CLで最もゴールを奪ったアジア人、ソン・フンミンの「ごめん」秘話。

CLで最もゴールを奪ったアジア人、ソン・フンミンの「ごめん」秘話。

 昨季のチャンピオンズリーグで準優勝したトッテナムのシーズン最優秀選手は誰か。

 世界中の公式サポーターズクラブが選んだのは、生え抜きのハリー・ケインでも、準決勝の大逆転劇の立役者ルーカス・モウラでもなく、印象的な活躍を継続的に披露したソン・フンミンだった。

 現在27歳の韓国代表は同じく公式サポーターたちの選ぶ、昨季のベストゴール賞も受賞している──昨年11月のチェルシー戦でハーフウェイライン付近から独走して決めた驚愕の一撃だ。

「めまぐるしいシーズンだったね」と新しい本拠地でのセレモニーでソンはにこやかに言った。

「このような賞(最優秀選手賞)は、チームメイト全員に与えられるべきものだと思う。いつも言っていることだけど、僕はこのシャツを着てプレーできることを心から誇りに思っている。僕は世界でもっとも幸せな男だね」

 きっとその言葉に偽りはない。チャンピオンズリーグで最も多くのゴールを決めたアジア人選手となり、名実ともに史上最高のアジア人アタッカーとなった彼は、誰とでも分け隔てなく接するナイスガイとして知られている。それはこの稿を書いている著者も肌で感じたことだ。

ミックスゾーンでの「ごめんなさい」。

 2年前の11月、ドルトムントの本拠地で行われたチャンピオンズリーグの一戦で、スパーズはソンの決勝点で逆転勝利を収めた。その試合を取材した僕は終了後、お隣の国のスーパースターに話を聞こうと思い、ミックスゾーンで彼を待った。

 もちろんそこには多くの韓国人記者がいて、チームで最後の方に現れたソンはまず、彼らの質問に答えていた。

 残念ながら韓国語を理解できない僕はその集団の外でタイミングを待ち、同胞たちとの会話を終えたソンに英語で話しかけた。

 すると彼は、「本当に申し訳ないけど、もうバスが出てしまうんだ。せっかく来てくれたのに、ごめんなさい」とこちらをまっすぐに見て言った。とてもすまなそうに。

根底にある厳しい父の教え。

 時間があっても、何度呼びかけても、素通りする選手はいる。

 でもソンは違う。

 どれほど有名になって、目にする景色が変わっても、他者を敬う気持ちは忘れない。

「もし君が良いフットボーラーでも、他の人に敬意を表せなければ、何者にもなれない」

 元プロ選手だった父の教えだ。今年3月に『ガーディアン』紙にソンはそう語っている。厳しい父はソンが少年だった頃、息子に4時間のリフティング──もし一度でも落とせばやり直させたという──を課し、「3時間を過ぎた頃には、(充血した目を通して)地面が赤く染まっていた」という。

 ただしその厳格な父を含む周囲のサポートがあったからこそ、今の自分があると自覚しており、年間700万ポンド超のサラリーを受け取る現在も、両親と一緒にロンドンで暮らしているそうだ。

「才能だけでは、プロでやっていけない」と謙虚に語るソンは、マウリシオ・ポチェッティーノ監督との出会いにも感謝している。

「素晴らしい指導者と出会うことや、運も重要だ。彼(ポチェッティーノ)のもとで、僕は驚くほど成長できた」

飛躍のシーズンで味わった悔しさ。

 タイミングよくマークを外してボールを受けると、即座にトップスピードで駆ける。最高速度でも技術が落ちることはなく、広い視界を確保できているから、寄せてきた相手の逆を取れる。両足を遜色なく使いこなし、長い距離を走った後でも、冷静にシュートをゴールに収める──ちょうど昨季のチームベストゴールのように。

 今春に開場したトッテナムの新本拠地で、最初にゴールを奪ったのもソンだったし、チャンピオンズリーグでのこけら落としでも、彼が最初にネットを揺らしている。昨季が彼の飛躍のシーズンになったのは間違いない。

 ただし、最後の最後に苦い思いを味わったのも事実だ。プレミアリーグの第37節に相手を突き飛ばしてレッドカードを受け、チャンピオンズリーグ決勝ではリバプールにスコア(0−2)以上の完敗を喫した。

CL決勝進出が目標ではない。

「チャンピオンズリーグの決勝に進出することが目標ではなかった」と『メール』紙でソンは振り返っている。「そこで勝ちたかった。敗北の後は、本当に辛かった」

 その雪辱を胸に、ソンは新シーズンのチャンピオンズリーグに挑む。オリンピアコスとの初戦は日本時間18日深夜25:55にキックオフを迎える。

 ソンはリーグ戦でレッドカードのサスペンションにより開幕2試合に出場できなかったが、復帰3戦目となった先週末のクリスタルパレス戦で爆発。2得点を挙げるなど、攻撃の主軸として4−0の勝利に貢献している。

 絶好のタイミングで調子を上げてきたアジア随一の攻撃者が、今シーズンもチャンピオンズリーグを沸かせてくれるはずだ。

文=井川洋一

photograph by Getty Images


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる

あわせて読む

主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索