イニング平均球数わずか「12.39」。奥川恭伸の賢さは甲子園史に残る。

イニング平均球数わずか「12.39」。奥川恭伸の賢さは甲子園史に残る。

 101回目の夏の甲子園が終わった。今季はいろいろと変化の見られた大会だった。投手成績を中心に振り返ろう。

(1)大量得点試合の増加
 過去5年間、15点以上の得点があった試合は以下の通り。

 <2015年>
 1回戦 鹿児島実18−4北海
 2回戦 花咲徳栄15−3三沢商
 <2016年>
 1回戦 東邦19−9北陸
 <2017年>
 1回戦 仙台育英15−3滝川西
 <2018年>
 1回戦 日大三16−3折尾愛真
 <2019年>
 1回戦 仙台育英20−1飯山
 2回戦 敦賀気比19−3国学院久我山
 3回戦 作新学院18−0岡山学芸館
 準々決勝 星稜17−1仙台育英

 今季は大量得点の試合が非常に多かった。通常、大差のつく試合は1回戦で見られることが多いが、今年は準々決勝でも星稜が仙台育英に16点差をつけて勝った。

金属バットの打球が速すぎる、とも。

 今年は8月10日の1回戦、岡山学芸館と広島商の試合で、岡山学芸館の先発、丹羽淳平が広島商の3番・水岡嶺の打球を顔面に受け、病院へ搬送された。

 関係者からは「金属バットの打球が速すぎる」という指摘が出ていた。体格の向上や筋トレの普及もあり、打線のパワーアップが目立つ。上位から下位までパワーヒッティングで、当たりだしたら止まらない打線によって大量得点試合が増えたと考えられる。

過去5年の1試合最多球数は?

(2)1試合当たりの最多投球数の推移

 以下、過去5年間の個人での1試合最多投球数5傑で、※は左腕。プロ入りした選手も名を連ねている。

<2015年>
161球 成田翔※(秋田商)3回戦
161球 小笠原慎之介※(東海大相模)決勝戦
153球 比屋根雅也※(興南)準々決勝
149球 光田悠哉※(大阪偕星学園)1回戦
143球 福谷優弥※(鶴岡東)2回戦

<2016年>
187球 アドゥワ誠(松山聖陵)2回戦
183球 平林弘人(市尼崎)1回戦
177球 堀瑞輝 ※(広島新庄)1回戦
164球 藤本海斗(九州国際大付)1回戦
153球 渡辺悠 ※(尽誠学園)2回戦

<2017年>
172球 久保田蒼布(藤枝明誠)1回戦
160球 増居翔太※(彦根東)1回戦
150球 山下輝※(木更津総合)1回戦
150球 市川睦※(二松学舎大付)3回戦
148球 碓井涼太(天理)3回戦

<2018年>
184球 山口直哉(済美)2回戦
179球 西純矢(創志学園)2回戦
176球 木村光(奈良大付)2回戦
164球 吉田輝星(金足農)3回戦
157球 吉田輝星(金足農)1回戦

<2019年>
170球 高木要※(立命館宇治)2回戦
165球 奥川恭伸(星稜)3回戦
160球 前佑囲斗(津田学園)1回戦
155球 杉戸理斗※(明石商)3回戦
154球 西野知輝※(鳴門)1回戦

エースの負担を減らす傾向にはある。

 この数字を見る限りでは、投手1人当たりの投球数には大きな変化がないように見えるが、各年の1人で8イニング以上を投げた投手の数は、

 2015年 38人
 2016年 44人
 2017年 34人
 2018年 54人
 2019年 34人

 となっている。今年は昨年に比べて長い投球回を投げた投手は大幅に減ってはいるが、実は2017年と同数だ。

 筆者が調べたところ、2013年春に済美の安樂智大(現楽天)が選抜で772球を投げて以降、高校野球界は「投手の分業」、「エースの負担を減らす」傾向になっている。今季は再びその傾向に戻ったと言えよう。

