ミランの新エース、ピオンテクは“背番号9の呪い”を解けるのか。

ミランの新エース、ピオンテクは“背番号9の呪い”を解けるのか。

 21世紀ももう20年になろうというのに、サッカーの世界には“呪い”というオカルトチックなものが跋扈している。

“背番号9の呪い”にかかったのは、ミランのエースFWクシュストフ・ピオンテクだ。

 昨季、リーグ戦とコッパ・イタリアを合わせて年間30ゴールをあげ、今季からミラン伝統の背番号9をつける彼は、セリエAの開幕から2試合無得点。ポーランド代表として臨んだ9月のEURO2020予選でもノーゴールに終わった。

 呪いとは偉大なOBフィリッポ・インザーギが2012年に引退以降、ミランの背番号9をつけたFWたちがことごとく陥るスランプを指す。

呪いは確かに彼とミランを苦しめている。

「FWにとって9番は大事な数字だよ。レバンドフスキ、スアレス、ベンゼマ……世界中のトップストライカーが皆つけてる。だから今季から9番を背負えて最高に嬉しい。呪い? そんなもの信じてないし、ビビっちゃいないさ」

 ピオンテクは気丈に言うけれど、呪いは確かに彼とミランを苦しめている。

 まさかの黒星発進となったウディネーゼとのセリエA開幕戦で、新エースは1本のシュートも枠内に飛ばすことができなかった。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙からは滅多にない最低評点「4」で戦犯扱いされ、新指揮官マルコ・ジャンパオロは「ピオンテクは(2トップではなく前線で)独りの方がいいプレーができるのかもしれない」と顔色を変えた。

 続く2節ブレシア戦では先発落ちの憂き目に。試合はMFハカン・チャルハノールが前半12分にあげた虎の子の1点を守りきり何とか連敗は免れたが、チームは前後の連係が未だバラバラで、新戦力の順応不足も相まって不安は募る。

“ピストレーロ(ガンマン)”の異名をとる。

“ピストレーロ(ガンマン)”の異名をとるピオンテクのリボルバーが火を吹いたのは3カ月以上も前の6月10日、代表でのイスラエル戦が最後だ。

 バカンス明けのキャンプイン後、6試合あったプレシーズンマッチでもまったくの音無しに終わり、開幕7日前に組まれた格下チェゼーナとの最終テストマッチもスコアレスドローに終わると、現地メディアがゴール欠乏症の“呪い”と騒ぎ始めた。

 今夏の移籍市場ではポジションのかぶるパトリック・クトローネ(現ウォルバーハンプトン)とアンドレ・シウバ(現フランクフルト)が放出されたことで、ピオンテクはクラブ側からの期待と信任を感じていた。

スランプの原因は戦術とのミスマッチ?

 今年1月、19ゴールを引っさげてジェノアから移籍してきたとき、ピオンテクは背番号9を望んだ。だが、当時のテクニカルディレクター、レオナルドは「ミランの9番は与えられるものではなく勝ち取るものだ」と諭し、19番を選ばせたという逸話がある。

 コッパ・イタリアを含む後半戦で11ゴールをあげたピオンテクは、その活躍が認められ今季晴れて9番を手にした。その途端の不振なのだから、呪いの真実味が増したのも無理はない。

 スランプの原因は、新監督ジャンパオロが標榜する戦術とのミスマッチと見られている。彼は昨季率いたサンプドリアで36歳のベテランFWファビオ・クアリアレッラに得点王を獲らせたが、そのバックボーンには一貫してこだわる4-3-1-2と、ボールをもって仕掛けるサッカー理念がある。

 中盤から前の選手たちが近接し、ポジションを交錯しながら相手の守備網を攻略。クアリアレッラのようなフィニッシャー役にゴールを仕留めさせるスタイルだ。だが、ピオンテクが好むのはどちらかといえば、エリア内に広大なスペースを望める1トップ起用だ。

インザーギに呪いについて聞くと──。

 手数をかけずに最少タッチでゴールを追求する。敵のゴールエリアという荒野に立つ早撃ちガンマンは、新戦術への適応に苦しんでいる。

「呪い? そんなものあるわけないだろう」

 今季、インザーギは2部ベネベントの監督として采配を振るっている。

 伝説のストライカーは“呪いの主”扱いに困惑しながら、地元紙のインタビューでオカルトチックな話題をふられると一笑に付した。

 インザーギはミラン時代の300試合で126ゴールを奪った。赤と黒のストライプに揺れる白抜きの9番は、11年もの間、インザーギの背中に張り付き、スクデットや2度のチャンピオンズリーグなどあらゆるタイトルをもたらした。

