全英OP初優勝は「シュールな経験」?シェーン・ローリーのゴルフと家族。

全英OP初優勝は「シュールな経験」?シェーン・ローリーのゴルフと家族。

 72ホール目。ロイヤル・ポートラッシュの大観衆のすべての視線の中で、堂々と闊歩するシェーン・ローリーの姿に、しばし見惚れた。18番グリーン奥のグランドスタンドに向かって手を振り、笑顔を投げかけるローリーの姿は、まさしくヒーローだった。

 68年ぶりに北アイルランドに戻ってきた今年の全英オープンで、見事な勝利を収めたのは、アイルランド出身の32歳、ローリーだった。

 表彰式で掲げたクラレットジャグは、ローリーが文字通り「母なる大地」で掲げた優勝トロフィー。

「これはアイリッシュのゴルフにとって大きな意義がある。アイリッシュのスポーツにとって大きな意義がある。だから、このトロフィーはみんなのものだ」

 元々話好きのローリーだが、大勢の人々の前で、彼がこんなにも素敵で粋な優勝スピーチを披露する日が到来したことが、とても嬉しく感じられた。

12歳でゴルフを始め、小技の名手に。

 ローリーが生まれ育った故郷は、ロイヤル・ポートラッシュから車で4時間ほど南下したアイルランドのクララという小さな町だ。

「子供のころは、地元のゴルフ場で友達とピッチ&パットを競いながら夏休みを過ごした。ゴルフを始めたのは12歳のころだった。僕の家はスポーツ一家だったけどゴルフ一家ではなく、僕は自己流でゴルフを覚えていった」

 近所の仲間たちとの小技競争は、子供としては真剣勝負だったとローリーは言う。それがショートゲームの感性を磨いてくれた。それが、彼が今「小技の名手」と呼ばれる所以である。

 めきめき腕を上げたローリーは、2009年にアマチュアにして欧州ツアーのアイリッシュ・オープンを制覇。すぐさまプロ転向する道を選んだ。2012年に欧州ツアー2勝目、2015年には世界選手権のブリヂストン招待を制し、米ツアー初優勝。

 そのころまでは、ローリーにとって、ゴルフこそが、すべてだった。

子供のころからの夢だった全英オープン。

 人生のプライオリティに変化が起こり始めたきっかけは、2016年全米オープンで勝利を掴みかけて逃した苦い経験だった。2位に4打差の単独首位で最終日に臨んだローリーは、しかし76と崩れてダスティン・ジョンソンに惜敗し、2位に終わった。

 その年、愛妻ウェンディと結婚。翌年には長女アイリスが生まれた。

「僕のプライオリティは家族だ」

 ゴルフより家族――もちろん、それは心の底から湧き出した真の想いであり、今でも彼にとって最優先は愛妻と愛娘である。

 だが、プロゴルファーであり続ける限り、お腹の底からはアスリートとしての戦意や勝利への渇望が湧き上がってくる。

 全英オープン優勝は子供のころからの夢だった。だが、挑んでも挑んでも優勝どころか予選すら通らず、4年連続予選落ちとなった昨年大会では「僕はカーヌスティのカー・パーク(駐車場)に座り込んで泣いた」。

 父親として夫として大切にしたいもの。プロゴルファーとして手に入れたいもの。ローリーは、その狭間で苦しむ日々に陥った。

コーチ、キャディ、家族に支えられて。

「ゴルフは僕の友達ではなかった」と、ローリーは苦しい日々を振り返った。だが、それでも戦わなければいけない。恐れてはいけない。逃げてはいけない。

「ビターな結末に立ち向かわなければいけない」

 そんなローリーの救いになったものは、ゴルフの練習や技量や成績ではなく、周囲の人々の温かいサポートだった。

 このロイヤル・ポートラッシュでも、まさにそうだった。自信がないまま現地入りしたローリーを街中のカフェに連れ出し、徹底トークで彼の自信を引き出したのは、コーチのニール・マンチップだった。

 最終日。相棒キャディのブライアン・“ボー”・マーティンは、ローリーがミスショットするたび、ボギーを喫するたびに、必ず積極的に語りかけ、ボスの気持ちを切り替えさせていた。逆に終盤は2位との差を5打、6打と広げるたびに語りかけ、ボスの気持ちが先走らないように心がけていた。

 そして、愛する妻と娘は「たとえ僕がいくつで回ろうとも、トロフィーを抱こうとも、肩を落とそうとも、変わらず僕を待っていてくれる」。そう思えることが、ローリーの心の支えになっていた。

「とてもシュールな経験だった」

 首位を走るローリーに温かい拍手と声援を送り続けたロイヤル・ポートラッシュの大観衆は大きな力になったと彼は感謝していた。

「これまで僕は大勢の人々の前でゴルフをすると、ときどきうまくいかなかった。でも、この数日間は違った。人々が僕にスマイルをもたらし、力を与えてくれた。だから、僕が勝つことを望んでくれている人々の前で勝つことができた。それは、とてもシュールな経験だった」

 しかし、それは現実である。子供のころから一緒にゴルフの腕を磨いた友人や仲間たち。コーチ、キャディ、家族。そしてアイリッシュのゴルフファン。

 みんなに支えられ、押し上げられたローリーは、そうやって全英オープンを制し、だからこそ、クラレットジャグをみんなに捧げた。

 ロイヤル・ポートラッシュで繰り広げられた4日間は、そんな「シュールな勝利」に世界のゴルフファンが心地良く酔ったひとときだった。

文=舩越園子

photograph by Getty Images


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