 反対に言えば2018年が異質な年だったのだ。

投球総数と1イニング平均投球数。

(3)1大会の個人投球総数

 以下、過去5年の1大会の個人での投球総数5傑とP/IPという数値である。このP/IPはイニング当たりの平均投球数を示す。こちらにもプロ入りした選手が名を連ねる。

<2015年>
680球 佐藤世那(仙台育英)13.69
445球 松本皓(早実)15.34
432球 成田翔※(秋田商)16.20
405球 比屋根雅也※(興南)15.58
392球 小笠原慎之介※(東海大相模)15.68

<2016年>
616球 今井達也(作新学院)15.02
527球 大西健斗(北海)13.51
473球 河野竜生※(鳴門)16.89
423球 鈴木昭汰※(常総学院)15.48
400球 寺島成輝※(履正社)15.58

<2017年>
534球 綱脇慧(花咲徳栄)14.70
474球 平元銀次郎※(広陵)16.93
432球 長谷川拓帆※(仙台育英)14.24
430球 山本雅也※(広陵)17.44
347球 碓井涼太(天理)13.36

<2018年>
881球 吉田輝星(金足農)17.62
607球 山口直哉(済美)13.90
512球 柿木蓮(大阪桐蔭)14.22
489球 鶴田克樹(下関国際)13.58
449球 河村唯人※(日大三)17.49

<2019年>
594球 清水大成※(履正社)16.65
512球 奥川恭伸(星稜)12.39
355球 荒井大地(高岡商)15.21
352球 林勇成(作新学院)14.27
337球 不後祐将※(中京学院大中京)17.43

吉田輝星が突出している。

 2014年以降、1大会で700球以上投げた投手は2018年の金足農・吉田輝星(881球)、2014年の三重・今井重太朗(814球)の2人だけだ。全体に球数が減少する傾向にある中、こうして見ても吉田輝星が突出している。

 2019年は600球を投げる投手もいなくなり、400球以上投げた投手も2人だけとなった。甲子園に限定すれば、1人の投手への負担は確実に減少している。

 とはいえ地方大会では今夏も200球以上投げた投手が出ている。「球数制限」の問題については個々の指導者の良心にゆだねることはできないだろう。

去年、今年ともに凄い奥川の数値。

 何より注目すべきは、星稜・奥川恭伸のP/IP=イニング当たりの投球数だ。プロ野球の投手コーチが「15球なら合格点」とするこの数値において、奥川は12.39。極めて効率の良い投球をしていたのだ。制球力が抜群なうえに、キレの良い球でどんどん打者を追い込んでいったからこその結果である。過去5年の各投手との数字を比較しても、奥川はずば抜けている。

 奥川は田中将大(現ヤンキース)に似ているといわれるが、田中も高校時代からP/IPが15を下回る優秀な投手だった。しかし準優勝した2006年夏は52回2/3で742球、P/IPは14.09。今季の奥川のすごさがわかる。

 奥川は智弁和歌山戦でタイ・ブレークも含めて14回を投げ、球数は165球を数えた。プロ野球でもほとんど見られない球数ではあるが、P/IPが15程度の投手であれば210球を超えていたはずだ。

 ちなみに奥川は2018年夏も投げているが、このときも2試合12回を152球、P/IPは12.67だった。

効率的な投球なら、肩ひじを守れる。

 奥川は、球速こそ大船渡の佐々木朗希よりも遅いが、持って生まれた制球力の良さ、効率的な投球ができる能力は、故障さえなければ今後、上のレベルで大いに発揮されるはずだ。

 奥川のように効率的な投球ができる投手は、長いイニングを投げるように命じられても、自分で自分の肩ひじを守ることができる。この投球術は、簡単に身につかないだろうが、すべての高校生投手が意識すべきだろう。

 そういった意義も踏まえて、今季の甲子園、最大の収穫は超クレバーな好投手・奥川恭伸だと言えよう。

文=広尾晃

photograph by Hideki Sugiyama


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