イグアインは半年でミラノを去った。

 2012年にインザーギが引退すると、アレシャンドレ・パト(現サンパウロ)、フェルナンド・トーレス(引退)、マッティア・デストロ(現ボローニャ)、A・シウバといったストライカーたちがミランの9番を受け継いだ。そして彼らは当時のチーム事情に翻弄されながら、ことごとく9番の重みに沈んでいった。

 昨夏、リーグ最多得点記録を持つゴンサロ・イグアイン(現ユベントス)が来たときには、さすがに奴なら呪いを破ってくれるだろうという淡い期待をミラニスタたちは抱いた。だが、9番はイグアインですら拒絶し、彼は半年でミラノを去った。

 気がつけば、インザーギ以降“ヌーメロ・ノヴェ(9番)”をつけた人間の数は昨季までに8人にも上ったが、彼らは誰一人ミランの真のエースになることはできなかった。

 ミランに入団した選手は契約のサインをした後、燦然と光り輝くトロフィールームへ案内される。そこにあるのは偉大な先人たちが築いたサッカーの歴史そのものだ。武者震いしない者はいない。

ファンバステンやウェアもつけていた。

 インザーギは「自分の前には伝説の名手ファンバステンや怪物ウェアが背番号9をつけていたことを忘れてもらっちゃ困る」とも言った。

 呪いの正体とは何なのか。

 名門の重圧か、先人への畏怖か。それとも単に戦術への適応不足なのか。

 あれは、2007年冬のサン・シーロだった。

 クラブワールドカップのために日本へ旅立つ直前の試合でゴールを決めたインザーギは、試合後のざわめくミックスゾーンを慌しく駆け抜けようとした。どうしてもコメントが欲しかった僕は、ダメ元でわざとフランクに呼びかけてみた。

振り返りざま「パッシオーネ(情熱)さ!」

 ピッポ、ゴールする秘訣は何ですか?

 彼は立ち止まり、振り返りざま「パッシオーネ(情熱)さ!」とひと言だけ告げ、ニンマリと親指を立てて去っていった。

 現役時代のインザーギは、グラウンドにいる間、過去の偉大なOBとかライバルとか、そんなものは極論どうでもいいと考えていた節がある。真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐにボールに追いつき、ゴールの中に放り込むことだけを考えた。

 これだけ聞くと、インザーギは少年コミックのヒーローみたいに豪気で熱血漢のように思えるかもしれないが、本当はとても神経質で繊細な人物であることはミラン界隈では常識だ。だから、愛する古巣で呪いに苦しむ後輩ストライカーにかける言葉は慎重でやさしい。

「私はミランもFWという職業も、大事に大事に思っている。ゴールできないときの苦しみも多少はわかるつもりだ。ゴールへの直感もガッツもピオンテクは持っている。まだカンピオナートはまるまる残っているんだ。厄除けもお守りもいらない。ただ己の力を信じて、彼は彼のやり方を貫けばいい」

PKで今季初ゴールを決める。

 9月15日の3節ベローナ戦に、ピオンテクは4-3-2-1の1トップとして先発復帰した。 21分に相手の同胞FWマリウシュ・ステピンスキが一発退場し、ピオンテク自身も3分後にイエローカードをもらった。

 最終的に警告7回、退場2人の荒れた試合で、ピオンテクは今季初ゴールとなるPKを決めた。64分、ミランMFチャルハノールのシュートはベローナDFの開いた左手に当たった。今季からハンドの判定は厳格化されている。

 今季のPKキッカーとして監督から指名された通り、右足で冷静にゴールを決めると、ピオンテクはようやくお得意のガンマンポーズを披露した。

 83分のゴールはVAR判定によって取り消されたが、GKのこぼれ球に鋭く反応し、転がるボールに滑り込んで押し込む様は、まるでインザーギみたいだった。

“呪い”はまだ解けていない。

 ミランは辛勝して、上位につけている。だが、チームとしての戦い方を確立したとは言いがたい。

 ストライカーは独りでも、フィニッシュに至る考えはチーム全員と共有されていなければならない。ミランもピオンテクもまだ綱渡りの戦いをしている。

 初ゴールは決めたが、“呪い”はまだ解けていない。

 インザーギが得点王を獲ったのは、ちょうど今のピオンテクと同じ24歳のときだ。

「今季は得点王になりたいんだ。そのためなら何でもやるさ」

 次節、9月21日は開幕3戦を破壊的に勝ち進んだインテルとのミラノ・ダービーだ。ピオンテクの背中にある9番は、大一番での決定的ゴールを待っている。

文=弓削高志

photograph by Uniphoto Press


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