バッジョと同じ道を辿り、違う背番号。ベルナルデスキが10番を選ばない訳。

バッジョと同じ道を辿り、違う背番号。ベルナルデスキが10番を選ばない訳。

 シーズンの開幕が近づくにつれ、気になるチームの“10番”が巷の話題になるのは、イタリアでの毎年の常だ。

 スクデット6連覇王者ユベントスの10番は、昨夏以来空き番となっている。

“ユーベの10番”といえば、かつて将軍プラティニや天才バッジョ、そして元主将デル・ピエロといった稀代の名手のみに許されてきた栄光の象徴に他ならない。

 気温40度を越す猛暑が続くこの夏、フィオレンティーナで背番号10をつけていたMFフェデリコ・ベルナルデスキが、常勝軍団ユーベへやってきた。

 イタリア代表でも主力に定着しつつある若武者は自他共に認める10番タイプのプレーヤーで、6月にポーランドで行われたU21欧州選手権での2ゴールを手土産に、ユベントスと5年契約を交わした。

 左利きのサイドアタッカーとして、ドリブルスキルもシュート精度も高い。端正な顔立ちも“老貴婦人”のお眼鏡にかなう。

バッジョが辿った道を歩みながら、10番は選ばず。

 何より「フィレンツェのファンタジスタが王者ユーベへ」というストーリーは、かつて27年前に天才バッジョが辿った道のりを想起させる興奮に満ちている。

 今夏クラブ最多の移籍金4000万ユーロを費やして獲得されたベルナルデスキは、バッジョら偉大な名手たちの系譜に連なる10番の正統後継者として入団したのだ。

 ところが、彼は10番を選ばなかった。

 なぜか33番という背番号を選んだベルナルデスキは、入団が決まった後しばらく経ってから、地元メディアに理由を明かした。

「バッジョはイタリア史上最高の選手。彼と比べるなんておこがましいよ。それより、僕は信仰を大事にしたい。33番は大事な数字だ」

 一見何の意味もなさそうなゾロ目の数字だが、キリスト教世界の人間にとって「33」という数字には、イエス・キリストの没年齢という重要な意味がある。暗黙の了解で、人生の節目や験担ぎの際に使われることが多い。

しかしユーベは内紛で主力が2人退団。

 自身の信仰を表すために、脇腹と右腕にキリストの肖像を彫り込んでいるベルナルデスキは、33番を背負って臨む今シーズンを、今後のサッカー人生をかけた勝負の1年だと捉えている。

 今季の開幕を控えるユベントスは、チーム再編成の最中だ。

 彼らは昨シーズンに史上初のスクデット6連覇を達成。またコッパ・イタリア3連覇も果たし、3年連続国内ダブルタイトルという前人未到の偉業も成し遂げた。

 しかし6月3日、カーディフでのCLファイナルで、レアル・マドリー相手に大敗。意気込みが相当高かっただけに、4失点惨敗のショックは尾を引いた。

 歴史的大敗から数日後、鉄の結束と信じられていたユーベのロッカールームで決勝中に諍いと分裂があったと報じられ、それを裏付けるようにDFダニエウ・アウベス(現パリSG)とDFボヌッチ(現ミラン)が相次いで退団した。

 特にボヌッチ流出が内外に与えた波紋は大きく、ナポリFWインシーニェが「今季のユーベは確実に弱体化した」と語るように、ライバルたちの眼の色も変わった。

4-2-3-1をベースに、スピードアップを模索中。

 それでも、王者を率いる指揮官アッレグリとマロッタCEOは、チームの補強とバージョンアップを精力的に進めつつある。彼らは負けっぱなしで終わることを決して良しとしない。

 即戦力としてバイエルンからMFダグラス・コスタを獲得し、ミランのDFデシーリオも引き抜いた。昨季途中から導入した攻撃的布陣4-2-3-1をベースに、縦への攻めのスピードアップが狙いだ。

 4年ぶりに参加した米国でのICC(インターナショナル・チャンピオンズ・カップ)では、バルセロナに1−2で敗れたものの、パリSGとローマにはしぶとく競り勝ち、2勝1敗でツアーを終えた。

 FWイグアインやFWディバラ、FWマンジュキッチら従来の攻撃陣がきっちり結果を出し、ベルナルデスキもローマ戦で新チームでのデビューを飾った。

CL決勝の後半に彼を投入できていたら……。

 スタメンの座を巡る競争は激しい。

 2列目の右サイド先発はD・コスタが濃厚で、控えにはコロンビア代表FWクアドラドがいる。逆の左サイドにはCL準優勝の立役者マンジュキッチがそびえ立ち、中央はエースのディバラの指定席だ。

 だが、シーズンは長い。

 テクニシャンを好む智将アッレグリは、セリエAでもCLでも、背番号33を背負うレフティが必ず貴重な戦力になることを見通している。

 ベルナルデスキほど使いどころのあるマルチロール・アタッカーはそういない。

 左右両サイドとトップ下はもちろん、膝の故障から復帰したMFマルキージオを中盤の底に置く4-3-3では、3トップの左でもプレーできる。いざとなれば、今夏のU21イタリア代表で見せたようにセンターフォワードとしての働きもできる。

 昨季のデータでは枠内シュート率、得点率いずれもチーム内のライバルたちを凌ぐ。細面で当たり負けしそうな印象があるが、デュエルでの実際の勝率は8割にも上る。

「ベルナルデスキは我々に熱をもたらしてくれたよ。あふれんばかりの活気に満ちた選手だ。まだまだチームに馴染んでいく必要があるが、きっとユーベにとって重要な選手になってくれるはずだ」

 カーディフでの決勝戦の後半に、もしベルナルデスキを投入できていたら。

 指揮官アッレグリにとって、ベルナルデスキこそ待ち望んでいた“ジョーカー”なのだ。

10番の重圧に苦しんだポグバの二の舞は避けたい。

 主将ブッフォンは、同郷カッラーラ出身の後輩の入団を歓迎しながら「(今季)無理やり10番を背負って、成長の足枷を作ることはない」と、親心も見せる。

 発言の念頭にあるのは、2シーズン前にユーベの10番を背負ったMFポグバ(現マンチェスター・U)だろう。ポグバは無骨なストライカーだったFWテベス(現上海申花)から背番号10を引き継いだが、シーズン序盤から重圧のために不調に陥った。終盤には、背番号の10の横に小さく「+5」と書き添えて、元の背番号6にあやかろうとしたほど苦しんだ。

10番への野望は隠さず、将来的には?

 今季のセリエA開幕が19日に迫る。

 6連覇王者ユベントスは守備陣の再強化を課題として抱える中、13日にはラツィオとのイタリア・スーパー杯も待ち構えている。

 今季、背番号10を固辞したベルナルデスキは、自らを「天才バッジョに喩えないでほしい」と謙虚だったが、“10番を欲していない”とは決して言っていない。

 背番号33を選んだ理由を明かした後、ベルナルデスキは付け加えた。

「“ユーベの10番”の重みは特別。だが、10番こそ肌に馴染んだ自分の番号だと思っている」

 つまり、背中の33番はこの1シーズン限り。

 今季が終わる頃、ユーベの10番をつけるにふさわしいのはベルナルデスキだと満天下に認めさせるのだ。

文=弓削高志

photograph by AFLO

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