アジア1位は東京五輪へのスタート。石川祐希のサーブは進化の象徴だ。

アジア1位は東京五輪へのスタート。石川祐希のサーブは進化の象徴だ。

 強打を警戒する相手の前に、ぽとり、と緩くボールが落ちる。

 7月24日から8月1日までインドネシア・スラバヤで開催されたアジア選手権決勝のカザフスタン戦。

 男子バレー日本代表のエース石川祐希は、バックアタックさながらの強烈なものではなく、相手の守備布陣を見て打つ瞬間にテニスのボレーのように空中でタイミングを合わせたショートサーブを放った。ここまでの連戦から、石川のサーブで日本が得点を重ねていたことを警戒したカザフスタンの選手はコート中央よりもやや後方で守っていたが、ボールが落ちたのはアタックライン付近。予想と異なるサーブにカザフスタンの選手は対応できず、そのままサーブポイントとなった。

「思ったよりも簡単に崩れてくれた」

 相手の裏をかいた狙いを、石川が明かす。

「(7月にオーストラリアで開催された)世界選手権のアジア最終予選はまだ腰が痛くて、全力でサーブが打てなかったし、ショートサーブも調整できなくてチャンスサーブしか打てなかったんです。今はコンディションも上がってきたし、腰も大丈夫。サーブは常に攻めるものだけれど、全部全力で打つだけだときついから、ショートサーブも入れておこうと思って、あえて狙いました。思ったより崩れてくれたので立て続けに打ったんですけど、あまりずっとショートサーブだけだったら揺さぶりにならないので、ところどころは、強く打つ。そうしたら思ったよりも簡単に崩れてくれたので、効果があったなって。試合の中でいろいろ試すことができてよかったです」

 国内もアジアも、もちろん世界も。

 今、バレーボールで勝つために最も重要な要素は何か、と問えばおそらく多くの人が口を揃えるはずだ。

 サーブだ、と。

 2015年大会に続いて2大会連続9度目のアジア王者に輝いた日本代表も、勝利を手にする大きな武器となったのがサーブだった。

バレーの国際大会は多いが、重要性が違う。

 バレーボールの国際大会は多く、世界選手権やワールドカップなど4年に一度の大会が毎年開催されるため、何が一番大きい大会なのか、バレーボールにはあまり詳しくない、という人にはわかりづらい。

 五輪翌年の今年度も9月にワールドグランドチャンピオンズカップが開催されるが、出場するのは男女6チームずつであり、新監督が就任した日本のように、新たな体制で戦力となる選手を見極める要素が強い。日本にとっては勝敗よりもまず、世界のトップとどれだけの差があり、その差を埋めるために何をすべきか。今後につながる課題を明確にすることが重要な目的でもある。

世界選手権の予選こそが、今年最も重要な大会だった。

 そのため、中垣内祐一新監督が就任した男子日本代表も、今季最も大きな比重を置いていたのが7月にオーストラリアで開催された、世界選手権出場がかかるアジア最終予選だった。

 チャイニーズタイペイ、ニュージーランド、タイ、オーストラリアとの総当たりリーグを1位で終えた日本は、来年イタリアとブルガリアで開催される世界選手権の出場を決めた。

 新チームにとって初めての公式戦となったワールドリーグから間もなく世界選手権アジア最終予選を戦い、わずか数日を挟んで今度はトーナメント形式で王者が決まるアジア選手権。

 試合を重ねることが重要な時期とはいえ、中垣内監督が「試合が続いてコンディションを整えるのも難しい。別のチーム、メンバーで臨むことも考えた」と言うように、それほど比重が高いわけではなく、疲労がたまった選手にとってはモチベーションやコンディションを維持することも難しい大会ではあった。しかし、実戦を重ねることでしか得られない手応えや、見つかる課題は多くある。

世界で戦うサーブは「台上から打つ感覚」?

