物語を表現していた。聖歌隊の歌は、登場人物のこれからの運命を暗示しているようだ。熱を帯び、クライマックスを迎えた。約2時間半の総稽古を終え、見守る団員たちから拍手が沸き起こった。

 迫力の演技。一寸の手抜きもない。私語もない。劇団員たちのそんな姿は芸術センター内の廊下の壁にある貼り紙で分かる。

 「慣れだれ崩れ=去れ」

 「一音落とす者は、去れ!」

 劇団四季の創設者、故浅利慶太さんの教えで、劇団員たちの心得という。その意味は。

 「慣れで芝居がだれて崩れるような人はいらない、いつでも新鮮な気持ちで」

 「台本に書かれた言葉を明晰(めいせき)に客席に届けるため、一音でも落とすようなものは去りなさい」

 劇団の礎を築き、日本のミュージカルを確立させた演劇界の巨人の言葉。劇団員たちは、これを心と体に刻んで福岡の舞台に臨む。

◆九州初上演「いよいよ来たな」 カジモド役・田中さん

 稽古を終えた田中彰孝さんが福岡公演に向けて抱負を語った。地元での舞台での出演も有力視されている田中さん。ノートルダムの鐘の九州初公演について「絶対、いつかは福岡と思っていた。いよいよ来たなと」と心躍らせる。キャナルシティ劇場(当時福岡シティ劇場)で、福岡県直方市の中学時代に「オペラ座の怪人」に衝撃を受け、舞台への憧れを抱いた田中さんにとって思い入れがある。1月まで同劇場であった「ライオンキング」の主人公シンバ役を演じた。今度は全く違う物語だが、「いい意味でお客さんを驚かすことができる。楽しみにしてください」と自信を見せた。

◆装置にハイテク、衣装にこだわり

 「ノートルダムの鐘」は、舞台装置や衣装などにも工夫が凝らされている。1月に行われた京都公演の舞台裏をのぞいてみた。

 舞台にはタイトル通り、大小七つの鐘が登場する。主人公カジモドが突き、パリの町中に時間を知らせる。この鐘、鉄ではなく、非常に軽い素材に表面をコーティングしてある。カジモドがロープを引っ張り、鐘が傾くと中にあるセンサーが反応し、音が鳴る仕組みだ。ステンドグラスはLEDを使った。「ハイテクの技術も混じっています」と舞台監督の真継史香さん。

 一方で、原作への敬意も忘れない。舞台には、白黒の市松模様の床板が敷かれている。これはノートルダム大聖堂の床と同じ模様だ。そしてギリシャ語で運命を意味するAnankē(アナンケ)と刻まれている。この文字が大聖堂に記されていたのをユゴーが見て、作品のモチーフにしたとされている。観客席からは見えないが、こうしたこだわりがスタッフの作品への思いを代弁している。

 衣装もそう。踊り子であるエスメラルダの民族服は絹製。くすんだ色を配している。エスメラルダの華やかな踊りとは、対照的な自らの境遇、そしてたどる運命を指し示すような色使いとなっている。エスメラルダの早着替えもあり、衣装担当の稲岡聡莉さんは舞台裏で待機し、わずか30秒で服を着替えさせる。「失敗したことはない」とプロ意識をにじませる。(山上武雄)

 ◆劇団四季「ノートルダムの鐘」 17日(月)〜6月14日(日)、福岡市博多区住吉のキャナルシティ劇場。西日本新聞社など主催。全席指定。S席1万1000円、A席8800円、B席6600円、C席3300円。現在、5月6日(水・休)公演分まで販売中。劇団四季予約センター=(0570)077489。