炎天下で連戦するIHサッカーの死闘。日大藤沢が考えた17人で勝つ方法。

炎天下で連戦するIHサッカーの死闘。日大藤沢が考えた17人で勝つ方法。

 真夏の連戦、インターハイ。宮城県で開催された今年は、暑さと言う面では例年と比べてそこまでひどくはなく、1回戦や準決勝、決勝の気温は若干の肌寒さを感じるほどだった。

 しかし、1回戦から3回戦まで連続して試合に出て、わずか1日の休みを挟んで準々決勝から決勝まで戦い抜くというこのレギュレーションは、あまりにも過酷ではないだろうか。

 そして、さらに彼らを苦しめているのが、大会にエントリーできる登録人数の少なさである。

 高校選手権は登録人数が30名でベンチ入りは20名。

 高円宮杯プレミアリーグはベンチ入りこそ18名だが、これはリーグ戦のための登録選手30名の中から試合ごとにメンバーを入れ替えることが出来る。

 プリンスリーグは地域によって異なるが、プリンスリーグ東海では試合毎の登録とリーグ登録は25名以内、プリンスリーグ東北では試合毎の登録は20名以内、リーグ登録は30名以内となっている。

 しかし、インターハイは登録の時点で17人しか認められていない。

 つまりピッチ上以外のベンチにいるメンバーは6人で、うちフィールドプレーヤーがたった5人しかいない。

 しかも、連戦にもかかわらず、ケガ人が出たときの補充も認められていない。負傷離脱した選手がいるチームは、より少ない人数で回していかなければならないという非常に厳しい条件下で彼らは戦っているのである。

 そんな過酷な条件下で、インターハイを勝ち抜くために重要視されるようになったのが、「17人のマネジメント」にある。

選手の起用法で最も工夫があった日大藤沢。

 異常な消耗戦の中で、17人という限られた人数を有効活用し、どうやって決勝までチームをマネジメントしていけるか……。

 このマネジメントをどこよりも徹底して重視したのが、今夏、準優勝に輝いた日大藤沢だった。

「我々は流通経済大柏さん、市立船橋さん、前橋育英さん、青森山田さんのような『横綱相撲』で勝ち上がることは出来ない。だからこそ、17人のマネジメントで準備をしっかりとして戦って行こうと臨みました。日本一になるために、日本一の準備をしようとしました」

 こう語るのは日大藤沢の佐藤輝勝監督である。

ベンチメンバーの5人が非常に重要になるIH。

 まずはベンチ入りするフィールドプレーヤー5人のチョイスが重要になる。

 控えの鉄則として「試合の流れを変えられるストライカー」は必要である。真夏の連戦であるがゆえに、試合をこなすごとに終盤の運動量は落ちていく。しかも35分ハーフの短い戦いだけに、チームを活性化させたり、流れを一変させる即効性の高いストライカーは必要不可欠。

 さらに、キックの精度が高かったり、高さを持った「スペシャリスト」を1人入れておく。

 そして残り3人は、「どのポジションでも出来るポリバレントな選手」。怪我人が出たときにすぐにその穴を埋められる選手を置くことで、緊急事態に備える。

マーロン、三田野、栫、菊地、岩崎を選んだ理由。

 具体的に日大藤沢はどうこの5人を活用したのだろうか。

「6試合戦うことから逆算したときに、まず前線ならどこでもやれてタメを作ることが出来るスペシャリスト1人(FWギブソン・マーロン)。決定力を持ったストライカー1人(FW三田野慧)の2枚は外せない。それ以外はマルチでありながらも、何かチームにプラスになる交代が出来る選手をセレクトしました。本来、アンカーのポジションならもっと上手くて、『なぜあいつが17人に入らないんだ』という声が挙がる選手がいるのですが、今回入れたDF栫(かこい)俊輔は中盤、トップ下、CB、両サイドが出来る。MF菊地大智は身体能力が高くて、右も左も蹴れるし、点も獲れる。この2人を置いておいて、もう1人は左利きの岩崎颯太。彼は2年生なのですが、17人の中でアクセントとなれる選手ということで入れました」

 今大会はケガ人が1人も出なかったので、DFの栫の出番は無かったが、残りの4人は大車輪の活躍を見せた。

 ギブソン・マーロンと三田野は、6試合すべてで、ハーフタイムもしくは終盤に投入され、流れを変え続けた。

途中出場でも必ず試合の流れを変えてきた。

 最初の山場となった2回戦の昌平(埼玉)戦では、0−1で迎えた56分に三田野が投入されると、直後の58分にファーストプレーで同点弾を挙げ、59分にはオウンゴールを誘発して逆転。一気に試合をひっくり返し、2−1の勝利を掴みとった。

 3回戦の帝京第三(山梨)戦では、0−0で迎えた43分にギブソン・マーロンが、46分に三田野が投入されると、三田野のポストプレーとギブソン・マーロンのボールキープが、こう着状態だった試合を徐々に日大藤沢ペースに持っていった。62分に三田野のクロスのこぼれをMF小屋原尚希が決めて先制すると、後半アディショナルタイムには投入したばかりの岩崎が起点となり、ギブソン・マーロンがトドメのゴールを決めた。

