優勝したジョコすら羨むテニス人生。37歳のフェデラーは走り続ける。

優勝したジョコすら羨むテニス人生。37歳のフェデラーは走り続ける。

 1年前のウィンブルドン初日、前年優勝者のロジャー・フェデラーは、囁かれていた噂通りにナイキからユニクロのウェアに装いを変えてセンターコートに颯爽と姿を現した。

 天候に邪魔さえされなければ、初日のセンターコートの第1試合は午後1時の入りと決まっている。フェデラーの登場とともに、ユニクロはこの衝撃的な契約を正式に発表する予定だった。フェデラーは、そのニュースの配信時刻を13時8分にしてほしいと要望したという。

「8」はフェデラーのラッキーナンバーで、これは嘘のような本当の話だ。

 試合のコートにはいつも8本のラケットを持ち込み、彼が長年の代理人とともに2013年に立ち上げたマネージメント会社の名前は「Team 8」だ。2年前にウィンブルドンV8を達成したときには、「8」に自分の顔イラストをデザインしたロゴ入りの限定モデルのラケットを8本、チャリティー用にオークション販売した。

 それほど「8」にこだわる理由は驚くほど単純で、8月8日生まれだからだというから、“神の子”とまで呼ばれるフェデラーも意外に“人の子”らしい。

ユニクロが結んだ10年契約の意味。

 それにしても、この契約の発表にこだわりの「8」をもってきたというのは興味深い。

 驚愕の契約内容は10年3億ドルと報じられたが、当時36歳のフェデラーとの10年契約には驚かされた。

 引退後も睨んでのことだとしても、あと2、3年の現役生活のためにこの契約は結ばれないだろう。ただ現役を続けてくれればいいというものでもないはずだ。

 新ブランドとともに歩む10年の間で、どれだけ長くトップで戦い、何を成し遂げるか――「13時8分」のエピソードには前人未到の領域に挑むフェデラーの意欲、決意、覚悟が表れていた。

錦織「昔のようにラリーをしてくれなくなった」

 2016年2月に左膝のケガで人生初の手術を受け、ウィンブルドン終了後に残りのシーズンをリハビリと充電にあてた。

 翌年明け、復帰戦となる全豪オープンで4年半ぶりのグランドスラム優勝を果たすと、半年後のウィンブルドンで5年ぶり8度目の栄冠を獲得。

 復帰時の世界ランク17位からウィンブルドン後にはトップ3に復帰し、昨年2月には1位に返り咲いた。以来、トップ3から落ちたのは3カ月ほどだ。

 錦織圭は、復帰後のフェデラーのプレーの変化についてこう話す。

「昔のようにゆっくりラリーをしてくれなくなった。僕に対しても、他の選手に対しても攻め方が変わってきたと思います」

 年齢とともにポイントをいかに早く決めるか、いかに効率良くゲームを取るか、セットを取るかということを、徹底して実践しているのだろう。

 もちろん選手寿命の長期化とトップレベルの維持を睨んでのことだ。

 フィジカル面のレベルの維持にも余念がない。フェデラー自身がウィンブルドンの最中に話していた。

「今は若いときよりもウォームアップに時間と手間をかけないといけない。正直言ってあんまり楽しいことじゃないよ。

 若い頃は軽くピョンピョンとジャンプしてすぐにコートに入ったものだから、こんなことが本当に必要なのかって思うこともある。でも今のところ成果も感じるから続けてるよ。本当に飽きてしまったらそのときはテニスをやめるときだ」

対ジョコビッチ戦は22勝25敗だった。

 ユニクロに着替えた最初の1年の間に、マイアミでツアー101回目の優勝など輝かしい足跡を残し、37歳で迎えた今回のウィンブルドンで2年ぶり12回目の決勝進出を果たした。

 ウィンブルドンでは2008年の伝説の決勝以来となるラファエル・ナダルとの対決に準決勝で勝利し、過去22勝25敗というテニス史上最多の回数を戦ってきたノバク・ジョコビッチとの決勝。

 比較的フェアなウィンブルドンの観客があからさまなフェデラー贔屓に沸く中、完璧なクライマックスのシナリオが書き進められていた。

「多分1つのショットを間違った」

 ファイナルセットは2ゲーム差がつくまで続くアドバンテージセット方式に代わり、今年から12−12で7ポイント先取のタイブレークで争われる新ルールが採用された。

 その最終セット、フェデラーが7−7でブレークし、「サービング・フォー・ザ・チャンピオンシップ」を迎えた。15−15から2本連続でエースを叩き込み、40−15。時計はすでに4時間を過ぎており、たとえ相手が不屈のジョコビッチとはいえ誰もがフェデラーの2年ぶり9回目のウィンブルドン優勝、21回目のグランドスラム優勝を確信していた。

 そこでいったい何を間違ったのか。

 マッチポイントからの4連続失点に、フェデラーは「多分1つのショットを間違った、どのショットかを特定するのは、あなたたちに任せるよ」と自嘲するように言った。結局、12オール・タイブレークに突入し、息を吹き返したジョコビッチがものにした。

 ウィンブルドンでチャンピオンシップポイントを握りながら敗れたケースは、オープン化の随分前、1948年まで遡る。

 テニス史上初の12オール・タイブレークでの敗者ということもできる。これほどありがたくない記録を、よりによって<史上最強>と謳われるフェデラーが作ったことはなんとも皮肉だ。

皮肉に満ちる、フェデラーの試合の数字。

 皮肉といえば、今年ここまで15勝3敗という高い勝率のタイブレーク成績を残していたフェデラーが、最終セットの12オール・タイブレークを含めて全てのタイブレークを失ったこと、トータルのポイント獲得数で14ポイント上回っていたこと、ジョコビッチの2倍近くになる94本ものウィナーを決めたこと、何もかもが皮肉だった。

 過去にもウィンブルドンの決勝でフェデラーを2度倒し、その戦い方を知り尽くすジョコビッチの経験と野望が、こうしたいくつもの皮肉を生んだのだろう。

フェデラーの<10年>のクオリティの高さ。

 通算16回目のグランドスラム優勝を遂げたジョコビッチは言う。

「ロジャーがあの年で続けている努力には刺激を与えられている。僕があと何年やるかなんて約束はできないし、そんな義務もない。でも第一に楽しみながら、家族や周りとのバランスをとりながら戦うことができる限りがんばるということだけ。

 今のロジャーの年になる5年のうちには、今日聞いたようなロジャー・コールを僕に対しても聞きたいと思う」

 フェデラーが挑む<10年>のクオリティの高さは、年下のライバルの生き方にも刺激と指針を与えている。完全復活した3強時代はいつまで続くのだろうか。

「今は辛いけど、あとで振り返ったら良かったなと思えることもある。気持ちを切り替えて前に進むのは得意なほうなんだ。すばらしい試合をいつまでも悔やんでいたくないからね。自分のテニスのレベルには今も満足している」というフェデラーの言葉を聞けば、「まだ相当長く」と答えるしかない。

文=山口奈緒美

photograph by Getty Images


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