ユーベが“昨日の敵”サッリを招聘!ジャージを愛する親分の名門改革。

ユーベが“昨日の敵”サッリを招聘!ジャージを愛する親分の名門改革。

 サッカーの指導者は“スーツ派”か“ジャージ派”に二分される。

 昨季、スクデット8連覇を達成した名将マッシミリアーノ・アッレグリはかつてこう発言した。

「監督はクラブの顔。試合でスーツを着ない指導者には罰金を科したいくらいだ」

 格式と伝統を重んじるイタリアでは、サッカー監督へのファッションチェックが厳しい。一度、専門家がジャージ姿で指揮をとる監督たちをボロクソに採点していてたまげたことがある。

 ジャージと咥えタバコがトレードマークの異端派指導者マウリツィオ・サッリが、名門ユベントスの新指揮官に就任した。20日の就任会見に、サッリは濃紺のクラブ公式スーツにネクタイという出で立ちで臨んだ。サッリの反骨精神も権威に屈したかと思いきや、新指揮官は言葉を選びながらはっきりと言った。

「グラウンドにスーツで行くのは御免こうむりたい。確かに試合以外の公式行事でのスーツ着用義務は契約書に書かれてある。だが、ピッチの上ではジャージがいいんだ」

 名門クラブの格式や圧力に屈するか、我流にこだわり自然体で指導することを認めさせられるか。新指揮官サッリはチーム作りの本番を前に、早くもユベントスの指揮官としての分水嶺に立っている。

かつては“敵”だったユベントスへ。

 昨季、チェルシーを率いてUEFAヨーロッパリーグで優勝したサッリだが、ユベントスにとっては1年少し前まで熾烈なスクデット争いを繰り広げた恐るべき敵将だった。

 3シーズンもの間、ユーベを不倶戴天の敵と定め、いわゆる放送禁止用語をまくし立てながら、ナポリに檄を飛ばし、王者をあと一歩のところまで追い詰めた。

 1時間にも及んだ就任会見の中で、サッリは当時と現在の心情を問われた。

 彼は言葉を濁さなかった。

「ナポリの監督をしていた3年間、毎朝目が覚めてまず考えるのは、どうやったらユーベをやっつけられるか、ということだった。私はユーベを倒すことに110%の力を注いできた。中指を立てた。私はここで憎まれるかもしれん。しかし、クラブの目標に向けて心血注いだ仕事ぶりについてはきちんと評価してほしい」

サッリの正直な言葉に満点評価。

 故郷と古巣への愛情を隠さないサッリの答えは、これ以上ないほどストレートだった。過去を否定せず、あえて批判されるであろう部分をさらけ出した言葉に、会見場の記者たちは固唾を飲んで聞き入った。

 サッリはナポリについて言及するとき、目を伏せた。ウソを言っていないからこそ正面を見れなかったのだ。

 その上で「ここでも110%の力を尽くすと約束する。チャンピオンズリーグにはユーベと同じレベルのライバルが8つか9つはあると思うが、追いかけるべき目標だ」と述べた。

 翌日、トリノの地元紙『トゥットスポルト』は、サッリの会見を「真摯で明快。多くのユベンティーノたちは彼の正直さを好ましく捉えた」と、ほぼ満点評価を与えた。天晴、この男は信用できるとみなしたからに他ならない。

ユベントスがサッリ招聘に踏み切った理由。

 前任者アッレグリは指導者個人として前人未到のスクデット5連覇を成し遂げながら、CLのタイトルにはついに届かなかった。

 彼の退任会見で、アニェッリ会長は両者の契約解消を“男女間の自然消滅”に喩えたが、イタリア随一の名将をあえて切ってまで、異端派サッリを招いたからには、ネドベド副会長やパラティチSD以下フロントにも相応の覚悟ありと見て然るべきだろう。

 無精髭で日に80本もタバコを吸うヘビースモーカーのサッリとその攻撃的な機動サッカーのスタイルが、格式を重んじ守備第一をモットーとするクラブの伝統的価値観に相反することは明白だ。

 それでもなお経営陣がサッリ招聘に踏み切ったのは、悲願の欧州制覇に向けて、あえて異分子を取り込むことによってユーベのサッカーに爆発的な化学反応が起きることを期待しているからに他ならない。