 なかでもサーブとレセプションは、中垣内監督、フィリップ・ブランコーチが就任直後から世界と戦うための課題として掲げてきたものであり、石川が強弱を織り交ぜたように、それぞれの選手が目的を持ったサーブにチャレンジする姿が見られた。

 特に著しい進化を見せたのが、ミドルブロッカーの山内晶大とオポジットの出来田敬だ。当初、就任間もないブランコーチから「そのチャンスサーブでは得点につなげることはできない」と酷評された2人だが、シンプルなアドバイスに基づき、練習を重ねた結果、これまで以上に相手を崩すサーブが打てるようになったと出来田は言う。

「とにかく高いところでヒットして、台上から打つような感覚でスイングしろ、と。通過点を高くして、ボールをインパクトする瞬間に振り抜くのではなく、しっかり止める。新しいことではなくシンプルなことばかりですけど、確実に変わって来た実感はあります」(出来田)

狙われるのは攻撃の中心である石川や柳田。

 サーブ力が上がれば、当然、それを受けるレセプションも向上しなければならない。「とにかくオーバーカットで取ることを心がけて来た」と柳田将洋が言うように、コート前方で構え、ジャンプフローターサーブのボールが変化する前にオーバーハンドでレシーブする。練習から徹底した結果、ワールドリーグや世界選手権アジア予選でも大崩れすることはなく、相手に献上する直接失点も減った。

 だが、ジャンプサーブよりもジャンプフローターサーブを放つ選手が多かったアジア選手権では、オーバーハンドで後方に弾くケースや、アンダーハンドで取るのかオーバーハンドで取るのか判断を迷い、セッターがトスを上げられない返球も少なくなかった。

 相手からすれば、ただサーブで得点するというだけでなく、万全な状態で攻撃をさせないことも狙いであるため、当然ながら狙うのは守備専門のリベロではなく、ウィングスパイカーの石川や柳田だ。

 特にアジア選手権の序盤は石川が狙われ、自身も「感覚が悪かった」と振り返ったように、レシーブした後のプレーにも影響を及ぼすことがあり、唯一敗れた予選リーグの韓国戦では石川のスパイクミスも相次いだ。

アジアでは合格、あとは世界トップの国にどうするか。

 崩された時にどう立て直すか。リベロの井手智はこう言う。

「フローターの時はマサ(柳田)を外して、基本は祐希と2枚です。もう少しカバーに行きたいとも思うんですけど、パスをしてから攻撃に入るリズムもあると思うので、邪魔にならないようにしないといけない。多少レシーブが崩れても攻撃が決まっている時は問題ないので、全部オーバーで取れるようにもっと前に出すとか、2人の攻撃を生かせるようにどれだけカバーできるか、というのがこれからの課題だと実感しました」

 準々決勝のオーストラリア戦以降は柳田もレセプションに入り、あえて相手に柳田を狙わせることで石川の攻撃回数を増やし、スパイクで得点を重ねた結果が勝利にもつながった。

 とはいえ、アジア選手権の出場国はサーブの威力やブロック戦術がそれほど高いわけではなく、崩れても点を取れた。これがフランスやブラジル、アメリカといった世界トップレベルの国々に対してどう対応できるか。更なるサーブ力、サーブ戦術の向上と共にレセプションも大きな課題であるのは間違いない。

アジア1位の自信は、東京五輪へのスタートライン。

 アジア選手権の直後に世界選手権予選を戦うイランはU-23代表チームで挑み、オーストラリアも本来のベストメンバーではない布陣で臨んだ。前述の中垣内監督のコメントのように、日本も異なるメンバーで臨めばよかったのではないか。もっと積極的なメンバー交代をするべきではなかったか。そういう声があがっても無理はない。

 だが、ワールドリーグからの約3カ月、新たな体制でスタートしたチームにとって最も重要なことは、取り組むべき課題に着手し、なおかつ結果を残すこと。決して高い比重があったわけではないアジア選手権を制したことも、これからのチームにとって大きな意味があるとキャプテンの深津英臣は言う。

「僕らには日の丸を背負って戦う責任があります。そのためには試合に出続けることでスタミナもつけなきゃいけないし、覚悟も持たなければいけない。だから、疲労もたまって、モチベーションを保つのが難しかったアジア選手権で勝てた。どんな形であれ、アジアで1位になれたということは、このチームや選手にとっても自信になるものだと思います」

 逞しさと覚悟を備え、同じ方向へ進む。

 すべての大会、すべての経験や課題を糧にしてどれだけ強いチームになれるか。

 東京五輪まで3年を切った。ようやくスタートラインに立ったチームは、果たしてどんな進化を遂げるのか――。

文=田中夕子

photograph by Getty Images

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