野球人口の急減が日米で進行中。MLBは対策に本気、では日本は?

野球人口の急減が日米で進行中。MLBは対策に本気、では日本は?

 外野ノックのこぼれ球を拾った日本のリトルリーガーは、フェンス越しにグラブを高く掲げ、「Give me the ball(ボールちょうだい)!」と叫ぶアメリカ人らしき少年2人を見上げた。

 ファンがボールをせがむのはメジャーリーグでよく見かける風景だが、ここはリトルリーグだ。そんなことが許されるはずもない。困惑した表情を浮かべている。

 日本のリトルリーガーはやがて、申し訳なさそうな顔をして、自分の目の前でバツマークをして練習に戻っていった。

 8月18日の昼下がり。リトルリーグ・ワールドシリーズ(以下LLWS)の開催地であるペンシルバニア州の小さな田舎町ウイリアムスポートでのことだ。

 前夜、LLWSのテレビ中継の解説者ジェシカ・メンドーサが、こう言っていたのを思い出す。

「リトルリーグ・ワールドシリーズでプレーしている選手たちは全員、ヒーローなのです。会場では、代表のユニフォームを着た少年たちにサインを頼む子どもたちの姿が見られますし、大人にとっても彼らは特別な存在なのです」

メジャーリーガーが、リトルリーグに声援。

 その日はメジャーリーグのリトルリーグ支援プロジェクトの1つで、シカゴ・カブスとピッツバーグ・パイレーツの選手たちが全員でLLWS会場を訪問し、出場選手たちを激励する予定だった。両チームの選手たちはその後、リトルリーガーをダウンタウンのマイナーリーグ球場に招待し、彼らの前で公式戦を行うことになっていた。

 日本のリトルリーガーとアメリカ人の少年2人が触れ合ったのはLLWSのサブ球場だったが、そこにも当然メジャーリーガーはやって来た。

 彼らの目前で、よく鍛えられた日本のリトルリーガーは、シートノックで軽快に右前へのゴロをさばき、ワンバウンドで本塁へ鋭い球を返す。

 それを見ていたのがカブスの選手より一足先にやって来たパイレーツのジョー・マスグローブ投手で、彼は日本のリトルリーガーの流れるような動きを見て、少し興奮気味に「Good play, man! Good play!」と叫ぶのだった。

ダルビッシュもプロ・アマ交流に献身的。

 それに気づいた日本のリトルリーガーが、とても謙虚にちょこんと帽子のひさしに手を当てる。メジャー通算25勝右腕は、それで自分のはしゃぎっぷりが大げさだったことに気づき、「お、おう……」とばかりに、少し慌てた素振りで帽子を取った。

 2人が交わしたメッセージはおそらく、「ありがとう」と「You're welcome(どういたしまして)」。メジャーリーガーとリトルリーガーの立場が逆転していた。

 もちろん、リトルリーガーにとっては、激励に来てくれたメジャーリーガーこそがヒーローである。

 カブスのダルビッシュ有投手を間近で目撃した日本の少年は、思わず「本物だ!」と飛び跳ね、素直に喜びを表現していた。

「僕も中3の時、ボーイズリーグでサンフランシスコに2週間ぐらいホームステイする機会があって、とても良い経験になった。彼らは小学生だけど、せっかくの機会なので良い経験をして、楽しんでいって欲しいと思う」

 とダルビッシュ。献身的だったのは彼だけじゃなかった。カブスの主砲アンソニー・リゾ一塁手やパイレーツの主砲ジョッシュ・ベル一塁手を筆頭とする両チームの選手たち全員が、彼ら自身の試合前の貴重な時間を「プロアマ交流」のために費やした。

コミッショナーがダルに駆け寄って……。

「この素晴らしいゲームをプレーしたい子どもたち全員に、その機会を与えることが大事だというメジャーリーグの信念を、この組織(リトルリーグ)は共有してくれているのです」

 そう言ったのは、メジャーリーグの「最高責任者」であるロブ・マンフレッド・コミッショナーだった。

 現在のメジャーリーグ繁栄の貢献者である前任のバド・セリグ氏から重要な任務を引き継いだ後継者である。カブスのバスが到着するや否や、ダルビッシュが乗り込んだカートに素早く駆け寄り、リトルリーガーたちへの激励について感謝の意を述べたという。

「驚くことはなかったですね。あの人はワールドシリーズのグリエルの時も、わざわざ僕のところに来て話をしてくれたので」とダルビッシュ。

(2017年のワールドシリーズ第3戦で、ダルビッシュから本塁打を打った元DeNAのユリエスキ・グリエルが、両目をつり上げてアジア人を蔑視する仕草をした時のこと。グリエルはその後、コミッショナー裁定で公式戦5試合の出場停止処分を受けている)

 メジャーリーグのトップが、1人の日本人選手のために示したリスペクト=敬意。それはその場にいたすべてのメジャーリーガーにも等しく示された。

アメリカでも、野球人口は減少中。

 自身も元リトルリーガーであるコミッショナーは、「プロアマ交流」をとても積極的に推し進めている。

 目的はもちろん、米野球界の「底辺拡大」である。

 どうしてアメリカのプロ野球は、「底辺拡大」に動くのか?

 それは彼らがすでに、ベースボールが「National Pastime(国民的娯楽)」と呼ばれていた時代が、終わって久しいということを知っているからだ。

 テレビの視聴率ではアメリカン・フットボールやバスケットボールに凌駕され、競技人口でも(信じられないかも知れないが)サッカーに押され気味なのが現状だ。

 このまま何もしなければ、競技人口はどんどん減り続ける。

 結局のところ、メジャーリーグは必死なのだ。

 リトルリーグへの支援活動も、ソフトボールやアメリカン・リージョン(13歳から19歳のアマチュア野球)などへの支援活動も、すべては野球という名の一大産業の未来を考えての行動である。

野球人口が減れば、未来はない。

 未成年の野球選手を「見世物」的に扱うことに関しては批判的な意見もあるし、少年野球の選手をヒーローとして崇めることに抵抗感がある人もいる。

 しかし、若い世代が「野球離れ」してしまえばプロ野球に未来などない。

 そして、その現実に真摯に向き合っているのがコミッショナー自身であり、それゆえに彼の次の言葉がとてもリアルに感じられる。

「若い選手やファンがこのゲームに向き合うことに対し、メジャーリーグには大きな責任があります」

 野球の未来に対するメジャーリーグの責任。

 高校野球の在り方や、競技人口の減少がニュースになる昨今、日本のメジャーリーグ=プロ野球には、どんな責任があるのだろう――。

文=ナガオ勝司

photograph by Getty Images


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