 準々決勝の旭川実業(北海道)戦でも三田野、ギブソン・マーロン、岩崎の3枚のカードを切った後に決勝弾が生まれ、アディショナルタイムには菊地が投入され、試合を締めた。

 そして今大会2つ目の山場となった準決勝・市立船橋(千葉)戦では、58分に失点し、0−1にされると、そこからギブソン・マーロン、岩崎、菊地を立て続けに投入。すると後半アディショナルタイムのラストプレーで菊地が起死回生の同点ゴール。PK戦ではこの3人が全員成功し、前年度覇者を下す金星をもたらした。

風呂につかってしまうと緊張感が無くなるので……。

 ただ、ファイナリストになったのは、選手交代の妙だけではない。

「6試合を逆算したときに……まず考えたのが『疲労=怪我』ということ。いかに怪我をさせないかと考えたときに、僕らは仙台入りをなるべくギリギリにしました。そして、素晴らしい旅館に泊まっていたのですが、大風呂に入らないで、シャワーで済ませることを徹底しました。緊張感を持ちながらも、かつ疲労を取るにはどうすべきかを考えていたのですが、シャワーで汗を流し、後はマッサージとストレッチで乳酸はきちんと取っていくというやり方でした。

 結局、大会中は誰一人離脱しなかった。

 3回戦と準々決勝の中日も、練習の強度を緩めなかった。そうしたら流通経済大柏は紅白戦をやっていた。『あ、同じだな』と思いましたね(笑)。いかに緩めないで戦うか。1試合ごとに一息ついてしまって、ビッグゲームの後に良いパフォーマンスが出せないチームが多かった。僕らはそう言うことが無いように戦えた。

 怪我をさせない、気持ちも身体も緩めない。入ったら緊張感を持ってやる。そうじゃないと、僕らはファイナリストにはなれなかったと思います」

優勝した流通経済大柏も、ケガ人は0だった!

 優勝した流通経済大柏を見ても、空中戦を得意とし、屈強なフィジカルを誇るストライカーの安城和哉、決定力の高いアタッカーのMF時岡寛拓とMF近藤潤という、「1人のストライカーと2人のスペシャリスト」のうちの2人をベンチに置くと、残り3枠はポリバレントな選手を配置していた。

 流通経済大柏もまた、この5連戦の中でケガ人が1人もいなかった。長崎総科大附属と前橋育英の優勝候補とのビッグゲームを連勝し、決勝も最後まで運動量が落ちずに2度目の優勝を成し得たのは、日大藤沢同様に「17人のマネジメント」が光っていたからに違いなかった。

 この両チームがファイナルを戦い、最後は地力で勝る流通経済大柏が激戦を1−0で制す。これはまさに必然の流れであったのだった。この両チームの「17人のマネジメント」に改めて賛辞を贈りたい。

IHで、サッカーだけ改革していくことは難しいが……

 しかし、インターハイは本当にこのままでいいのであろうか。

 真夏の炎天下、17人で連戦を回していく過酷さを毎年のように目の当たりにしている筆者は、インターハイが20人登録制にならないかと長らく訴え続けてきた。

 もちろん予算の問題が大きく横たわるのは理解出来る。インターハイはサッカーだけの大会ではなく、様々なスポーツの真夏の祭典。ゆえにサッカーにだけ改革を施すようなことは出来ないかもしれない。しかし、今年こそ比較的暑さが抑えられた大会となったが、これが通常のように強烈な暑さの中での連戦となったら、再びこの問題がクローズアップされることは間違いない。

 どの監督に聞いても、「本当はインターハイを経験させたい選手がいたが、控え選手のバランスを考えると入れられない選手がいる」と異口同音に話した。たった3人であるが、その3人が増えるだけで、戦い方の幅は広がり、1人の選手の酷使の危険性も減る。さらに選手の経験値も広がり、インターハイを経て一気に成長していく選手はより増えるはずだ。

チームにとって20人でもマイナス要素はひとつもない。

「このままインターハイを17人で続けても良いのでしょうか?」

 佐藤監督に率直にこう質問をぶつけると、こう口を開いた。

「ひと言だけ言わせていただけるなら、より“プレーヤーズファースト”になればいいな、というのはありますよ。たった3人増えるだけですが、この3人が経験を積むことが凄くチームにとって大きなことなので。たとえ試合に出る機会がないまま終わったとしても、ベンチの中でユニフォームを着て準備して試合を見て、空気を感じるだけでも彼らは成長するんです。マイナスになることは1つもなくて。出来れば20人でやってもらえるとありがたいというのが本音ですね」

 佐藤監督以外にも、17人枠の拡大を訴える指揮官は多かった。変革はいろんなしがらみがあり、難しいかもしれないが、佐藤監督の言うように“プレーヤーズファースト”の考えのもとで、その重い腰を上げてくれることを切に願う。インターハイはあくまでも選手が成長する大会でないといけないのだから。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando

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