春高バレー、大山加奈らの提言。「選手の将来を守ってあげたい」

春高バレー、大山加奈らの提言。「選手の将来を守ってあげたい」

 3月から1月へ開催時期が移されて以来、今年で8年になる。

 ただでさえ華やかで、最も盛り上がるバレーボールの大会が春高であることに変わりはないが、1、2年生しか参加できなかった3月開催の頃と異なり、今は3年生にとって最後の大会。全く及ばなかったが、バレーボール部に属していた高校時代の筆者にとっても春高は憧れの舞台で、余計に感情移入してしまうせいだろうか。

 特に大会3日目、あと一歩で準決勝、というところで敗れた選手の取材は鬼門で、3年間の思いの丈をすべて込めたピンチサーバーの高校生を前に、恥ずかしながら涙で言葉が詰まったこともある。

 卒業してから数えきれないほどの時間が経ち、取材者という立場になっても未だ輝く春高バレー。毎年そこで取材できることが幸せだと感じられる尊い現場で、初めて、選手の言葉に胸が詰まるのではなく、胸が痛くなった。

鎮西の2年生主将・水町泰杜。

 2019年1月7日。準々決勝を終えた後、今にも泣き出しそうな顔をしながら、サブアリーナで1人、膝を抱える選手がいた。涙をこらえる理由は、2年続けて準決勝進出を決めたからではない。鎮西高校でセッターを務める2年生は、自責の念にかられていた。

「誰が見てもアイツが潰れているのはわかっているのに、それでもトスを上げなければいけない。勝つためにはアイツの力が不可欠だし、どんな状況でも『持って来い』と言ってくれる。エース勝負は大事だけど、でも苦しいです。あんなにボロボロなのに頼らなきゃいけない。助けてくれる存在だからこそ、申し訳なくて、何もできない自分が悔しいです」

 バレーボール界において“名門校”と呼ばれる学校は多くある。熊本県の鎮西高校も、間違いなくその1つであり、幾たびの全国制覇に加え、インドア日本代表として活躍後、ビーチバレーボールで2008年北京大会、2012年ロンドン大会と二度の五輪に出場した現・参議院議員の朝日健太郎など多くのバレーボール選手を輩出してきた。

 その名門校で初めて、2年生ながら主将に任命されたのが“アイツ”と呼ばれた水町泰杜だ。

抜群の能力を持つ「4年生」。

 抜群のセンスとテクニックを擁し、1年時から出場した昨年の春高、インターハイを制覇。運動能力の高さに加え、どこにボールを落とすのが効果的で、その前にどう助走に入れば相手を惑わすことができるかといった判断能力も備えたクレバーな選手で、鎮西高を1974年から指導する畑野久雄監督も1年時から「水町は高校4年生」と話すほど、高く評価している。

 とにかくどんな状況でもエースが打て、とエース勝負を推奨する鎮西で、昨年は鍬田憲伸と水町が二本柱として活躍したが、鍬田が抜けた今年、試合中のトスは大げさではなく7割近くが水町に上がると言っても過言ではない。

 それだけ水町の能力が高いことの裏付けであり、そこに打ち克つ精神力も求められるからこそ、エース勝負に重きを置く。逃げずに攻める、精神力や技術を鍛えることに加え、勝負所で決めてくれ、と託されるのは勝敗を左右する存在である「エース」と呼ばれる存在にとっては本望だ。

相手校の徹底的な水町対策。

 2年生ながら主将に任命された水町も責任感が強く高い技術も備え、まさにエースであるのは間違いない。だが、当然大きな負荷もかかる。自身も「どんな状況でも自分が決めることが役割だと思っている」と言うが、181cmで常にフルジャンプをして攻撃に入る負担は体に表れる。

 連戦が続く夏のインターハイ、そして春高の準々決勝の近江戦でも両脚をつり、最終セットの中盤からはジャンプはできても着地するのに片足をつくだけで生じる痛みに、顔をゆがめるほどだった。

 連覇を目指した鎮西だが、準決勝は清風に完敗。試合序盤に水町の対角に入る日車恭輔の顔面にボールが当たり途中でコートを退いたことも重なり、いつも以上に水町のもとにトスが集まる。

 清風・山口誠監督が「水町くんが輝けば輝くほどうちに流れが来る。6人で守って、6人で攻めようと言い続けた」と言うように、水町の攻撃に対するブロック、レシーブは完璧で、為すすべもない。

 ストレート負けを喫した水町は「大事なところで決めきれなかった。自分が不甲斐ないプレーをしたことに、今すごく、情けなさを感じています」と責任を一身に背負い、肩を落とした。

戦力、台所事情ゆえの戦略。

 それぞれのチームで戦力が異なり、その台所事情ゆえの戦略や戦術、築き上げた伝統がある。そのすべてに背景があり、一概に何が正解、何が間違いとは言い切れない。

 昨年まで同じコートに立ち、今年は春高を「見る」立場となった鍬田はこう言う。

「外から見ると、あんなに水町が1人で打ってきついな、かわいそうだな、って思いました。でもじゃあ同じ立場だった自分に対してそう思われていたらどうか。“かわいそう”って言われても、それ以上に『自分がやらなきゃ』っていう気持ちが強かった。

