浦和レッズは“硬派”をやめたのか。「観客1万人減」からの新たな挑戦。

浦和レッズは“硬派”をやめたのか。「観客1万人減」からの新たな挑戦。

 Jリーグで一番熱狂的なクラブといえば?

 そんな質問を受けたら、多くの人が浦和レッズの名前を挙げるだろう。

 ホームスタジアムの埼玉スタジアム2002に響くサポーターの大歓声と、鮮やかなコレオグラフィー。クラブが打ち出す「REDS WONDERLAND」という表現がピッタリである。

 しかしその熱さは一方で、はじめてスタジアムに行く人や、もしかすると他クラブのサポーターにも“敷居の高さ”を感じさせているのではないか。

 実際、「Jリーグ スタジアム観戦者調査2018」によると、2018シーズンから新たにレッズの試合を観始めたという新規層の割合は「1.3%」。これはJ1で最下位なのだという。

 もちろんこの数字は根強い固定ファン・サポーターが多いという、何よりの証拠だ。ただし、新規開拓に難しさがあるのは間違いない。

レッズは変わろうとしている?

 そんな事実がある中で、3月30日のFC東京戦の告知を見て、ビックリした。

「『翔んで埼玉シート』登場!」

「埼玉への徹底的なディスりが強烈なインパクトを放つ、今話題の衝撃的コミック『翔んで埼玉』に登場する名言のひとつ、『埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!』という壇ノ浦百美のセリフにちなんだ『翔んで埼玉シート』だけの限定特典が付く企画シートです」(クラブ公式サイトより)

 どうしちゃったレッズ、こんな企画やるクラブだったっけか。

 それが、最初に見たときの正直な印象だ。

 しかし今シーズンのホームゲームを見ていると、レッズは柔らかな企画を続々と仕掛けている。例えば5月3日の磐田戦では『Go Go Reds!デー』として小中高の学生の入場料を一律550円にし、埼スタの入り口にあたる南広場で大々的に集客イベントをやっていた。

 ちなみに昨シーズンはファン感謝祭にあたる「レッズフェスタ」で、宇賀神友弥や橋岡大樹、荻原拓也ら下部組織出身メンバーが告知ポスターに出演したのだが、そのレイアウトがアイドル雑誌よろしく笑顔で映っていた。

 レッズは変わろうとしている?

 徐々に膨らんできたそんな思い。本当かどうかを確認するには“レッズの中の人”に聞くしかない。そう思い連絡すると、広報の星野高明さんが応対してくれた。

平均観客数は全盛期から1万人減。

 星野さん、率直に聞いちゃうんですが、絶対“ライト層狙い”にシフトしてますよね?

「これは大前提なんですが、僕たちはピッチ付近では極力“柔らかめの企画”をやらないし、マスコットも登場しない。スタジアム内の雰囲気を柔らかく変えてしまおうだなんて全く考えていません。このスタジアムの熱狂は、ファン・サポーターの皆さんと僕たちにとって最大の財産だと考えています。『レッズって柔らかくなっていくんですね』と思われたかもしれませんが、そういうことではないんです」

 ……あれ、やっぱり硬派なのか。しかし、星野さんはこのように続ける。

「ただ、硬いか柔らかいかの二者択一ではなく、多面性や多眼的な視点を大事にしたいと考えているんです」

 かつて浦和は、1回目のACL制覇などを果たした2000年代中盤に、平均観客数4万5000人を超えた時期もあった。しかし2018年は3万5000人台だ。3万3000人台だった年もあるので、昨季は持ち直した数字ではある。ただ言い方は厳しいが、約1万人の足が離れているのも事実。“レッズバブル”の状態が終わり、あらためて集客を考える段階に入ったのだ。

