高校テニスの酷暑は甲子園以上?多数の救急搬送、日程改善は必須。

高校テニスの酷暑は甲子園以上?多数の救急搬送、日程改善は必須。

 20数年ぶりにインターハイを取材させてもらった。

 覚悟していた通り、会場の宮崎市は1週間、ほぼ毎日35度を超える猛暑。高校野球の過密な試合日程や球数制限のようには世間一般の関心を集めないが、真夏の炎天下で行なう競技としてなら、テニスはもっとも苛酷な競技のひとつだろう。

 多いときは1日に4試合をこなさなくてはいけないインターハイは、その苛酷さの代表のようなもので、大会2日目には選手3名が救急搬送された。

 それ以外に、学校関係者や保護者が病院へ連れて行った熱中症疑いの選手も数名いて、ある病院では少なくとも5人が並んで点滴を打つなどの処置を受けていたという。それは団体戦の3回戦と準々決勝が行なわれた日だった。

 近年のルールでは、3回戦までは8ゲームプロセット、つまり2ゲーム差をつけて8ゲームを先取したほうが勝利し、8−8になればタイブレークという方式で1セットのみ行なう。準々決勝からプロツアーでも通常採用されている3セットマッチだ。

 多くの選手の体に異変が起きたのはこの3セットマッチの最中だった。8ゲームマッチならどんなに長くても1時間半以内にはおさまるが、3セットになるとヘタをすれば3時間を超える。

「まずは選手の生命の安全を考え」

 翌日、掲示板にこのような告知が出た。

「大会開始前から様々な熱中症対策を考え大会を開始しましたが、酷暑が続き、重篤な救急搬送者が多数でました。そのことに対し、宮崎市消防局からも強い指導を受けました。そこで、宮崎県実行委員会、宮崎市実行委員会、全国高体連テニス専門部、宮崎県高体連テニス専門部の4者で緊急に協議し、まずは選手の生命の安全を考え、これ以上の救急搬送者を出さないために、以下のように試合方法等の変更を決定しました」

3セットマッチではない方式に。

 台風の影響もあったとはいえ、本来3セットマッチで行なうはずの準決勝と決勝を1〜3回戦と同様に8ゲームプロセットに変更。前日まで試合と試合の間隔は最短で40分だったが、試合時間にかかわらず1時間半の休憩をとることにもなった。

 個人戦に関しても、従来は4回戦まで8ゲームプロセット、準々決勝から3セットで行なっていたものを、準々決勝までを1セットマッチ(6−6タイブレーク)、準決勝と決勝を8ゲームプロセットで行なうことにした。

 これまで長年に渡り、猛暑の中でのインターハイの戦い方が問題視されながら思い切った改善がなされなかったことを思えば、この対応は驚くほど早く、そして大胆なものだった。

 最大の決め手は消防局からの強い警告であり、「このまま続ければ死人が出ますよ」「中止とも考えていいのではないですか」とまで言われたというから、やむを得なかったのだ。

高体連部長が説明した変更の意味。

 全国高体連テニス専門部の石原弘也部長は、今回の変更についてこう説明する。

「大会をこの日程の中でおさめるという、どうすることもできない条件の中で、生徒の安全を第一に考えました。高校生の日本一を決める大会としての格や伝統は守らなくてはなりませんが、どこで折り合いをつけるのかを今後も考えていかなくてはいけない」

 その後も救急搬送者は皆無ではなかったが、悪夢の2日目とは比べものにならなかった。そして、やり方を変えたせいだと言いきれるような番狂わせもなかった。

 伝統を頑なに守れば時代遅れといわれ、時代や世の中の風潮に合わせれば本来の良さが失われると嘆かれる昨今。「どこで折り合いをつけるのか」は難しい問題だが、あらためて今後のやり方を考えていく上で、生きた材料を提供することにもなった今回の判断は正しかったのではないかと思う。

