今夏に予定されていた東京五輪、パラリンピックが新型コロナウイルスの感染拡大を受けて1年程度延期されることが決まった。

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 衰えにあらがい、若手の突き上げ、プロ転向による環境変化と戦ってきた「世界のウチムラ」にとって残酷な報となった。五輪で現役最多の7個のメダルを手にしてきた体操の内村航平(リンガーハット)=長崎県諫早市出身=は苦しい決断を迫られることになった。

 個人総合2連覇を果たした前回リオデジャネイロ五輪以降は度重なる故障。両肩痛などを抱える31歳は「筋力がすぐ落ちる。維持すら難しい」と苦笑いを浮かべたこともある。筋肉をほぐし、痛みをやわらげるために生理食塩水を入れる両肩への注射は「通算100本を超えた」と体にむちを打ち続けてきた。

 昨年4月に個人総合の全日本選手権で予選落ち。東京五輪を「夢物語」と語り「今後に何にもつながってないし。終わったな、という感じ」と諦めと取れる言葉を残した。世界選手権の出場を逃し、2008年北京五輪から11年守り続けた日本代表の地位も失った。

 それでもこの1年、「(五輪開催地が)東京ではなく、(次回開催予定の)パリだったらやっていない」と必死に緊張の糸をつなぎ留めてきた。「その先に何があるか分からないけど、結果を残して、競技の価値を高める意味がある」。日本を3大会ぶりの団体総合制覇に導き、列島を沸かせたリオデジャネイロ五輪後の16年末には体操界初のプロに転向。未開の境地を開き、スポーツ界、体操界発展に尽くしてきた先駆者としての誇りや意地もある。

 この冬は温暖なオーストラリアを中心に練習を重ねて「最後の挑戦」となる4月の五輪代表選考会に備えてきた。「リオが終わってから、想像を絶するほど苦しい戦いになると読んではいたけど、それをはるかに超える大きな『壁』をもらった」と漏らしたこともあるその壁はさらに高くなった。 (向吉三郎)