「浦和レッズには、2万人強のシーズンチケットホルダーの方がいらっしゃいます。こうした方々を中心とした、既存のファン・サポーターの方々は私たちにとって宝物です。

 ですがそれと同時に、キャパシティが6万3700席というアジア最大級のサッカー専用スタジアムをホームスタジアムとする私たちは、既存のファン・サポーターの方々と共有してきた空気感を大切にしながら、もっといろんな趣味、嗜好、価値観を持った方々にも来ていただける環境作りをしてもいいんじゃないか、と。クラブ内で侃々諤々議論を重ねた結果、こういった取り組みを試みることにしたんです」

「席割りの細分化」の狙い。

 試みは多岐にわたっている。

 例えば、8月23日の松本山雅戦では、数量限定のタピオカミルクティーを発売したのだ! ……いや、それよりも象徴的なのは、席割りの細分化、南広場のエンターテイメント化である。

 前述した企画チケットだけでなく、浦和は今季から席割りを細分化した。その中の1つに「ウェルカムシート」というものがある。クラブが「はじめての観戦の方におすすめのお席」と明記しているこの席は、選手やクラブについて説明してくれるコンシェルジュを常駐させている。そして大人でも2000円台、子供なら750〜1200円という、自由席とほぼ同価格の設定にしてある。これには明確な狙いがあるのだという。

「初めて来る方の多くは、まずはお試しでと一番安いチケットである自由席を買われます。そしてその方たちの中には、心の準備が出来ないままに世界のトップ5とも評される浦和レッズのゴール裏に入り、大きな声と手拍子で応援する環境に身を投じることになります。勿論、その体験が必ずしもネガティブなものになるとは言い切れませんが、ご本人にとっても、そして既存のファン・サポーターにとっても不必要なストレスが生じてしまう可能性は否定できません。

 ブランドイメージ調査に紐付くグループインタビューで、普段ゴール裏で応援してくださっているサポーターの方から『レッズはもっと家族連れで来やすいスタジアムにした方がいいよ!』とおっしゃっていただいたことがあります。その時に、『ぜひそれを目指したいと思ってるんですけど、そうすると例えば、コンコースを子供たちが走り回ったり、レッズのことをあまり知らない方も皆さんの近くで観戦される可能性も出てきますよね』とお伝えすると、『うーん、それは……』という反応を示されていました。

 その方が、子供たちやレッズの事をあまり知らない方には埼スタに来てほしくないと思っている訳ではないにもかかわらずです。このやり取りからも、来場者の多様な要望にマッチする多様な観戦環境を、私たちが作れていない、作らなければならないということを感じたんです」

 熱心にチームをサポートしたいサポーターと、ちょっとカジュアルにサッカーを愉しみたいファン。それぞれにマッチした環境をきっちりと整備することにしたのだ。

女性、親子、学生にサラリーマン。

 ちなみに話を聞いたのは7月31日、鹿島アントラーズ戦でのタイミングだった。話を聞き終わるとキックオフ直前だったので、ウェルカムシートに足を運んでみた。

 ほぼ埋まっているウェルカムシートでは、ピッチにスマホを向けて写真を撮る女性もいれば、ご飯を食べながらのんびり見ている親子連れ、そしてチャンスになれば熱い拍手と声援を送る学生たちやサラリーマン勢と多種多様だった。

 そして地味かもしれないが、コンコースには「ウェルカムシートはこちら」という張り紙も貼ってあった。こんなご新規さんに親切な観戦環境を提示することこそ、星野さんが表現した「多面性」に当たるのだろう。

 そして南広場のイベントを強化していることも、間口を広げる試みといえる。

「スタジアム内ではこれまで同様、サポーターの皆さんと一緒に戦う空気を作っていきますが、外、つまり南広場は色んな方が楽しめる空間にしましょう、と。“チケットをもぎった先は戦う場所”という線引きをきちんとした上で、こちらではどんどん楽しいことをやろう、という考えです」(星野さん)

元“中の人”が企画する南広場。

 そんな南広場のイベントを取り仕切っている、競技運営部の関口勇太さんにも話を聞いてみる。関口さんも根っからのイベンターというわけでなく、元はゴリゴリの“スタジアムの中の人”だった。

