タックル職人で、生粋のリーダー。ラグビーW杯に間に合ったある男。

タックル職人で、生粋のリーダー。ラグビーW杯に間に合ったある男。

 ラグビー最強国ニュージーランドの原石たちを粉砕した。

 日本代表候補で編成した特別チーム「ウルフパック」が4月20日、千葉・市原で強化試合を行い、スーパーラグビーのハリケーンズの下部チーム「ハリケーンズB」を66−21で圧倒。この快勝劇でゲーム主将を務めたピーター・ラブスカフニの言葉は、充実感に満ちていた。

「今日の結果は満足しています。これまで積み重ねてきたハードワークによるものだと思います。メンバー外の選手たちも貢献してくれました」

 今年2月初旬に始動した代表強化合宿は、6週間にわたる東京、千葉、沖縄でのハードワークを経て、3月下旬に「ウルフパック」としてニュージーランド遠征へ。初戦となったハリケーンズB戦には敗れたが、第2戦ハイランダーズB戦で初勝利を挙げた。

 現在、日本代表候補は約60人いる。候補選手をサンウルブズにも送り込んで強化するが、本隊はジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)率いるウルフパックだ。

代表資格を満たすのは夏。

 ラブスカフニはこのウルフパック強化試合のここまでの全3戦にフランカーで先発。今回は日本代表のリーチマイケル主将が恥骨を痛めた影響もあり、ジョセフHCが「リーダーシップを評価している」というラブスカフニがゲーム主将を担った。

 南アフリカ・ブルームフォンテーンに生まれた身長189cm、体重105kgの30歳は、2016年にトップリーグのクボタスピアーズに加入した。

 ラグビーの代表資格の要件である「36カ月以上の継続居住」を満たすのは、本人いわく今年の7月下旬だ。

 驚くべきは、来日4年目で代表候補チームのゲーム主将を任され、チーム内では堀江翔太、稲垣啓太、田村優、松島幸太朗らと共にリーダー陣に加わっていること。まだ日本代表資格がなく、キャップ数がゼロであるにも関わらずだ。

平均タックル数はリーグ1位。

 ラブスカフニが所属するクボタのチームスタッフは、その人柄に感心している。

 4月上旬のこと。ウルフパックとして活動していたラブスカフニはニュージーランド遠征から帰国し、約1週間の休養を過ごしている――そう理解していたクボタのチームスタッフは、ラブスカフニが突然グラウンドに現れたので驚いた。

「1週間の休みのはずなんですけど、チーム(クボタ)の練習にひとりで来て、黙々と走ってるんですよね。スタッフのところにもやってきて、みんなとちゃんと会話するんです。休んでほしいので、ヘッドコーチから連絡はしていませんでした。自分でチームのスケジュールを調べているんです」(クボタ・チームスタッフ)

 もちろんプレイヤーとしての信頼度も高い。

 '18年のスーパーラグビーで、初参加のサンウルブズで7試合に出場したラブスカフニは、1試合の平均タックル数がリーグ1位だった。ニュージーランド代表のサム・ケイン、オーストラリア代表のマイケル・フーパー主将も及ばないのだ。

 世界最高峰のタックル職人であることを証明するこのデータを本人に伝えると、蕎麦が大好物という寡黙な職人は「これからも可能な限りタックルをします」と嬉しそうにした。

士気は高かったハリケーンズB。

 66得点を奪った4月20日のハリケーンズB戦でも、終盤はナンバーエイトに位置を下げながら防御人として働き続けた。

 この「ハリケーンズB」の実力だが、先発15人の平均年齢は23歳。そのうち今季のスーパーラグビー経験者は3人だった。

 しかし「ハリケーン・ハンターズ」の名で活動するハリケーンズBは今年無敗でもあった。3月からハリケーンズに留学中で、この日ハリケーンズBの一員として出場したリコーの牧田旦(まきた・あき)は、チームの士気は高かったと明かした。

「チームは負かそうという気持ちでした。ハリケーンズBは今年、他のインターナショナルチームとやっても負けたことがなかったらしいです。負けるつもりもさらさらなく来たんですけど、ジャパンが強かったです」

ジョセフHC「リーダーに任せました」

 ウルフパックは充実していた。試合の入りにノーホイッスルトライを奪われたが、連携を意識して盛り返した。

 キック戦術は冴え、序盤に止められたモールでもトライを獲り、終盤はスクラムでも優勢が目に見えた。

「前半の1発目で失点はありましたが、選手同士がコネクトすることができ、自信になりました。そして一人ひとりが仕事を理解してやったからこそ、このような試合ができたと思います」(ラブスカフニ・ゲーム主将)

 ジョセフHCは試合後、42−7で迎えたハーフタイムで、ロッカールームに入らなかったと明かした。

「今回は意図的にハーフタイム中にコーチ陣がロッカーに入らず、リーダーに任せました。リーダーたちが後半へ向けてもプレッシャーを緩めず、ストロング・フィニッシュできるか。それを試すためにやりましたが、任務を達成してくれました」

“職人”はハードワークをやめない。

 リーダーの一人であるラブスカフニは、ハーフタイムで口火を切り、専門の守備について語った。その後は後半も走り続けて80分間のフル出場を果たした。

 トライはなく、“職人”は喝采の陰にいた。しかし、ゲーム主将として、フランカーとしてのラブスカフニの仕事ぶりは渋く光るものだったろう。

 この日4月20日は、今年日本で開催されるラグビーワールドカップのちょうど開幕5カ月前。

 リーチ主将、アマナキ・レレイ・マフィらがひしめく日本代表フォワード第3列(フランカー、ナンバーエイト)のポジション争いは、世界的に見てもハイレベルだ。

 ラブスカフニは切磋琢磨の末、5カ月後の大舞台で代表ジャージーに袖を通すことができるだろうか。それは分からないが、“職人”ラブスカフニがハードワークを止めることはないはずだ。

文=多羅正崇

photograph by Kyodo News


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