 たとえ足がつっても、それで打たずに負けることのほうが嫌だったし、実際僕も去年の春高は足がつっていたけれど、それでも打つのが当たり前。俺が勝たせるんだ、って思っていました」

大山加奈が振り返る高校時代。

 勝利至上主義の是非が問われる昨今、おそらく多くの人が、そこまでしなくてもいいじゃないか。そう思うはずだ。だが高校3年間のほぼすべての時間を日本一になるために費やす高校生にとっては、どんな状況でも今やり尽す。それがすべてである。

 水町と同様に、下北沢成徳(成徳学園)高校時代エースとして活躍、日本代表を経て2010年に現役引退、現在はテレビでの解説やバレーボール教室など普及活動に努める大山加奈もこう言う。

「私も高校時代は『全部私に持ってきて』と思っていたし、とにかく勝ちたかった。今は小中学生に対して『ケガにもつながるから、やりすぎちゃダメだよ』と言うんですけど、でも高校生だった自分に同じことを言っても『何を言っているの? 私は勝ちたいんだ』って、きっとそう思う。

 選手にとってはその一瞬がすべてで、先を見られない。とにかくその時後悔したくないから、ただ必死でした」

 当時から大山は脚に痺れを感じ、肩が痛かった。だがきちんと検査をしたわけではなく、足の痺れが腰から来ているものだと知る由もなく、高校時代から日本代表として華々しいスポットライトに照らされた一方、相次ぐケガに泣かされた選手生活でもあった。

バレーの複雑化と体への負荷。

 だからこそ、バレーボール教室で小中学校を回るたび、半月板損傷など大きなケガをしたことのある選手が増える現実、そして水町のように脚をつってもなお打ち続ける選手の姿に、警鐘を鳴らす。

「私の高校時代と比べてバレーボールが複雑になり、1つのステップに対応するだけでも体には負荷がかかっています。幸いにも私の高校時代は(下北沢成徳の)小川(良樹)監督がフィジカルトレーニングを重視していたこと、そして(荒木)絵里香や私のように体が大きな選手と体の小さい選手の運動量や体格を考慮して練習にも微妙な加減を加えてくれていました。

 その環境がなければ、私はもっと早く選手生活を終えていたと思うし、周りにいる大人がこれからの選手たちの将来を考えて、守ってあげなきゃいけないんだと思います」

日程や栄養補給の現状は?

 3月開催から1月開催、会場が代々木第一体育館から東京体育館に変わったことに加えもう1つ、開催日程も変更された。以前は3月20日から26日まで7日間に及び、1回戦を2日に分け、以後2回戦、3回戦と1日1試合が原則だった。

 だが今は始業式との兼ね合いを重視され、1月5日から5日間で行われるため、3回戦と準々決勝は同日。3回戦を4試合目に戦ったチームが、準々決勝を同じ日の6試合目に戦う、短時間でのダブルヘッダーが余儀なくされる。

 今年からは各校トレーナーがコートエンドに待機することが許可されたが、すべての学校にトレーナーがいるわけではなく、栄養補給やケアは選手やチーム、それぞれが独自に行わなければならないのが現状だ。

 専属のトレーナーがいない鎮西高校もそう。同校のOBでエースとして春高、インターハイを制覇、全日本にも選出され現役引退の後、2009年から2012年まで男子バレーボール日本代表のコーチも務めた諸隈直樹もその事態を危惧する。

「足がつるのは、高校生だから筋力的な問題だととらえられがちですが、それだけじゃない。水分、ミネラル不足なのでサプリメントや水分、栄養補給でフォローできるところも大きい。たとえ水町くんのようにかなりの本数を打つ選手がいても、そこに見合うケアは知識があればできる。でもそれを個々でやるだけでは、誤った知識になってしまうこともあります。

 今は試合中にゼリー飲料を摂取する高校も増えましたが、ただエネルギー補給だけでタイミングや効能を理解していると、より活かされてくる。彼のようにユース代表やジュニア代表にも選ばれるような将来がある、非常に優れた可能性、力を持った選手に対してはもっとバレーボール協会も含めた全体でバックアップすることが大切だし、栄養指導はもちろんですが、『1人で打つだけじゃなく、周りを活かすこともエースの役割だぞ』と指導者は、伝えられるはずです」

経験則にプラスした要素を。

 鎮西の例に限らず、バレーボールは未だ過去の栄光が取り上げられがちで、水町のようなエースを見ても「昔はあれぐらい普通だ」ととらえる人も残念ながら少なくない。

 だが高校野球でも球数制限や猛暑での開催がかける負荷について議論されているように、「昔はこうだった」の経験則だけではなく、アップデートが求められている。

 バレーボール界の将来を担う選手たちの可能性を潰さぬために何ができるか。協会主体の栄養指導でもいい。ベンチにトレーナー帯同の義務化でもいい。日程の見直しでもいい。求められる変化はあるはずだ。

 困難な状況でも「自分がエースだ」と諦めることなく挑み続けた水町の姿を、ただ「かわいそう」で終わらせぬためにも。勝ったのに「苦しい」と涙を浮かべる選手の姿など、もう見たくない。

文=田中夕子

photograph by YUTAKA/AFLO SPORT


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