「試合日はスタジアム内でチームに近い立場で、彼らがプレーしやすい環境を整えることを業務にしていました。なのでスタジアム内での選手の躍動する姿やファン・サポーターの熱気ある雰囲気は知っていましたし、直接肌で感じる場所で仕事をしていたんですが、お恥ずかしい話、『来場者の皆さんがどう来て、どう楽しんでいるのか』というのがまったくわからなかったんです」

 そんな素人のような状態だった関口さんだが、クラブの間口を広げるタスクを任されたからには全力を尽くしている。「多くの人に『浦和レッズ、毎試合、面白いことやっているよね』と思わせたい」と意欲を語る通り、これまでのレッズにはなかったイベントを仕掛けている。

 前述の磐田戦では、東武動物公園や埼玉高速鉄道とコラボしてミニ動物園やミニSLを走らせるなど、10個以上にもわたるイベントを手掛けるなど、試みは実を結びつつあり、先述の『Go Go Reds!デー』でも5万人以上の来場者を記録した。

ピッチ外で「また来よう」を増やす。

 その一方で、実際にやってみると想定外のこともある。

 8月4日の名古屋グランパス戦でのこと。様々な銘柄を用意したビールフェスタを開催した。ただ最近の酷暑を踏まえて日陰スペースを作ったところ、ファンが続々と集結。1000人単位が集い、超人気ビアガーデン状態になったのだという。あまりの盛況ぶりに、「キックオフ前には全銘柄が完売になってしまいました……」(関口さん)

 こんなハプニングはあれど、イベント自体はほぼ好評のようだ。そこに関口さんは手ごたえを感じつつ、勝ち負けを超えた部分が自分にとっては勝負なのだと心がけているという。

「僕らはピッチでの勝ち負けに対してはどうにもならない部分があるので、それ以外のところを楽しんでもらうには、を突き詰めています。試合前に楽しんでもらって、試合を90分間見てもらって、結果は勝って次につながるのが一番理想なんですけど、このイベント楽しかったからまた来ようねって言ってもらえることが僕の今の役目だと思っています」

 実際「イベントのおかげで、負けたけど心が少しだけ安らいだ」というファンの声を聞いたこともある。

 そのことを伝えると、星野さんはこのように話していた。

観客の思考には複数の軸がある。

「勝ちにこだわるのがプロクラブの使命だし、そこからは絶対に逃げられない。勿論、逃げるつもりもない。ただ『浦和レッズとはこういうものだ』という定義を、クラブ内の僕たちがいつからか、非常に狭い範囲で強く決めつけ過ぎていたのかもしれません。

 俯瞰で考えてみると、ファン・サポーターの方々の思考には複数の軸がある様に感じます。例えばその人がクラブを愛する熱量を表すコア度と、サッカーへのストイックさを表すコア度が同じとは限らないとか。“サッカーだけで良いんだ”という人の場合、熱量、ストイック度の両方が高い。今まで僕たちはサポーターの方々について語ったり考えたりするとき、そういう方をイメージすることが多くて、『熱量が高い方たちはみんな、ストイック度も高い』って決めつけてしまっていた。

 だけどレッズのことめちゃくちゃ好きなんだけど、ポップな楽しみ方が好きな人もいる。熱量がすごく高い一方で、ストイック度でいうと、もう少し“ゆるやかに1日を楽しもう”と考えている。南広場などでのイベントを喜んでくださるのは、必ずしも応援歴の浅い方ばかりではなかった。そういった発見もできました。

 ある意味で“近視眼的に真面目にやりすぎていた”部分について、少し考える角度を変えてみたり、柔軟性を以て考えてみたり、多眼的な視点で見ようと意識する、そういう勇気や想像力を持つことも必要だと思います」

 大槻毅監督体制のもとでレッズは一進一退のシーズンを送っている。その戦いの場に1人でも多くのファン・サポーターが来てほしいから――。

 今までの考え方を変えたわけではない。でも、レッズの中の人たちはこれまでとは違う勇気を持っている。

文=茂野聡士

photograph by URAWA REDS


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