鳥谷敬の引退勧告は「冷たい」か?ベテランの進退に求められること。

鳥谷敬の引退勧告は「冷たい」か?ベテランの進退に求められること。

 これは生え抜きの功労者への冷たい仕打ちなのか。

 それともせっかく用意された花道を踏みにじる行為なのか。

 阪神の鳥谷敬の去就が取りざたされている。

 はっきりしている事実を書くと、球団は8月29日に鳥谷と話し合いの場を設けた。鳥谷自身が説明した言葉を借りると、その席で伝えられたのは「引退してくれないか」という勧告であり「事実上の戦力外」。

 球団から投げられたボールについて、鳥谷は「どんな選択をしたとしても、タイガースのユニホームを着てやるのは今シーズンが最後」と退団を明言した。

かけ違った両者のボタン。

 その言葉を報道陣から伝え聞いた球団幹部は「まあ、要約すればそういうことになるんでしょうが……」と困惑していた。

 球団としては周囲が騒ぎ始める前に、鳥谷にチームの方針を伝えたかった。あなたが納得してくれるのなら、長年の貢献にふさわしい場を用意したいと。それを意訳してしまうと「引退してくれないか」となる。そうだといえばそうだし、違うといえば違う。

 タイガースは生え抜きの功労者だからこそ、立派な花道をつくり、ファンの拍手とともに送り出してあげたかった。しかし、鳥谷はそうは思わなかった。なぜならば「まだやれる」と思っている。

 両者のボタンは、はじめからかけられる余地などなかったわけだ。

 鳥谷は通算2082安打を放ち、タイガースの生え抜き野手としては藤田平に続く名球会入りを果たした。派手さこそないが、黙々と出場を続けるフィジカルの強さ、それを支えるストイックな姿勢は阪神ファンには周知の事実だ。

 その一方で今シーズンは、9月11日のヤクルト戦でようやく初打点を記録したものの、17安打、打率.205にとどまり、本塁打はまだない(9月11日現在)。

ネックになった年俸4億円。

 そして、今季の年俸は4億円となっている。

 成績が低迷しており、出来高契約による報酬がそう多いとは思えないが、それでも関係者筋に尋ねると「4億円ではきかないはず」という声もあった。筆者の取材の経験からいっても、選手名鑑などに記載される額が実際より多い例は聞いたことがない。そうなれば少なくとも4億円という表現が的確に思える。

 もちろん、この額は球団と鳥谷が交渉して合意したのであり、胸を張って受け取っていい報酬だ。しかし、同時に来シーズンの契約を検討するとき、この金額と成績は非常にアンバランスなのは間違いない。

 実際にどんなニュアンスで伝えたかはともかく、タイガースに「引退してくれないか」と言わせた理由は、38歳の年齢とこの金額に尽きる。若手野手も少しずつ成長しており、来シーズンに成績がV字回復することは期待できない。組織はそう判断したということだ。

逆オファーはできなかったのか。

 引退セレモニーを行う。本人が望むならポストも用意する。約束するわけにはいかないが、将来的には監督の有力候補でもあるだろう。そういったことをいかにうまく伝えたとしても「まだやりたい」と思っている鳥谷には「引退してくれないか」以外に聞こえないということである。

 裏を返せば、鳥谷の方も球団が最も懸念している材料を解消する提案をすればよかった。

「球団の考えはよくわかりました。でも、私はまだ現役にこだわりたいのです。年俸は10分の1、いや20分の1でもかまいません。プレーするチャンスを与えてはもらえませんか?」

 今後、自由契約となった鳥谷の獲得に名乗りを上げる球団はあるかもしれないが、確実にこの仮定の金額以下の条件が提示されるだろう。新しい環境を求めたいのなら別だが、現役であることが最優先だとしたら、引退勧告に対抗しうる最も有効なのがこの逆オファーだったと思う。

松坂は現役続行も、去就は白紙。

 鳥谷と同時進行するかのように来季の去就が動き出しているのが中日の松坂大輔である。9月1日に加藤宏幸球団代表と会談。鳥谷と違うのは、来季の契約についてドラゴンズは「白紙」であると言い続けていることだが、松坂本人はこの席で「来年も中日でやるのがベストです」と気持ちを伝えた。

 現役への意欲という点では通じるが、現時点での球団の方針に違いがあるのは年俸面が理由だろう。松坂の推定年俸は8000万円。昨シーズン同様に手厚い出来高契約が結ばれているようだが、登板2試合で防御率16.88ではほとんどクリアしていないはずだ。

 しかし、来シーズンへの期待値という点ではこちらも心許ない。肩よりも右肘の状態が思わしくなく、そもそも日本球界復帰後の5シーズンで戦力となれたのはカムバック賞を受賞した昨シーズンだけ。松坂の思いを球団がくみ取ったとしても、大減俸となるのは言うまでもない。

フロントマンの存在価値。

 編成にも携わる中日球団関係者は、こんな見通しを語っている。

「投げられさえすればグッズが売れる、観客動員力もあるという声がありますが、実際に松坂の登板により、球団が潤った分はいくらなのか。精査する必要があります。そもそも人気があるから、グッズが売れるから契約しようというのが果たして正しいのか。他の選手との公平性を保つという意味もあります。極端な話ですが、球団には育成でもやる覚悟があるのかという声もあるのです」

 松坂ほどの選手が現役続行を望んでいる。活躍する姿を見たいと思うファンもたくさんいる。

 しかし、活躍しないことも考えるのがフロントの仕事だ。

 その選手の実績に対してリスペクトを欠いてはいけないが、果断な対応をとらなければならない時期は必ず訪れる。「やりたいです」だけがまかり通っては、フロントマンの存在価値などなくなってしまう。「冷たい」「仕打ち」と選手を擁護したいファン心理もわからぬことはないが、村田修一や西岡剛(現役)もNPBから声はかからなかった。

 選手本人も含め、もう少しドライになる必要はあるのではないだろうか。

文=小西斗真

photograph by Kyodo News


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