「五輪のデザイン」を作るお仕事。日本の美意識を平安時代まで遡って。

「五輪のデザイン」を作るお仕事。日本の美意識を平安時代まで遡って。

【デザインディレクター】
オリンピック・パラリンピックの会場装飾や公式グッズなど、大会を印象づけるビジュアルは、同一の基本要素をもとにデザインされている。もちろん東京2020も例外ではない。デザインディレクターにその制作過程と狙いを聞いた。

 オリンピック・パラリンピックにまつわるデザインといえばエンブレムが頭に浮かぶが、もう1つ大きな役割を担うデザインがある。大会のビジュアルを統一するための基本要素「コアグラフィックス」だ。競技会場の装飾から大会チケットやライセンス商品まで、すべてこれをもとにデザインされる。前回のリオデジャネイロ大会では自然を思わせる緑や青の色彩がコアになっていた。

 沢田耕一は電通で多くの人気CMを生み出してきた。その経験を生かし、2020年東京オリンピック・パラリンピックのコアグラフィックスの設計と応用のデザインディレクターを務めている。

「広告は思いつきだけだとうまくいかず、何のためにやるのかといった基本コンセプトがないとダメ。15秒のCMでもとことん掘り下げて考えます。今回はそのスケールがさらに大きくなったもの。ロンドンでもリオデジャネイロでもパリでもない、日本と東京らしさを込めたいと思いました」

平安時代に確立した「日本の色の美意識」。

 チームのメンバーは沢田を含めて5人。まず調べたのが、日本の色の歴史だった。

「最初に人に話を聞いたり、本を読んだりする作業を山ほどするんです。自分の知識だけでは、自分の限界を超えられませんから。専門家にお聞きすると、日本らしい色の美意識が確立したのは平安時代だそう。それ以前は中国の影響で派手な色が好まれたのが、貴族や清少納言といったおしゃれな人たちが日本らしい色を追い求めたと」

 平安貴族には資金があり、見たことがない濃い赤を目指して何度も染めが繰り返された。次第に黄色の要素が抜け、オリジナルの紅色が生み出された。

「当時の人は自然の中から紅、桜、藍、藤、松葉といった色を見つけた。これらを並べるだけだと、色相のジャンプが激しくまとまりがないのですが、十二単で使われている『かさねの色目』の同系色で構成する色彩の表現にヒントがありました。同系色が並ぶと、日本らしさが生まれた。十二単に倣い、同系色を6段階のグラデーションにして色彩を構成する方法に決めました」

日本的な色彩に、東京のモダンを足す。

 こうしてコアの方向性が定まったが、まだ完成には遠い。数千あるオリンピック・パラリンピックのアイテムに調和するか、実用性を検証しなければならないからだ。

「いいと思ったデザインでも、実際に出版物やTシャツに落とし込んでみるとブレやズレが見えてくる。論理性は合っていても、デザイン展開が上手くいくかは、やってみないとわからない。色をどう重ねるか、6カ月くらい試行錯誤しました」

 その結果、新しい表現方法に行き着いた。

「『かさねの色目』の色彩構成を円弧でトリミングすると端正な印象になる。それに白を色として意識して加えると、より日本らしく祝祭感が表現できた。さらにひらめいたのは日本的な色彩ばかりを掘り下げるのではなく、東京のモダンをプラスすること。まだ公表できませんが、世界の誰もが知っている日本・東京の文化をそこに載せたいと考えています。世界初の試みになると思います」

「喜びを感じるのは終わったときかな」

 基本要素のコアグラフィックスを発展させ、実際に大会で使うデザインを「大会ルック」と呼ぶ。今年7月、日本橋が大会ルックの装飾でラッピングされ、街が紅色に染まった。公式ショップで「かさねの色目」をモチーフにした商品の販売も始まるなど、次々に新アイテムがお披露目されている。

「約4週間の大会に向けて、4年近く準備するプロジェクトはなかなかない。オリンピック・パラリンピックが日本に来るのは数十年に1度のペース。それに関われるのは光栄以外の何物でもないです。ただし、喜びを感じるのは終わったときかな。まだ設計図ができて、応用段階に入ったところ。東京2020を観戦に来た人たちに日本と東京を感じてもらうため、すべてをやりきりたいと思います」

沢田耕一さわだこういち

大阪府生まれ。武蔵野美術大学を卒業し、'84年に電通入社。広告ディレクションからパッケージデザインや店舗デザイン、キャラクターデザインなど幅広いクリエーションを手掛け、カンヌ国際広告祭(ゴールド)、D&AD(シルバー)、ロンドン国際広告賞(ゴールド)、グッドデザイン賞、ACC賞(グランプリ)など受賞多数。武蔵野美術大学客員教授。電通在籍時から東京2020大会のコアグラフィックスの設計などに携わり、今年、同組織委員会のデザインディレクターに就任した。

文=木崎伸也

photograph by Shinya Kizaki


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