C・ロナウドには「セリエAゴール記録を」。

 彼らは昨夏にクリスティアーノ・ロナウド獲得で世界をあっと言わせたが、今夏もサッリ招聘という大きなギャンブルに出た。

「クリスティアーノ・ロナウドを指導できることは楽しみだ。私の下でセリエAゴール記録を破らせたい」

 サッリは今季のチームの軸として“CR7”とFWディバラ、ダグラス・コスタの名前を上げている。

 セリエA挑戦2年目のC・ロナウドについては、会見翌日に彼のバカンス先であるギリシャのリゾート地に直接出向き、「得点王を取らせる」と信頼関係構築に動いた。

 中盤のアンカー役に指名するMFピアニッチには「毎試合150回ボールタッチしてほしい」と早くも注文をつけ、4バックのブラッシュアップにはエンポリ時代の愛弟子CBルガーニの抜擢が囁かれている。

 MFポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)やDFデリフト(アヤックス)といった補強候補の動向も含めて、新チームがどう作り上げられていくかは夏のお楽しみだ。

下町のおっちゃんにロレックス?

 サッリのコメントを見聞きする時、実際の彼はトスカーナ訛りで話しているけれど、僕の頭の中では河内弁か広島弁のおっさん言葉に変換されている。

 これは前々から確信していることだが、もし、サッリが日本語を話していたら、「ワシ」という一人称を使っているにちがいないのだ。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』も就任会見記事の出だしに「田舎のおのぼり紳士がトリノの貴族令嬢と結婚し、そのお披露目の場で恥を晒さずに済んだ」と書いたぐらいだ。指導者としての素晴らしい実績はともかく、“サッリ=田舎出身のおっさん”という認識はイタリア国内で定着している。

 スーツ姿のサッリには、昨日まで下町のおでん屋でモツをつまみにカップ酒をあおっていたおっちゃんが、銀座の三ツ星レストランに連れてこられたような、居心地の悪さが漂っていた。

 エンポリやナポリ時代には、それで文句を言う人間は誰もいなかった。

 試合後、ミックスゾーンを通るユーベやミランの選手は必ずクラブの公式スーツ姿だが、ナポリの選手たちは皆ラフなジャージ姿だ。

 ロッカールーム近辺には派手な化粧で着飾った選手の恋人や奥さんが自由に出入りできて、そこが権威を重んじる北イタリアのクラブとは決定的にちがう。ユベントスという組織はサッリのおっちゃんに、自分たちのスタイルへ迎合せよ、と求めるだろう。

 濃紺の公式スーツやシワ一つない純白のシャツ、左手首に巻かれたロレックス。見た目に気を遣い、髭をキレイに剃りあげ、下品な言葉遣いをしてはいけません、とかそういうことだ。

クロップも、ミラン新指揮官もジャージ派。

 ナポリ時代には息をするようにさんざん放送禁止用語を連発していたのに、ユーベ就任会見でのサッリは60分間で卑猥な言葉を3回しか使わなかった。

 権力の階段を上がる度に着る物のグレードも上がり、立ち居振る舞いに品位が求められるようになる。それ自体は否定されるべきことではない。

 ただ、それを強制しすぎて、指導者の長所がスポイルされることがあっては本末転倒だろう。

 昨季のCLで優勝したリパプールのクロップも、新しくミラン再建を託された監督ジャンパオロも“ジャージ派”だ。なりふり構わずグラウンドでの仕事に集中する彼らジャージ派の時代が始まった。

 サッリが公式戦でもジャージを着られるかどうかは、今後フロントとあらためて話し合いの場が持たれるらしい。

 本人は「ジャージ着たいとかわがまま言うな、と怒ったクラブから『裸でベンチに行け!』と命令されるかもしれんが、60歳にもなってそれは勘弁してほしい」と言って、記者たちの笑いを誘った。願わくば、サッリが自然体で怒鳴り声を上げられるよう、ネドベド副会長らお偉方には寛容な判断を下してもらいたい。

勝利のためのガソリンは“熱”。

「大事なのは見た目より本質だよ」

 サッリはエンポリの監督としてセリエAにデビューした5年前、こう言っていた。

 常勝ユベントスで求められる本質とは、CLでもセリエAでも勝利という結果だろう。

 就任会見の終盤、サッリはユベントスの必勝の哲学と貴方の機動サッカーは融合可能か、と問われた。答えには迷いがなかった。

「ワシは思うんだけどね、選手たちがサッカーを楽しめれば、そこには必ず熱が生まれる。その熱が勝利をもたらすためのガソリンになるんや」

 大都会ロンドンで揉まれて、ELのタイトルも獲った。

 サッリのおっちゃんは燃えている。ナポリ時代と同様、いやそれ以上に。

文=弓削高志

photograph by Getty Images


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