まさに「国民の息子」。根尾昂がメディアもファンも惹きつける理由。

まさに「国民の息子」。根尾昂がメディアもファンも惹きつける理由。

 決してオーバーではなく「寝ても覚めても」であり「明けても暮れても」である。年が明け、合宿所への引っ越しを済ませたあたりから、中日ドラゴンズの話題の中心にはドラフト1位の根尾昂がいる。

 報道陣は根尾の歩く後ろを追い、前でも待ち構えている。自主トレが行われているナゴヤ球場にテレビ局の中継車がやってきたこともある。

 肌感覚でいえば報道される8割は根尾がらみだろうか。ちょうど1年前に騒ぎになったのが松坂大輔。さすがに忘れられたとは言わないが、今や根尾に関するコメントを平成の怪物が求められる事態になっている。

 なぜ根尾なのか。甲子園で春夏連覇を達成した。つまり、結果を残したというのは大きな理由となる。しかし、それがすべてとは思えない。

大阪桐蔭の他の3人と比べると。

 なぜなら、大阪桐蔭からは根尾を含めて4人がドラフト指名され、プロの世界に飛び込んだが、同じように騒がれているわけではないからだ。

 ちなみに同一高校から同一ドラフトで4人が指名されたのは、今回で5例目。ただし1966年の中京商(現中京大中京)と平安(現龍谷大平安)は国体出場校などを対象とした2次ドラフトでのこと。1976年の崇徳は2人が入団拒否したため、指名された4人がそろって入団したのは2001年の日大三以来となる。

 根尾以外の3選手を改めて紹介する。ロッテ1位の藤原恭大は走攻守そろった大型外野手で、根尾も選ばれなかった2年生でのU18日本代表入りも果たしている。巨人4位の横川凱は身長190cmの大型左腕。エースナンバーをつけた日本ハム5位の柿木蓮との両輪がいればこそ、夏の根尾は遊撃手にほぼ専念できたのだ。

 つまり「最強世代」の名にふさわしい陣容だったのだが、注目度では明らかに根尾が抜けている。今シーズンのルーキーで対抗できるのは、金足農から日本ハム1位指名された吉田輝星だけだろう。非常に優れた才能の持ち主なのは間違いないが、大阪桐蔭は根尾だけのチームではなかったし、高校野球ファンだってそうは思っていないはずだ。

謙虚な言葉の裏を返せば。

 しかし、名古屋地区だけでなく全国の書店には「根尾コーナー」が常設され、18歳の球児が読むとはとても思えない書籍がまるで「根尾君推薦」と言わんばかりに平積みされている。

 根尾の取材での受け答えは実に誠実で謙虚で言葉選びも的確だ。裏を返せば意外性やおもしろみはない。知性があるがゆえにインタビュアーが言って欲しいことがわかってしまうのだ。

 春の選抜出場を逃し、3季連続優勝の可能性がついえたことを尋ねられれば「まだ終わりじゃないですから。これからのがんばりで変わります」と後輩にエールを送り、代表で証書を受け取った卒業式では「代表ということでしたので、堂々としようと考えていました」と答えた。

大人から見て根尾は安心感の塊。

 大人の目から見たとき、根尾は安心感の塊である。間違っても的外れな質問をした記者をにらみつけたりはしないし、なおかつ大口もたたかない。この安心感は、まさしく「理想の息子」。偉ぶらず、浮つかず、野球に取り組む。ドラゴンズジュニアの一員としてプレーした小学校時代から、東海地方では「飛騨の神童」として有名だった。

 ほどなく、両親ともに医師であるという家庭環境が伝わっていく。だからといってリッチな開業医のお坊っちゃまではなく、地域医療に取り組んでいることを知り、好感度はさらにアップ。3歳上の兄・学さんは地元の進学校、斐太高のエースとして活躍し、3年夏には同校を史上初めて岐阜県大会の決勝まで導いた。

 そこから受験勉強に全力投球し、現役で岐阜大医学部に合格。当時から「あの根尾のお兄ちゃん」と言われるほどすでに昂の知名度はすごかったが、兄の文武両道が証明されたことで根尾家の「理想の家族像」もすっかり認知された。

 そんな2015年の夏あたりに根尾の人生も大きな節目を迎えた。

 兄のように地元の高校で文武両道を追う考えは早い段階で消えたようだが、子を思う親心としては医師になってもらいたいというよりも「息子より野球のうまい子は全国にごろごろいるんじゃないか」と慎重論になる。そこで野球は強く、なおかつ系列の大学に医学部も持つ付属校が本命視された時期もあった。

全国の野球好きから愛される。

 しかし、根尾本人の強い意志は大阪桐蔭に向けられる。つまり、保険としての医師への道は捨て、甲子園で活躍し、プロへ行く。もちろん学業にも力を入れるのだが、目指すべき職業は一本に絞った。

 岐阜県飛騨市から全国の精鋭が集う強豪へ。以前にも書いたが、筆者は野球留学には2種類あると考えている。地方から都会へ進むパターンと都会から地方へと進むパターンだ。当事者にそんな思惑はないにせよ、結果的に地方活性化につながるし、勧誘する側の地方私学には都会以上に少子化への危機感が強い。

 重要な生き残り戦略なのだが、世間一般は明らかに前者を好む。そこには「高い志を抱いて、あえて甲子園への戦いも厳しい中央に挑む」というイメージがあるからだ。もちろん根尾は前者の典型である。

 文武両道の上にスキーでも全国制覇したスーパーボーイ、地方から都会へ、安心と安定の受け答え……。小さなころから「我が子」「我が孫」として成長を見守ってきた東海地方のファンだけでなく、全国の老若男女、野球好きから愛される要素が根尾には詰まっている。くわえて面相。いわゆるイケメンなら他にもいるが、印象的な眉は意思の強さを感じさせる。

肉離れしても、焦りは禁物。

 覚えやすい「ネオアキラ」というフルネームもヒーローに求められる条件だ。主将でも4番でもエースでもないが、大阪桐蔭カルテットの中でも根尾の知名度と注目度が断トツな理由は、こんなところにありそうだ。

 その根尾は名古屋での自主トレ中に右ふくらはぎを肉離れし、一軍スタートが決まっていた春季キャンプも二軍になった。まさかのつまずきではあるが、与田剛監督ならずとも「焦りは禁物」と思っていることだろう。長いプロ野球人生は、実のところまだ始まってもいない。

 1年目の開幕を一軍で迎えるかどうかなど、ちっぽけなことではないか。今や根尾には日本中にお父さんやお母さん、おじいちゃんもおばあちゃんもいる。自慢の息子であり、孫の成長を見守っているのだ。

文=小西斗真

photograph by Kyodo News


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