フェンシング高円宮杯W杯を戦う若き精鋭。松山、西藤、鈴村の覚悟。

フェンシング高円宮杯W杯を戦う若き精鋭。松山、西藤、鈴村の覚悟。

 来たる2019年1月26日・27日に、「JAL Presents 2019高円宮杯 フェンシングワールドカップ東京大会(男子フルーレ個人・団体)」が、港区スポーツセンター(JR山手線田町駅から徒歩5分)で開催される。

 世界のトップフェンサーたちの極限の戦いを日本で目にすることができる貴重な機会なのだが、今回はなんと、入場無料。しかも、選手たちが試合をするピストの周りを観客がぐるりと取り囲んでスタンディングで観戦するという、これまでになかった臨場感あふれるスタイルでの開催ということもあって、2020年の東京五輪へ向けて、フェンシングをより身近に感じることのできるイベントとして、注目が集まっている。

若手がタキシード姿で。

 今大会、まず注目すべきは、大会ポスターの被写体として抜擢された、日本の若手選手たちのプレーぶりだろう。

 2018年12月14日付の国内男子フルーレ(シニア)ランキングで1位の松山恭助(早稲田大)、2位の西藤俊哉(法政大)、そして日本代表団体でも活躍する、同6位の鈴村健太(同)である。彼らは4位の敷根崇裕(残念ながら取材当日は体調不良で話を聞くことができなかった)とともに、今大会のポスターにスーツ姿で登場し、大々的にフィーチャーされている。

 国内ランキング上位者のうち、次代を担う――端的にいえば、東京五輪で中心選手となるであろう、その期待を込めてのポスター起用だった。

 当然のごとく、昨年12月に開催された全日本選手権では、彼らに注目が集まった。決勝は東京グローブ座という古代武闘場を思わせる劇場ではじめて開催され、AbemaTVで決勝の生中継を見た視聴者が30万人超となった。

 フェンシングのスポーツとしての激しさと、エンターテインメントとしての可能性を大きくアピールした大会となったのだが、その決勝の舞台で、ポスターとなった4選手のうちの2人が頂点を競うのでは、と思っていたファンは少なくないだろう。

 しかし、松山が準決勝敗退の3位。鈴村が5位、西藤は7位、敷根は10位。4人の誰一人として、決勝に進むことはできなかった。

経験豊富な松山が持つ自負。

 2016年の同大会チャンピオンであり、ナショナルチームのキャプテンでもある松山は、上野優斗(中央大)との準決勝、14−14からの一発勝負に敗れ、決勝進出を逃した。

「準々決勝で西藤選手に勝った時点で、2日後に控えていた決勝のほうに意識が向かってしまっていました。目の前の相手に対して戦略を立てることなく、何となく準決勝の試合に臨んでしまったんです。その油断が命取りだったと思います」

 国内ランキングトップ。国際大会での経験も豊富な松山には、十全に力を発揮できれば、こんなところで敗れる自分ではない、という自負がある。

「決勝には残れなかったけれど、今の自分の技術には自信を持っていますし、特にここ2年ほどで、自分のスタイルが見えてきたんです。僕はディフェンスもオフェンスも、いろんな引き出しを持っていて、頭を使いながら、相手によって柔軟にフェンシングを変えることができるタイプだな、と、改めて自分を位置付けています。

 たとえばディフェンスが強い選手に対しては、無理にアタックを仕掛けるのではなくて、相手を動かしながら駆け引きの中で勝つ。以前は第三者の意見に左右されてしまっていた頃もあったのですが、ようやくスタイルがわかってきました」

「真ん中に持ってきたい」

 実際に試合を見ていると、そのオールラウンダーぶりもさることながら、彼のプレーや所作には、他のフェンサーとは違う華やかさがある。空いた時間には近年流行りのクラブミュージックであるEDMを聴いたりと若者らしい一面も見せるが、そのプレースタイルにはある種の優雅さが感じられるのだ。

「決して自分がそうだとは思っていませんが、華やかさやスター性というのは、スポーツ選手として大事だと思っています。

 僕は昔から、アンドレア・バルディーニという、イタリアのスター選手に憧れていたんです。自分と同じ左利きで、本当にプレーが華やかで。だからプレースタイルや技はもちろん、マスクを取る時、剣を曲げる時とか……小さい頃はちょっとした仕草を真似していましたね(笑)。