国内トップの多くは参戦していない。

 昔の猛者たちの中には、現代の高校生たちが昔に比べてひ弱になったのだと言う人もいる。「ウチは鍛えてますから大丈夫です」と豪語する監督もいる。

 しかし、夏の暑さが30年前や40年前よりもひどいことは確かだし、実力の地域格差や学校格差がなくなってきたため、早いラウンドから接戦を強いられる厳しさも頻繁に耳にする。

 だとしても、日本一をそんなにあっさり決めてしまってもいいのか――これが3セット制廃止に眉をひそめる人たちの多くの言い分だ。

 最近のテニスの場合、高校生の日本一を決めるといっても、本当の意味でのこの世代の国内トップクラスの多くはインターハイを戦っていない。

 過去のチャンピオンの中には伊達公子や松岡修造、杉山愛など錚々たる名前があるが、今の日本のトップクラスを見れば、大坂なおみはもちろんのこと、錦織圭や西岡良仁、ダニエル太郎などはインターハイとまったく無関係だ。

 それゆえ、<高校生日本一>という称号をこれ以上軽くしてはならないという意味合いもあるのかもしれない。

なぜ余裕を持った日程にできない?

 ならばもっと余裕を持った日程にすればいいのだが、それが現状ではできない。 

 毎年、インターハイの直後には大阪で全日本ジュニアが開催される。日本テニス協会主催だが、インターハイよりもこちらを重視する選手も少なくない重要な大会だ。

 18歳以下、16歳以下、14歳以下、12歳以下と年代別に分かれているが、うちインターハイの出場者と重なる16歳以下と18歳以下の部が開幕したのは、それぞれ9日と10日だった。インターハイの最終日は8日で、両方に出場する選手たちは表彰式後に宮崎から大阪へ直行した。

 あまりの過密スケジュールに、過去にはインターハイで三冠を獲った選手が両脚けいれんで倒れたこともある。今年もそういった事態が懸念されたが、こちらも対策に踏み切った。

 インターハイと違って原則として1日に単複それぞれ1ラウンドしか進まないこともあり、これまでは全試合3セットマッチで行なわれてきたが、今年は最終セットの代わりに10ポイント・マッチタイブレークを採用した。

東京五輪を再考のきっかけに。

 ただ、まだ日程は改善されそうもない。この大会直後には全国中学生選手権が控えている。16歳以下、14歳以下の部と出場者が重なり、過密スケジュールであることは変わりない。

 そんな中、こうしたイベントのあり方をイチから考え直すきっかけになりそうなのが、来年の東京五輪だ。来年のインターハイを受け持つのは北関東エリアと決まっていたが、オリンピックとパラリンピックが開催されることによって<例年通り>がかなわなくなった。

 まず、全体の開会式を約2週間後ろにずらし、開催期間も3週間から2週間に短縮しなくてはならない。また、北関東だけでは宿泊施設などの面で全競技を受け入れられないため、多くの競技を全国各地に分散させるという。

 ちなみにテニスは滋賀県での開催が決まった。インターハイの日程変更により、全日本ジュニアは8月末に移すそうだ。それが可能ならいっそのこと再来年以降もそうすればいいのだが、2学期にかかる日程は、定着させるわけにはいかないのだという。さらにトップジュニアたちは全米オープン・ジュニアに出場するため不在にもなる。

秋や涼しい土地での開催にしては。

 こうした大小の事情は、テニスのみならずあらゆる競技が抱えているのだろう。そんな中、伝統や慣例に逆らわざるをえない来年の夏は、将来の<選択肢>を増やす機会になると思うのだ。

 競技によっては日程を大幅に変更し、場合によっては秋開催とか、極端な話だが、屋外競技は毎年比較的涼しい土地に限るとか……。先延ばししてきた「そろそろ本気で考えるとき」は、もう今しかないのではないだろうか。

文=山口奈緒美

photograph by Kyodo News


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