球史に残る「2018年の菅野智之」。球界のエースの万全な復帰を祈る。

球史に残る「2018年の菅野智之」。球界のエースの万全な復帰を祈る。

 4月28日に私は、今季の巨人・菅野智之のマウンドに懸念を示した。

 幸いなことに、直後の5月1日の中日戦は9回自責点1で完投し、4勝目を記録した。立ち直るかと思われたが、その後2試合は6回自責点4、5回2/3自責点7と大きく打ち込まれ、5月21日には腰の違和感のために登録抹消になった。

 菅野は2018年に、キャリアで初めて200イニングを超え、球数もレギュラーシーズンだけで3000球を超えた。登板過多による疲労が今季の不振の原因ではないかと思われる。

 さらに踏み込んで調べると、昨年の菅野の力投は、平成以降の投手起用の常識を超えていることが分かった。

 このコラムで以前、PAP(Pitcher Abuse Point=投手酷使指数)を紹介した。

 PAPは、1試合で投げた球数から100を引いてそれを3乗したもの。これを毎試合加算する。

 この数値の合計がシーズンで10万を超えれば故障の可能性が高く、20万を超えればいつ故障してもおかしくないとされる。100球以下の試合はカウントしない。

<菅野の年度別の投球数とPAPの推移 ポストシーズンの成績を含む>

2013年 3031球/PAP 16万6491

(先発29 完投2 完封1 100球以上17回 最大136球)

2014年 2454球/PAP 21万7788

(先発23 完投3 完封0 100球以上16回 最大142球)

2015年 2943球/PAP 13万8168

(先発27 完投6 完封2 100球以上20回 最大135球)

2016年 2863球/PAP 19万7975

(先発26 完投5 完封2 100球以上20回 最大139球)

2017年 2795球/PAP 15万2552

(25先発6完投4完封100球以上21回 最大135球)

2018年 3242球/PAP 24万3978

(先発28 完投11 完封9 100球以上24回 最大133球)

2019年 913球/PAP 9万8687

(先発8 完投2 完封0 100球以上7回 最大137球)

「平成の野球」とは言えないものだった。

 2018年の菅野は、ポストシーズンでのノーヒットノーランも含めて11完投9完封。PAPは危険水域を大きく超える24万に上った。

 昨年の巨人は救援陣が崩壊状態にあり、セーブ数(25)、ホールド数(73)ともに12球団最低に終わった。

 そんな中で、巨人は最終盤にDeNAとのデッドヒートに勝って、退任が決まった高橋由伸監督への餞となるCS進出を果たしたのだが、とりわけエース菅野は3試合連続完封。さらにシーズン最終戦にはクローザーとして1イニングを投げた、その上にCS初戦ではノーヒットノーランを演じたのだ。

 9月22日から10月9日までの18日間で5試合に登板し、37イニング480球を投げて無失点。

 救援投手が信用できなかったので、菅野は先発すれば最後まで投げ切った上に、臨時でクローザーまで務めたのだ。

 その快投は球史に残るといっても良いが、率直に言って「平成の野球」とは言えないものだった。レギュラーシーズン8完封は、1978年近鉄の鈴木啓示以来40年ぶりだ。

MLB投手のPAPはひとケタ違う。

 シーズン後半の菅野は「完封」に並々ならぬこだわりを見せていたのではないかと思う。

 完封は完投とは異なり失点できない。点差が開いても、下位打線でも気を抜くことができない。

 球数や投球回数もさることながら、ポストシーズンも含め9完封という、今どきでは考えられない力投が、今季の成績に大きな影響を及ぼした可能性は極めて高い。

 MLBではこうした「エースの力投」はあり得ない。

 MLBでは毎年、2018年の菅野の球数、投球回数を上回る投手はたくさん出てくるが、その中身は全く違うのだ。

2018年、MLBのレギュラーシーズン投球数5傑のPAPと投球内容

1 M・シャーザー(ナショナルズ)3493球/PAP2万6325

(先発33 完投2 完封1 100球以上26回 最大121球)

2 J・バーランダー(アストロズ)3427球/PAP2万4200

(先発34 完投1 完封1 100球以上19回 最大122球)

3 D・カイケル(アストロズ)3310球/PAP4503

(先発34 完投1 完封0 100球以上16回 最大112球)

4 J・シールズ(ホワイトソックス)3306球/PAP8407

(先発33 完投0 完封0 100球以上13回 最大114球)

5 M・クレビンジャー(インディアンス)3265球/PAP1万6857

(先発32 完投1 完封1 100球以上21回 最大116球)

全体の球数はMLBの方がかなり多い。

 MLBのトップクラスの先発投手は、シーズン3000球を軽く超える球数を投げているが、PAPは、菅野とはケタが1つ違うのだ。3万を超えた投手はいない。

 彼らは、調子が良くても100球前後で降板する。完投や完封は極めてまれだ。MLBの先発投手にとってはQS(Quality Start 先発して6回以上を投げて自責点3以下)こそが責務であって、完投、完封はおまけにすぎない。

 PAPは「なぜ100球で区切るのか根拠が分からない」や「登板間隔が考慮されていない」など批判も多いが、MLBでは一定の根拠として重視されていることがこれを見てもわかる。

 昨年のレギュラーシーズンで3000球を超えたのは、NPBでは巨人の菅野ただ1人だったが、MLBでは1位のシャーザーから、元巨人のマイルズ・マイコラス(カーディナルス3004球)まで、30人もいたのだ。

 彼らは中4〜5日で100球前後を投げ、シーズン通じて30登板で3000球に達している。

 中にはバーランダーやシールズのように、このペースで10年以上も3000球を投げ続けている投手もいる。

 日米の試合数の違い、投打のバランスの差などは考慮すべきだろうが、MLBではこと先発投手に関しては「長く実働させる」ための配慮があるといえるのではないか。

精神論に偏る度合いを減らしていきたい。

 日本では高校野球の「球数制限」の問題が議論されている最中だが、日本野球はプロもアマも「精神論」に偏る度合いが大きい。

 高校だけでなく、プロ野球までもが「エースの責任」、「ファンや監督の期待に応える」などの美辞麗句で「投げすぎ」が肯定されるのだ。

 しかし人間である限り、どんなアスリートでも無理をすれば、そのしわ寄せは早晩、選手の肉体にふりかかってくる。

「昔はもっと投げる投手がいた」というかもしれないが、今の投手の球速、変化球の切れをみれば、昔とは別物になっていることが分かる。そして打者の体格も、昔とは比べものにならないほど大きく、屈強になっているのだ。

 菅野の苦境は「昭和の野球」と「平成、令和の野球」が別物であることを身をもって示している。

NPBでずば抜けた投手だからこそ。

 菅野は、現在のNPBでずば抜けた投手だ。個々の球種も、打者との駆け引きも、配球も、プロ野球のみならずすべての投手の「手本」になる。堂々としたマウンドさばきには、風格も漂う。

 そんな「至宝」ともいうべき投手を、「投げすぎ」という指導者の采配ひとつで予防可能な原因で潰してしまっていいのか。

 菅野は2014年10月には右ひじじん帯の部分損傷で離脱した前歴がある。くれぐれも無理をしないでほしい。「いけるか?」「いけます」みたいなやり取りで復帰させないでいただきたい。

文=広尾晃

photograph by Kyodo News


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