 バルディーニもそうでしたが、サッカーや野球でも、『真ん中に持ってきたい選手』っているじゃないですか。自分もそういう選手になりたいと思っているんです」

 高円宮杯では、とにかく自分のプレーに集中して、「勝つ」ところを観客に見せたい、と松山はいう。「それこそが選手としての仕事ですから」と。その勝利の先にこそ、東京五輪はあると、彼は信じている。

 また彼はおそらく日本代表チームのキャプテンとして、団体戦でも日本の2大会連続メダル獲得に向けてチームメイトを鼓舞していくことだろう。

「キャプテンとして、メンバーへの声がけなどもしっかりしていきます。東京五輪へとつながる大事な大会です。しっかりと結果を残したいですね」

鈴村にとってW杯は特別。

 鈴村健太にとって、高円宮杯ワールドカップは、特別な大会だ。岐阜県立大垣南高校時代、初めて出場したシニアの国際大会が、この高円宮杯だったのだ。

「それまで世界のトップシニアと剣を交える経験がなかったのですが、高校1年の時に呼んでいただいて出場しました。その時、ベスト64に残れたんですね。当時まだ現役だった太田雄貴さんを含めて、日本選手は5人ぐらいしか残っていなかった。そのとき、僕は世界でも戦える、自分にもチャンスがあるんじゃないか、と思ったんです。

 2008年北京で太田さんが銀メダルを獲って以来、自分の夢となっていた五輪でのメダルが、夢でなく、具体的な目標に変わりました。そのきっかけとなった大会なので、思い入れは強いですね」

 大垣南高校から、法政大学に進学。前回大会の団体3位にも貢献し、順調な成長を遂げてきている。

 182cmという日本人としては恵まれた体格を生かした大きなプレースタイルは、試合会場でも目を引く。長いリーチを生かし、遠い間合いから放たれる思い切ったアタックは意外性に満ち、フェンシングのダイナミックな魅力に満ちあふれている。

「ボクシングでも、パンチを打つ予備動作が見えたら相手もガードをしてしまうのでしっかりディフェンスできますよね。でも、その予備動作がないままに、不意に打たれると反応できない。僕は、相手の間合いよりも2歩くらい遠いところ、『この距離はまだ安心だ』と油断しているタイミングで、予備動作なく、ズドンとアタックを仕掛けられる。相手はどうしても避けるのが遅れますから、そのアタックが実らなくても、そこから次のプレーへとつなげていけます」

「軸」を持って世界の頂を。

 フェンシングの時間と、その他の時間。鈴村はオンとオフをハッキリ区切り、オフの時間にはJ-POPを聴いたり、ゲームに興じている。『ポケットモンスター』などの育成ゲームや、『ドラゴンクエスト』といったRPG。「ゆったり、こつこつ」楽しめるゲームが好きだというように、練習でも「マイペース」なのだそうだ。

「遠い間合いで攻めるのが好きなぶん、近い間合いがあまり得意ではなくて。最近は『壁突き』という、人形相手の練習で、近い間合いではその場で突くのがいいのか、一歩離れてスペースをつくってから突くのがいいのか、ずっと練習場の隅っこで試行錯誤しています。知らない人が傍から見れば、チョンチョンと一人で何やっているのか? っていう感じでしょうけど(笑)」

 ナショナルチームに入っていることから、所属大学以外でもいろんなアドバイスを受けるようになった。そういった幾多のアドバイスも、鵜呑みにはしない。しっかりと取捨選択して、必要だと思ったものは、「自分の軸という幹に、枝をつけていく」ように取り入れていく。

「大事なのは軸です。軸がないところに枝をつけても、飛んでいっちゃいますから」という独特の表現でフェンシングを語る鈴村は、今大会でも、地に足をつけた目標を掲げた。「まずは国際大会の最高記録であるベスト32以上を目指します」――まさに一歩ずつ、世界の頂を目指す。

世界選手権で銀、西藤の今。

 さきに、ポスターの被写体となった選手たちは、誰一人決勝の舞台に上がれなかった、と書いたが、正確には誤りである。実は一人だけ、決勝の舞台に上がった選手がいた。

 西藤俊哉、である。

 前回チャンピオンでありながら、準々決勝で松山に敗れた西藤は、決勝の場で披露された、「フェンシング・ビジュアライズド(モーションキャプチャーとAR技術をつかって剣先の軌跡を可視化する)」のデモンストレーションを行うフェンサーの一人として、決勝のピストに上がったのだ。

「松山選手に負けた直後に、お願いされまして。正直、最初は素直に『はい』とはいえなくて……『ちょっと時間をください』と。今となっては、歯を食いしばってあの場に立ってよかったと思っています。

 同じ舞台ではあるけど、ああいう形で立つつもりではなかった。でも、太田雄貴会長がつくってくれた最高の舞台に立てたこと、人に注目されて戦う距離感を味わえたことは、僕にとってよかったと思います。この経験を大きな財産にするかどうかも、これからの自分にとっての“次”につながっていくはずですから」

 2年前の2017年、西藤は、躍進のシーズンを送っていた。ジュニア世界選手権で個人2位、そして世界選手権でも勢いそのままに個人銀メダル。その年の全日本でも決勝で松山に大逆転勝ちしての優勝と、まさに破竹の勢いだった。

 しかし2018年は、トップ選手として国内外からそのプレーを研究される側となったこともあり、満足な結果を残すことはかなわなかった。会場で試合を待つ彼の様子を見ても、苛立ちや苦悩が滲み出ていた。

マークされる苦しみを経験して。

「不思議な感じでした。一気に環境が変わったし、もしかしたら気づかないうちに、自分自身も変わってしまっていたからかもしれません。でも、世界選手権で銀メダルを獲らなければ、マークされる苦しみも経験できなかったと思っています。

 調子に波があった時、最後に這い上がれるか、這いあがれないか。こういう道のりは何度も味わっています。これまでとは比べ物にならないくらいデカい壁ですけど、ここでもう一発、這い上がってやろうと思っているんです」

 年をまたいで、気分を一新したという西藤。強気な発言も、「昨年はうまく思いが口にできなかったり、発言がネガティブだったり。今年は振る舞いから変えていかなきゃいけないと」という、覚悟の表れだという。

東京五輪で金メダルを狙うため。

 プレースタイルも、模索を続けてきた。彼の発言からは、目にもとまらぬ鍔迫り合いを見せるフェンサーたちが、その最中で体感している奥深さを窺い知ることができる。

「今までは積極的攻撃でポイントを取っていくことが多かったんです。でも、『西藤は攻撃が強いから』と、審判の『アレ』(始め)の合図でガンガン前に出てきて、下がってくれないんです。前へ前へと出てくる相手に対して、どう戦えばいいのかを考えています。

 ポイントを取れるディフェンスを持っていれば、攻撃しても点が取れないから、相手も下がらざるをえなくなる。『パラードリポスト』(防御からの攻撃)や『コントルアタック』(相手の攻撃を避けながらの攻撃)といったテクニックを課題にして練習しています」

 同世代が、高円宮杯で、その先の東京五輪へ向けてしのぎを削る――その状況は、当の選手たちにとってはとても厳しく、同時に充実した環境でもある。

「東京五輪では、個人と団体の金しか狙っていないです。世界選手権で2位になった時も、表彰台の僅かな高さの差が、すごく悔しかった。その時、最後まで金メダルを“欲しがれる”気持ちが僕にはなかったんだな、と感じました。自分が世界一になるという覚悟をどれだけ持っているか、といいますか。

 でも、太田さんが北京五輪で銀メダルを獲って以降、一気に僕たち後輩にとっても、メダルを獲得することが現実味を帯びてきた。それは、次の世代にもっと大きな形でつないでいきたい。僕たちがメダルを獲れば獲るほど、目標のアベレージが変わってくるし、試合を見る子どもたちにとっても同じはず。高円宮杯で結果を出せれば、僕の人生も変わるし、僕から何か大きなものを変えることができるかもしれない。そういうチャンスでもあると思うんです」

 それぞれに逆襲を誓う、若き日本人フェンサーたち。ぜひ、彼らのフェンシングを生で感じてほしい。

▼大会概要▼
JAL Presents 2019 高円宮杯フェンシングワールドカップ東京大会
男子フルーレ個人戦および団体戦
開催日 平成31年(2019年)1/26(土)、27(日)
会場 港区スポーツセンター(東京都港区芝浦1-16-1 みなとパーク芝浦内6階)
観戦入場料 無料(オールスタンディング)

大会スケジュール ※プログラムは進行によって変更することがあります

1月26日(土) 個人戦
9:30〜17:25 決勝トーナメント(上位4名決定)
17:25〜18:45 準決勝・決勝
18:45〜19:15 表彰式

1月27日(日) 団体戦
10:00〜14:00 決勝トーナメント
14:00〜17:15 準決勝
17:15〜18:30 決勝
18:30〜19:00 表彰式

文=宮田文久

photograph by Yasunari Kikuma


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